多くのMMAファイターをマネジメントするシュウ・ヒラタ氏が北米MMAシーンを縦横無尽に語りまくるコーナー。今回は井上直樹、RIZINとの契約残り1試合、中井りんサイドとのバトルなんかを13000字で語ります(この記事は1月11日にニコ生配信されたものを編集したものです)
――まず大晦日RIZINはシュウさんがマネジメントする井上直樹選手が瀧澤謙太選手に快勝しました。
シュウ いい感じの勝ち方で。これね、直樹くんをものすごく焚き付けたんですよ。
――どういうことですか?
シュウ 試合が決まって数週間ぐらい経ってから、瀧澤選手が平本くんと飲みに行って。次の日、インスタライブで2日酔いだって言ってたんですよ。ボクはたまたまそれを見つけて直樹くんに「試合が決まってるのに、2日酔いになるまで飲んでる。完璧になめられてるぞ」「こんなことされていいの? 絶対に血祭りにあげるしかない」と焚き付けたんですよ。
――マネジメントのキラーパス!
シュウ 普段お酒を嗜む程度はいいですよ。ヨアナ(・イェンジェイチック)だって毎日ワイン飲んでましたから、1杯だけですけど。2日酔いになるまではナメられてる。直樹くんみたいな、ストイックな競技者は絶対に頭にくるんだろうなってわかってたんで、あえて伝えました。そうしたらサッカーキックにヒジのゴリゴリでしょ。
――本当に“怖い井上直樹”が見えたというか。
シュウ キラーでしたね。試合後に本人も「ムカつきました」と言ってましたから。1ラウンドにポジションを取って、そこで急いでフィニッシュできたかもしれないですけども、しっかりダメージを与えて。2ラウンドに確実にフィニッシュしたのは成長したんじゃないですかね。扇久保(博正)戦で勝ち急いだことで、ボス(魅津希)にやんやん言われましたからね。直樹くんも相当、悔しかったんじゃないですか。
――「金太郎戦でそのタックルを!」って思っちゃいました(笑)。
シュウ ホントそのとおりですよ(笑)。今回は2分30秒きっかりにタックルが入ってるんです。そこまで意識していたわけではないと思いますけど、そこまでいいリズムで戦えていたということだとも思うんですね。ローで距離を取って、ジャブを当てて、次はジャブから右のコンビネーション、とそこまで打撃で押して、動きを見て。1回でもタックルが成功すると、あっちも警戒するじゃないですか。そうするとタックルを切るときにアッパーが打てるようになるんで。2ラウンド目、瀧澤選手はグロッキーだったんじゃないですかね。余力が残ってなかったように見えました。
――井上選手の次の試合がめちゃくちゃ楽しみになる勝ち方でしたね。
シュウ RIZINのバンタム級戦線を考えたら残りは2人しかいないじゃん。朝倉海選手かスーチョル選手しかいないと思うんですけど。
ただ、スーチョルはどうも今年は母国での戦いに専念するみたいですよね。その代わりにと言ってはなんですけど、アーチュレッタ選手が日本で試合アピールしてくれてるんで、彼が絡んできてくれたら、直樹選手的にはモチベーション上がると思うんです。
この前、公開されたライコンでもうRIZINで7試合もやっているのに「まだそんなに強い選手とやってないんで」と言ってましたけど。あれは、世界レベルの非日本人選手とやりたいという意味だと私は思っているんです。
ちょっとバラしちゃうけど、じつは直樹くんはRIZINとの契約が1試合しか残ってないんですよ。次の試合がタイトルマッチなら延長交渉はしたいですよね。契約で決められた数の防衛してからじゃないと、つまり契約が満了して独占交渉期間が終わってからでないと、他の団体とは話しません。タイトルマッチに絡む選手なら契約的にも、そういう状態にするのが、普通だと思うんで。
――タイトルマッチをやってチャンピオンになりました、では他の団体に行きます……じゃあRIZINもバカバカしいですもんね(笑)。
シュウ UFCを狙うにしてもRIZINのベルトは、大きなアピールになりますし、これからRIZINも大きくなればなるほど、そのバリューも上がるわけですし。
――プロハースカやケイプなんかは初戦からランカー戦だったし、実績からショートカットできたわけですよね。
シュウ 思うのは最近UFCと話していて、彼らの起用方針が明らかに変わってきてることなんです。じつをいうとTUFやDWCS(コンテンダーシリーズ)、そして不定期的にマット・セラ、ディン・トーマスとやっているDana White’s Looking for a Fight卒業の選手が全体の3分の1以上を占めてきていて。これからはこの3ルートを通じて契約させようという動きが見えてるんですよ。彼らのギャランティーは1万ドル、ウィンボーナス1万ドルからスタートの5試合契約。本戦にストレートで入る選手のほとんどが1万2000ドル、1万2000ドルからのスタートで4試合契約なんで、企業的な感覚からしたら、前者の安いほうがいいわけなんですよね。
