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「高田さんは相当強いっすよ……」ブラジリアン柔術家・高田延彦を語ろう■橋本欽也

2024/10/02 10:39 投稿

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Dropkick柔術部コーナーが久しぶりに帰ってきた! ブラジリアン柔術ライターの橋本欽也さんにドーピングから高田延彦までいろいろと語ってもらいました!(聞き手/ジャン斉藤)


RIZINアンバサダー蒼瀬くるみちゃん12000字インタビュー






――
今日はブラジリアン柔術ライターの橋本欽也さんにここ最近の柔術・グラップリング界隈のお話をうかがいます!欽也さんにこうして話を聞くのはひさしぶりですよね。

欽也 もう数年ぶりですよ。

――
欽也さんは世界中を飛び回っててお忙しそうですけど。

欽也 先月も1ヵ月くらい海外にいましたからね。ADCCやワールドマスターがあって、そのあとメキシコに行って、ロサンゼルスとサンディエゴを回ってきました。どこからも金が出ない自腹旅を1ヵ月くらいしてきて。

――え?自腹なんですか?

欽也 ADCCを取材するにもホテル代は出ないですよ。国内大会の仕事で稼いだ金を握りしめて、安宿のホテルを探して旅をしていますよ(笑)。

――
大変そうですけど、なんだか羨ましいですね。格闘技で世界を旅をするって。

欽也
 そこは楽しいでますね。これだけ長くやっていると世界のどこにも友達がいるから一緒にメシを食ったりなんだり。

――
国内では女子プロレスラーにも柔術の指導をしてるじゃないですか。

欽也
 そうなんですよ。アイスリボンのプロレスラーやタニー・マウスさんのプロレス教室でも指導してます。いまの女子プロレスラーの人たちって関節技すら知らないレベルなんで。腕十字のかけ方、逃げ方を教えたり。

――
ああ、そこは男子とは入口が違うところがあるんでしょうね。

欽也 そうそう。昔の新日本プロレスはなんだかんだ道場でガチンコをやってるみたいな幻想があったじゃないですか。いまは令和の時代だし、もちろん女子プロレスだからってところはあるかもしれないですけど、関節技をよく知らない選手が多くて。そういう人たちに技術を教えてて。これもボランティアなんですよ。

――
えっ、そうなんですか。

欽也
 これは俺なりのプロレスへの恩返しなんですよ。女子レスラーの動きがよくなればいいし、それを見たお客さんが柔術をやるかもしれないですし。

――
立派な志です! いまは柔術をやってる男子レスラーも多いですよね。

欽也  多いですよね。だって俺はいまNOAHのジュニアヘビー級チャンピオンのダガと一緒に練習してますからね。ノアにいたジェイク・リーも紫帯。

――
それこそ中邑真輔なんかもずっと柔術をやってますし。

欽也
 中邑真輔は茶帯です。あとチェリーさんもそう。

――
プロレスと柔術は密接になっている。もともとプロレスにはキャッチ・アズ・キャッチ・キャンという技術が根底にあったけど、そもそもキャッチ自体が競技でもないから、なかなか伝承はされないのが現実ですよね。

欽也
 やっぱり大会がないから密教みたいになっちゃいますよ。

――
キャッチは密教! たしかに(笑)。

欽也
 口伝で伝えていくしかない。柔術は競技として開けてるから、わりとカジュアルにやれるけど。でも、UWFスネークピットでルタリブレのセミナーをやったりして、ルタリブレもキャッチも生きているんですけどね。

――かつて柔術の宿敵だったルタリブレもコンテストじゃないから、なかなか広がりづらい。

欽也
 やっぱり自分が練習していることを披露する場がないと。発表会がなかったら自己満足でしかないじゃないですか。武道みたいな自己追求になっちゃうんで。

――
ブラジリアン柔術の競技人口はめちゃくちゃ増えてますよね。

欽也
 ここ数年でもむちゃくちゃ増えてますよね。そのひとつのきっかけがサトシとクレベルのRIZIN東京ドームですよね。

――
サトシがムサエフを、クレベルが朝倉未来をそれぞれ三角絞めで勝った大会。

欽也
 そうそう。地上波で放送されて「柔術は強い!」と世間に届いて。あの影響は凄まじくて、サトシとクレベルをサポートしてきたブルテリア(ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店)の在庫が切れたんです。もう大変な騒ぎになって、スタッフを増やしたんだけど、一過性のブームだったという(笑)。

――
ハハハハハハ!

