プロレスラーの壮絶な生き様を語るコラムが大好評! 元『週刊ゴング』編集長小佐野景浩の「プロレス歴史発見」――。今回は武藤引退、永田三冠などす!



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――
ちょっと前の話題ですが、あらためて武藤さんの引退のお話を聞きたいなと。

小佐野 もうはるか昔の出来事になっちゃったよね(笑)。まだ2ヵ月は経ってないんだけど。

――
いまはニュースが溢れてるから、すぐに昔に感じちゃいますね。

小佐野
 あと引退後も精力的に活動してるから、引退した感じがしないのかな。ひとつの区切りがついたんだけど、まだ現役感たっぷりだしね。

――
武藤さんのWWE殿堂入りが発表されましたけど、WWEで1試合もしてないのに即殿堂入りしちゃうのもすごい話ですよね。

小佐野
 すごいよねぇ。WCWでグレート・ムタとしてスターになったけど、90年に新日本に呼び戻されて、そのまま日本に定着したでしょ。考えてみたらWCWで活躍したのって本当に1年ちょっとなんだとね。89年の頭ぐらいに出てきて90年4月に帰ってきてるわけだから。いかにムタのインパクトがすごかったかってことなんだけど。当時のWCWはWWEと競ってるときでビッグマッチを連発していたから、ムタの知名度も上がったと思うんだけど。その後、日本で武藤敬司とムタの2つの顔を使ったことで、またムタの存在が磨かれていって。

――
ムタはアメリカで生まれたんですけど、いまのムタは帰国後に日本で作られたものだから、アメリカからすると未知の強豪感もあったんでしょうね。

小佐野
 ムタもいつのまにかスタイルチェンジしてるからね。WCWのムタのファイトスタイルは日本の武藤敬司そのもので、ペイントしてオリエンタルムードを出していただけ。だから日本用のムタを作り上げて、それがまたアメリカに輸出されたってことだから。

――
スキンヘッドにしたことでムタのビジュアルも変わりましたよね。このあいだ「ムタって武藤敬司なんですか?」ってツイートしている人がいたんですが、たしかにペイントじゃなく特殊マスクのムタしか知らないと違いがわからないなと(笑)。

小佐野
 意外に特殊マスクの年数は長いでしょ。あれを使い始めたのは2002年からだから。

――
あー、もうペイント時代より長いんですねぇ。

小佐野
 2000年の大晦日にスキンヘッドになって、2002年の2月に全日本に移籍したでしょ。そして6月に特殊マスクのムタが始まってるから。

――
スキンヘッドのムタはやってないですね。

小佐野
 特殊マスクはこれはこれですごい発明だよね。あのマスクが壊されて高山善廣に三冠を獲られたことがあったけど。

――
普通のマスクにしなかったのがさすがですよね。それだと怪奇さがなくなっちゃいますし。

小佐野
 あれを考えたのもすごいけど、ちゃんと用意できたのもすごいですよ。特殊マスクについて『ゴング』でインタビューして表紙にした記憶あるもんね。特殊マスクにかぎらず、いろんな意味で革命を起こした人だよ。

――
引退試合前にヒザが悪化しちゃいましたけど、試合自体はいかがでしたか?

小佐野
 試合はやっぱり動けてないけど、本当に一生懸命やってたなって。引退試合後の蝶野正洋戦もすごかったけどね。

――武藤さんの内藤哲也に対する扱いはけっこう酷いんじゃないかなと。引退相手として呼ばれたはずなのに試合後に“真”の引退試合が始まって。

小佐野
 まあねえ。これってたとえば天龍さんがオカダ・カズチカと引退試合をやったけど、その直後にいきなり長州(力)さんや藤波(辰爾)さんを呼び出して試合をやるのと一緒だから(笑)。普通に考えたら「内藤かわいそうじゃん」って話なんだけど、まあ武藤敬司らしさが出てたなって。そんな武藤敬司の大ファンだった内藤としては、それもまたよしでしょう。

――
ある意味で一生忘れられない試合になりましたね。

小佐野
 でも、武藤が引退を発表したときに相手は蝶野をリクエストしていたけど、実際に蝶野で締めちゃったわけだからね。これはすごいよね。

――
この手は考えつかなかったですねぇ。

小佐野
 デビュー戦で勝った相手に最後に負けて終わる。ちゃんとストーリーを完結させてるんだもん。いまのコンディションで試合を受けちゃう蝶野も大したもんだけどね。

――
蝶野さんは解説席に座るときに、花道から登場する演出でしたよね。あのとき杖を突いて歩くくらいの状態だったのに、リングの中では往年の動きを見せて。

小佐野
 急遽レフェリーを務めたタイガー服部さんが最初からシューズを履いていたとか野暮な話が出てたけど、いまの蝶野がリングで試合をするってホントに大変なことだよ。

――
武藤さんも内藤戦だけでもう動けなくなる可能性もあったわけですからね。

小佐野
 蝶野だってリングに上がった瞬間、「やっぱり無理……」となっちゃう恐れもあるわけだから。リングに立った人しかわからないですけど、リングの距離感って難しいんですよ。久しぶりのリングでちゃんと動けた時点ですごいなって思いますよ。

――
やっぱりプロレスラーなんですね。

小佐野
 思い出したのはマサ斎藤さん。昔インタビューしたときにパーキンソン病で調子が悪くて本当に動けない。でも、レスリングのタックルの取り方の話になったら、「こうやって入るんだ」ってパッと動けるんだよ。やっぱりプロレスラーなんだなぁってびっくりしたよね。

――
武藤さんも普段は車椅子だったりするのにリングだと走れますからねぇ。
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