欽也
 それでもありがたいですけどね(笑)。あの試合後の1週間は日本全国の道場に入門者が相次いだ。K-1MAXの地上波放送翌日にキックジムに入門者が殺到したのと同じです。

――
朝倉未来も柔術に興味を示しているし、高田さんも実戦デビューします。ブラジリアン柔術に注目度が高まってるんで、あらためてこのジャンルについてお聞きします……というわけで、まず聞きたいのはドーピングの話です!

欽也
 いきなりセンシティブなところから(笑)。

――
以前も欽也さんに聞いたことあるんですけども、まあグラップリング方面は無法地帯だと。いまはそれなりに規制は入ってるんですか?

欽也
 いやいや、野放しですよ(キッパリ)。


・グラップリング界のドーピングの実態
・桜庭和志は柔術が育てた?
・ブラジリアン柔術家・高田延彦は強い
・ヒクソンの恐るべき「見えない柔術」とは?……続きは会員ページへ



――
ひえ~!(笑)。検査をやり始めたという話をチラッと聞いたような気がするんですけど。

欽也 IBJJF(国際ブラジリアン柔術連盟)は優勝者と他はランダムでやってます。着なしの競技であるノーギも IBJJFが主催してるからチェックがあるんだけど。一昨年のワールドノーギかな。チャンピオン5人が検査でBANされたんですけど(苦笑)。

――
5人も! そんなに出るってことは他にもウジャウジャいるってことですよね……。

欽也
 BANされた人たちはインスタで「俺たちは悪くねえ!」って開き直ってるんですよ。その人たちは40歳を過ぎててアダルトカテゴリーで出場してるから「テストストロンを補充して若者とやり合ってるんだ。何が悪いんだ!」と。

――
ドーピングしていることがダメなんですよ(笑)。

欽也 で、そのうちの2人が今年のADCCでメダルを取りましたからね(笑)。IBJJFの管轄じゃないイベントには出れちゃうんですよ。

――北米の格闘技はアスレチック・コミッションが管轄してるから、もし出場停止処分を受ければ、どこのイベントでも試合をすることができないけど……。

欽也
 IBJJFからBANされたら2~3年のサスペンドを食らうんですよ。でも、IBJJF主催以外の大会には出れますからね。

――
MMAの場合は勝てば富と名声が手に入るからドーピングをやっちゃうところがあるんですけども、柔術の場合はどういう背景があるんですか?

欽也
 IBJJFのワールドノーギに関していえば、優勝しても賞金はないですよね。メダル1個だけ。ただ年間ランキングでトップ10に入ると賞金が出ます。それでも年間ランキング1位をで1万ドルだから、そんなにデカくはないですよね。

――
それでも手を出しちゃうのは、ただ単に勝ちたいから?

欽也 そこまでして勝ちたいんじゃなくて、カジュアルにやってるんだと思う。そこは日本人とは感覚が違うんだよね。

――
抜き打ち検査があるわけじゃないし、「だったらやる」と。

欽也 そうそう。優勝した選手にはテストがあることは事前にわかってんのにそれでも喰らうわけじゃないですか。さっき話したBANされた人たちは表彰台に上がらず、テストを受ける前に逃げちゃったんですよね。

――
表彰台に上がらないって!

欽也
 USADAの検査員がジムまで追っかけて「おしっこを出せ」と。そして陽性反応で捕まるという。

――
地獄の果てまで追いかけるUSADAもさすがですけど、逃げるほうも逃げるほうですよ(笑)。柔術やグラップリングもお金が落ちるようになってきてるから、徐々に整備されていく流れなんですかね。

欽也
 いや……。

――
そこは「その流れだよ」って勢いよく頷いてくださいよ(笑)。

欽也
 8月のラスベガスでADCCとCJI(クレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル)という2つのグラップリングイベントがあったんですよ。この2つが賞金が出る大会としては2大巨頭。CJIのほうだと優勝すると1億円かな。それでも2つとも検査なしですから。

――
ノー検査なら1億円のために打つやつはゴロゴロ出てくるに決まってますよ!(笑)。

欽也
 そうですよね。信号無視はダメなんだけど、信号機がないんだから仕方ないわけで。柔術でもドーピングチェックがあるのはIBJJFのパンナム、ムンジアル、ワールド・ノーギ、この3つだけです。他はチェックがされてないから、少しでもパフォーマンスを上げるために……という現状ですね。

――
ナチュラルで頑張ってる人もいるわけですよね

欽也
 います。ONEのグラップリング王者ルオトロ兄弟はナチュラルですよ。それでCJIで優勝してゴードン・ライアンにケンカを売ってますね。

――ゴードン・ライアンは最強と言われているグラップラーだけど、じつはバリバリのユーザーなんですよねぇ。

欽也
 打ってることを隠してないというか、公言はしてないけど、まあ盛り盛りですね。身体が大きくなったり、内臓を悪くしちゃって萎んだり……健康上の理由で試合ができないから引退宣言して、身体が治ったから復活しますということだったんですよね。

――
UFCも10年前ぐらいまでは抜き打ち検査をやってなかったんですけど、ビジネスとして回り始めてからいまの体制になって。

欽也
 やっぱりお金がかかることじゃないですか。毎年チャンピオンがBANされてますけど、「どんな競技なんだ?」って話なんですけど。

――柔術&グラップリングの中の人たちからすれば、その異常さが日常的な風景になって麻痺しちゃってるところもあるんですかね。

欽也
 正直、俺もなんとも思わなくなっちゃってる部分はあるっすよね。

――
欽也さんも打ってるんじゃないんですか?(笑)。

欽也 いや、打ってたらこんな身体にならないですよ!(笑)。しかも隔月で血液検査してるし、今月は心臓カテーテル検査を受けますからね。

――
欽也さんはシロだと(笑)。話題は変わって、高田さんがブラジリアン柔術デビューするんですよね(この配信は高田延彦・激勝デビュー前に収録)。

欽也
 はい、ワンマッチでデビューします。

――
欽也さんは高田さんと繋がりがあるんですか。

欽也
 高田さんと柔術をやられてるアラバンカ柔術の山田(重孝)さんはサトシのマネージャーで。その山田さんがやってたREALの外国人のブッキングをやってたのが自分だったんで。

――
REALはクロン・グレイシーがMMAデビューしたイベントですね。

欽也
 高田さんが柔術をやるようになって、自分がある大会の会場でメディアテーブルで写真を撮っていたら、高田さんが横に座って「欽ちゃん!」って。ほぼ初対面ですよ(笑)。

――
高田さんらしいスキンシップ!(笑)。

欽也
 そのときセルジオ・ペーニャの話をしたんですよ。

――ヒクソンのライバルだった柔術家で、PRIDE.1のときに高田さんがヒクソン戦に備えて招聘した。

欽也
 そうそう。「セルジオ・ペーニャ覚えてます?」って聞いたら「……誰だっけ?パイロットの人?」と。セルジオ・ペーニャはその当時飛行機のパイロットをやってたんですよ。高田さんに雇われたけど、ほとんど一緒に練習してなかったらしくて。セルジオ・ペーニャに聞いたら1回しか練習してなかったって。

――
そのとき高田さんが「ヒクソンとどう戦ったらいいんだ?」って聞いたら、「何もするな」と言われて余計にビビってしまったって話ですよね。

欽也
 昔セルジオ・ペーニャに取材したときに高田さんのことはオフレコだったんですよ。柔術側の人間が柔術に敵対する人間に対して柔術を教えることは反目行為。

――
修斗の後楽園ホールでエンセン井上がズールと戦ったときに、エンセンさんが試合後ズールのセコンドにブチ切れてたんですけど。ズールのセコンドが柔術家だったみたいで怒ったという話を聞いたことがあります。

欽也
 そういう時代だったっすよね。だからセルジオ・ペーニャも高田さんに雇われた件はずっとオフレコだったんです。あのときセルジオ・ペーニャの滞在ビザは3ヵ月あるからUインターの道場の若手に教えて。桜庭(和志)さんのことは「アイツはすごかった」と。バックから腕を取るサクラバロック。あれはセルジオが「俺が教えた」と言ってましたよ。あとUFCジャパンでマーカス・コナンに極めた腕十字も「俺も教えた」と。

――
それは桜庭さんがメジャーになったから「わしが育てた!」ところはないんですかね?(笑)。

欽也
 ハハハハハ。けっこう「あれは俺が教えた!」って細かいことを言ってましたよ(笑)。

――
カーロス・ニュートン戦で桜庭さんが三角締めからエスケープできたのはエンセン井上さんと練習したから……という話もありますし、確実に柔術のエッセンスが注がれていることはたしかですね。あの頃は柔術に触れなかった高田さんが50半ばから柔術を始めて、ついにデビュー戦を迎えたことは驚きです。

欽也
 日本のMMAがメジャーデビューしたのはPRIDE.1の高田vsヒクソンからじゃないですか。それまでアンダーグラウンドなものだったのが一般のメディアでも扱うようになった。あそこで高田さんが柔術の軍門に下った……という言い方はちょっとアレかもしれないけど、競技としてのブラジリアン柔術に自ら身を投じて去年もヒクソンのところに行って練習してますからね。何十年の時を経てチームメイトになる。UWFというムーブメントの中にいた人でしっかりと柔術をやってるのは高田さんだけ。還暦をすぎて練習を重ねて紫帯にまでなってますからね。

――
紫帯で柔術デビューするのがいいんですよね。現役時代の高田さんのイメージカラーは紫でしたから。

欽也
 ああ、そうなんですよ。サトシもファイトパンツを高田さんリスペクトで紫色にしたり。

――
紫帯になるのはけっこう大変なんですよね。

欽也
 大変ですよ。帯を説明すると、白帯、青帯、紫帯、茶帯、黒帯の順番です。始めた人の半分以上が青帯になれないでやめますからね。その半分が紫帯になれて、また半分が茶帯……黒帯になれるのは100人中、片手に数えられるレベルだと思う。

――
武道の世界って名誉黒帯とか名誉高段者は多いじゃないですか。

欽也
 マイケル・ジャクソンが士道館の5段になったみたいな(笑)。高田さんの紫帯は飾りじゃないですよ
――マイケル・ジャクソンと士道館は最近のファンは知らないエピソードですよ(笑)。MMAファイターでもMMAの試合で勝ったから黒帯……こともありますよね。

欽也 それでいえば2009年かな。「修斗のチャンピオンだったから柔術の黒帯!」ってことで桜井マッハ速人選手にいきなり黒帯を与えたんですよ。それで黒帯の大会に出たけど、反則の外掛けをやって反則負け!みたいな。

――
デタラメじゃないですか!(笑)。

欽也
 昔って黒帯イコールMMAでもチャンピオンクラスみたいな感じだったじゃないですか。そういう大雑把な括りで黒帯をあげちゃったんですよね。日本の柔術シーンに燦然と輝く悪しき前例だと思います。佐藤ルミナや宇野薫はちゃんと青帯からやってるんですけど。

――
帯を出す基準はどういうものがあるんですか?

欽也
 そこは技術と実力です。柔道黒帯の人って柔道の素養があるから、投げ、受け身、締めができるから、柔術の試合は青帯から出ないとダメというルールがあるんですけど。内柴(正人)さんはオリンピックの柔道金メダリストだけど、しっかりと白帯からやってましたね。近藤有己選手も白帯に出ましたよね。1回戦はアキレス腱固めで1本勝ちしたけど、2回戦でクローズドガードが割れなくて負け。あのときには「キング・オブ・パンクラシストが白帯で出るのかよ」みたいにザワザワしたけど、白帯でも勝てなかった。 MMAと柔術は別物だってことですよね。

――
最近武田(光司)選手も青帯のカテゴリーに出てましたね。

欽也
 決勝まで勝ち上がったんですけど、絞めを食らって負けちゃいました。武田選手に勝った人は一般人だし、柔術をフルタイムでやってるようなインストラクターのレベルではない。そういう人でもMMAのプロファイターに勝つチャンスがあるのが柔術ですね。武田選手はミドル級では準優勝、無差別級は3位。紫帯の新居すぐる選手は階級別優勝、無差別も3位。武田選手より1段上ですよね。それだけギに慣れてるところはあると思います。

――
朝倉未来選手も紫帯ですけど、やり込んでるってことなんですか?

欽也
 いや、俺はそこはよくわからないんですけども。あそこは堀弁護士さんがやられてる道場ですよね。だからトライフォース系列なんで、その中の基準での紫帯だと思うんですけど。朝倉未来選手がスパイダーガードとか、袖を持ってどうこうやる姿は想像つかないんですけど。紫帯ってことは、青帯以上の実力があると認められたんじゃないかなと推測しますけど。帯の基準も道場によって違うんで。トライフォースはある程度カリキュラム化されてるので、ある程度の修練度があると認められると思うので。

――
朝倉未来みたいな人気選手が柔術をやることは、ジャンルにとって大きいですよね。新規層を引っ張ってくるわけですから。

欽也
 柔術ってすごくカジュアルになってるじゃないですか。道場もいっぱい増えたし、道着もカラフルで、オッサンでもできる。カルチャースクール的な敷居の低さがありますよね。MMAになると、グローブやマウスピースを買って……ちょっと一大決心が必要だからMMAよりは楽なんじゃないですかね。今度朝倉未来選手がやり始めたら、ブレイキングダウンを見てるような人たちが「これなら俺もできる」となるかもしれないし、MMAの前段階として柔術をやるのもいいかもしれない。あとMMAファイターの第2のステップとして柔術をやる。そこは高田さんと同じじゃないですか。柔術はプロがないので、本当に純粋に趣味としてやるから、本当に好きじゃないとできないですよね。

――
MMAを引退したデメトリアス・ジョンソンも柔術に精力的ですし。

欽也
 デメトリアス・ジョンソンは去年のワールドマスターの茶帯で優勝して、今年の春くらいかな。ビビアーノ・フェルナンデスから黒帯をもらったんですよね。今回は黒帯デビュー戦で出て3回勝って4回目に負けたのかな。同じ大会には元WWEのサンティーノ・マレラも出てたんですよ。コブラが必殺技のやつ。

――
AEWのジョン・モクスリーもノーギに出ていますから、アメプロでも多いですよね。そういえばONEのチャトリもヘンゾから黒帯をもらってましたね。

欽也
 ONEの大会でヘンゾが黒帯を巻いてるのを見ましたね。

――
チャトリの黒帯は問題ないでしょうか?(笑)。

欽也
 チャトリは茶帯が長かったんですよね。日本に来たときもトライフォースやカルペディエムで練習してるし、ONEはいまタイでやってるじゃないですか。現地でも練習してるし、ちゃんとした黒帯です。

――
チャトリvs高田延彦の柔術マッチが見たくなりますね。

欽也
 まあ体重が合わないですけど……高田さんは相当強いって言いますからね(ボソっと)。

――
えっ? もう一度!

欽也
 高田さんは相当強いと聞いてますし。

――
高田延彦は強い!やったあああああ!!!!

欽也
 普通にフィジカルも強いし、トップポジションがむちゃくちゃ強い。抑え込まれたら黒帯が動けなくなります。

――
それ、UWF時代からそういう伝説があるんですよ!! 「上になったらとにかく強い」と。

欽也
 体格が同じサイズの30代の黒帯がプライベートレッスンのときに抑え込まれて動けなかったんですよ。その選手は今春にアダルトの無差別で優勝してるし、パンクラスでもMMAをやってるようなトップランクなんですけど。高田さんはかなり強い。これ、本当ですよ。

――
やっぱり上になったら強いんだなあ。高田さんがPRIDEで負け続けていたときに「高田さんは上になったら強いんだけど、上を取ったことがない」というブラックジョークがありましたけど(笑)。

欽也
 マルコス・ソウザから下からのテクニックもずっと教わって、いまは下になっても大丈夫みたいです。ボンサイファミリーのマルコス・ソウザのお墨付きですよ。

――
高田さんがMMAに対応できなかったのは、やっぱり昔のプロレス道場って先輩・後輩の純粋なスパーリングがしづらかったところがあって。後輩がガッチガチにやるわけにはいかない。Uインターの選手たちがいくら柔術を学んでも、高田さんはその輪の中に入ることができなかった。そういう時代だったんですけど、あれから20年の時を経て、アマチュアに混じってやれる。PRIDEで負けたことによって時間がかかったけどプライドを捨てられたと……。

欽也
 うまいこと言いますよね(笑)。しかもちゃんと強いってところがいいじゃないですか。今度のデビュー戦は外国人なんですよね。

――
どっから連れてきたんですか? まさかカイル・ストュージョンみたいな選手じゃないですよね? 漫画家の板垣恵介先生がまた怒るような試合じゃないですよね?(笑)。

欽也
 違います(笑)。その外国人がエントリーして試合が成立するから高田さんも出ようと。高田延彦、令和の挑戦は楽しみですよ!

――
ちなみに欽也さんの黒帯は大丈夫な黒帯なんでしょうか? 「大丈夫な黒帯」ってなんだよって感じですけど(笑)。

欽也
 グレーゾーンです(笑)。

――
グレーゾーン?(笑)。

欽也
 一応2014年のヨーロピアン選手権で優勝してるんですよ。何もなしで黒帯になると「あいつ、どうなんだよ」って言われるじゃないですか。昇格のためにわざわざポルトガルのリスボンまで行って試合をやって勝って。ヨーロピアンで勝って黒帯ならいいでしょってことで。

――
ポルトガルまで行って柔術の試合をするってロマンありますよ!(笑)。実戦を積まずに黒帯になる人もいるってことですね。

欽也
 大きな声じゃいけないけど、いっぱいいますよ。まあ俺も黒帯になって10年経って、練習も月に1~2回ぐらいしかしてないので……(苦笑)。

――
黒帯に降格はないんですか?

欽也
 ないです(笑)。実力的にいったらそれこそアダルトの人たちなんかには全然やられるだろうし。でも、ちゃんと勝って黒帯になってるから許してくれよと。

――
いろいろ質問が来ております。「黒帯の横山武司選手がアメリカで練習すると、向こうの紫帯に苦戦するレベルと言ってましたが、そんなに格差はあるんですか?」

欽也
 あります。だって横山武司が練習したのはAOJっていうアメリカでもトップランクの道場なんで。あそこのアダルトの紫帯は黒帯でも通用するレベルだと思います。日本と海外では競技人口も違うし、それこそ指導者のレベルも違うし。

――
これも以前聞きましたけど、ヒクソンは現在のブラジリアン柔術とはまた違う柔術をやっているわけですよね。

欽也
 ヒクソはインビジブル柔術という「見えない柔術」を標榜してるんですけど。

――
「見えない柔術」?

欽也
 体重移動で相手をコントロールするんですよ。体重移動って見えないじゃないですか。本当にインビジブルだから、ヒクソンの柔術は教則動画が出てないんですよね。動作で伝えられないし、体感しないとわからないから。

――
ロマンあるなあ。でも、伝承がかなり困難なんですね。

欽也
 ヒクソン道場のインスタラクターだったヘンリー・エイキンスという人がいるんですけど、その人がヒクソンの息子クロンに教えて育てたんですよ。クロンは親父のヒクソンからほとんど教わったことがないけど。

――ヒクソンっぽいのはヘンリー経由なんですね。

欽也
 クロンはMMAもやってて、そこでディアス兄弟とも練習して、また自分の中で再構築してるから。ヒクソンとも違うし、ヘンリーとも違う柔術になってるんですよね。ちなみにヘンリーからはヒドゥン柔術、「隠された柔術」を掲げてて。

――
「見えない柔術」に「隠された柔術」!

欽也
 高田さんがヒクソンのところでマインドチェンジしちゃったんですよね。「競技柔術には興味ねえ!」みたいになっちゃって。護身術だったり、いかに相手をドミネートするかにフォーカスして。いまの競技柔術はポイントで勝てばいいという世界だけど、高田さんはヒクソンのところでショックを受けたらしくて。

――
「見えない柔術」をやりたいと。

欽也
 そうそう。高田さんはもう競技柔術に出ないと思っていたんですけど、今回はたまたま自分の年齢カテゴリーで体重に合う選手がいたから、じゃあ出ようかなと。ここから定期的に出るかっていったらわからないし、最初で最後かもしれないし。

――
現代MMAは5分3ラウンドというルールに合わせた戦い方をしなきゃいけないんだけど、技術を退化させる一面もあるんでしょうね。

欽也
 トーランスにあるグレイシー・ユニバーシティはエリオの技術をそのまま残してるんですよ。いまの柔術はどんどん改良されてるけど、あえてこのままでいいと。

――
しかし、高田さんがヒクソンに触れてカルチャーショックを受けて思想が変わるって、これもいい話だなあ。

欽也
 高田さんは62歳だけど、成長過程にある中で、またここでひとつのターニングポイントになったというか、ヒクソンに触れて自分の進むべき道を知ったみたいなことを言われてました。

――
ヒクソンは技術だけじゃなくて実際に強いのに痺れるじゃないですか。40代後半でもヒカルド・アローナやパウロ・フィリオの怪力柔術野郎たちがまったく歯が立たなかったとか最高で。

欽也
 パウロ・フィリオやヒカル・アローナはカーウソン・グレイシーチーム、のちにブラジリアン・トップチームなんだけど。マリオ・スペーヒーやブスタマンチとかカーウソン・グレシーチームの人たちは「ヒクソンなんて、俺らがやれば一瞬だぜ」みたいなことを言ってて。生徒だったフィリオはマリオとかに練習でやられているから「俺たちの師匠のほうが強いんだろう」と思っていて。でも、フィリオがいざヒクソンに触れたら何もできなかったんだよね。

――
信じがたいですけど、本人が証言してるから事実なんでしょうねぇ。

欽也
 当時、パウロ・フィリオが20代でヒクソンは40代後半なのかな。おじいちゃんだけど、寝技になったらめちゃくちゃ強い柔道の達人みたいなもんですよね。それこそ本当にカルチャーショックだったと思いますよ。おじいちゃんが見下ろしてるわけですから。

――
あとヒクソンはケンカが強いのも最高ですよね。

欽也
 ヒクソンやヘンゾはそっちのほうでもいろんな逸話を持っておられるので。

――
単なるギャングですからね、あの人たち(笑)。

欽也 そこが根底にありますよね。ストリートファイトでどうしたら身を守れるか。いまの柔術がストリートファイトで使えるかどうかっていう話は定期的に出るけど、いまは競技柔術だから。当時やってたグレイシー柔術とまったく違う。グレイシーはパンチを受けても大丈夫なような構えをして組みつくんですよ。でも、競技柔術にその発想はないですから。

――
柔術とグレイシー柔術も違うし、グレイシー柔術とブラジリアン柔術もまた違う。

欽也
 全然違う。グレイシーだって枝分かれしてますからね。

――
高田さんの試合が楽しみだし、柔術のことを熱く語ってもらいたいですよね。

欽也
 ……高田さんには人を介して試合についてのコメントをもらおうとしたら「趣味でやってるからほっといてくれ」って瞬殺されましたよ(笑)。

――
ハハハハハハハハ!それが高田延彦なんですよ(笑)。取材を申し込むと「スターの鎧」をまとうんですよね。

欽也
 ああ、なるほどね。柔術の会場で会うわけじゃないですか。「高田さん、調子はどうですか?」という話もダメなのかな。初対面から「欽ちゃん!」って呼ぶ人が「どういうことなんだろう?」って。

――
取材を受けてくれるかどうか。試合結果を含めて楽しみです!<おしまい>

【編集後記】
高田延彦のブラジリアン柔術デビュー戦はキムラロックで一本勝ち! やった、高田延彦は「最強」だった!欽也さんは試合後にコメントをもらえたそうですが、激勝後の興奮冷めやらぬ中だったこともあり「欽ちゃん!」とは呼ばれなかったそうです!(ジャン斉藤)

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