――この条件で契約したい選手だけを集めて査定すると。
シュウ じつを言いますと、西川大和選手も夏のDWCSだったら確約できると。
――DWCSは確約なんですね。
シュウ 神龍くんも同じこと言われた。
――あ、神龍選手でもDWCS。
シュウ 神龍くんの場合はウェイティングリストのトップ3に入ってるんです。たとえば選手がコロナになったり、ケガで欠場したときの緊急オファー要員にはなってるんですよ。皆さんに理解してほしいのがUFCのマッチメーカーはエキサイティングな試合を組まないといけないわけですよ。退屈な試合になると、リングサイドにいなくても、ダナ・ホワイトから「なんでこんな退屈な試合組みやがって!」と電話かかってきて怒られるんですね。
――ちゃんとチェックしてるんですね。
シュウ 前にジェシカ・アンドレージがロージー・セクストンとやって、ぼっこぼこにしたんですよ。そうしたら「あれだけ実力差があるのはわかってるのに、なんであんな試合を組むんだ」と怒られたと。それぐらいマッチメークに気を遣う。あとは、オン・ペーパーで見たときにも、いいマッチメークでないといけない。つまり余程のプロスペクトでない限り6勝1敗ぐらいの選手に、いきなり20勝1敗ぐらいの選手を当てることはしないんですよね。じゃあ、契約を消化したい選手が7勝1敗ぐらいだとしたら、ウェイティングリストから新規契約する場合、15勝1敗の神龍くんではなく8勝0敗の選手になっちゃう可能性が高いんですよねぇ。
たとえばですけど、3連勝した平良選手。彼はこれで13勝無敗ですよね。私がマッチメーカーなら、やはりムハンマド・モカエヴ選手との対戦も考えると思うんですね。
――フライ級ランキング12位の22歳。
シュウ けど、モカエヴ選手がUFCに参戦したときは5勝無敗。これに対して平良選手は10勝無敗。
これをオン・ペーパー観点で見たときにいきなり当てるわけにはいかないんですよね。だからモカエヴ選手には、オクタゴン初戦で、勝ち星は2桁だけど、3敗している30歳になった選手を当てて2戦目も30代に2つ土が付いている選手を当てて。でもそこらへんの選手たちも充分に強いですから、そこでも査定しているわけなんですよね。
けど、あれから2人ともUFCで3試合してますし、同じく3連勝中。で、モカエヴ選手は来月試合しますよね。勝てば9勝0敗。そこで2人を並べると、13勝0敗と9勝0敗。2人ともオクタゴン連勝中、土なし。なら、そろそろランキング入りをかけて、という点でも、マッチメークする理由ができるわけなんですよね。
同じような感じで、メジャーリーグのマッチメークというのは、すべての選手の次に次の次の試合ぐらいまで考えてふるいにかけているんです。
だから、少しビリヤードにも似てるんです。このボール、つまり選手ですね。試合のあと、どの位置に置くか。ビリヤードもそうじゃないですか。球をポケットに入れるだけでなく、そのあとどこにそのボールを持っていくか。これ、大切ですよね。
そういう感じで考えていくとですね。日本のファンのいう「育てるマッチメーク」は勝てそうな相手とか調整試合っぽい相手にして、というイメージがあると思うんですが、UFCでの「育てるマッチメーク」とは、このように、どのレベルでもふるいにかけて、勝ち残ったものを上げていく「育て方」なんで、本当に強いのしか残らない。紛い物は生き残れない世界なんです。それでいてオン・ペーパー的な観点もしっかりと考える。
――契約にしても一筋縄ではいかないってことですね。
シュウ 開催国によってビザを取る時間とか、いろんな兼ね合いを含めたところもある。「神龍クラスでもUFCと契約できないの?」という声は出てくるんですけど、受験とは違って合格点を取れば入れるわけはないんですよね。
――UFCに入る実力も資格もあるんだけど、状況が……ってことですよね。
シュウ そうです。そういう選手がDWCSに回されちゃうわけですよ。去年のDWCSには14勝0敗の選手や、ローカルのチャンピオンクラスがガンガン出てたじゃないですか。パンクラス、修斗、DEEPでチャンピオンでも同じような扱いになっちゃうんです。
――ピンブレットぐらいのローカルスターじゃないとストレートの契約は難しい。
シュウ ピンブレットだって戦績が良いいという理由だけで入ったわけですからね。UFCと契約する前の3試合は2勝1敗ですし。ケージ・ウォリアーズでいい勝ち方を2回続けてしたあとに、翌年ロンドンで大会やることを決まりそうだから早めに押さえたという。そんなタイミング的な部分もあったんですよね。UFCにはUFCの事情があるんです(笑)。
――神龍選手や西川選手はDWCSを待つか、それとも他団体のオファーを受けるかの話になってきますね。そこはどうなんですか?
・神龍誠、西川大和の決断は?
・平本蓮は“親父殺し”
・中井りん側とのSNSバトルが結果的に……
・ブレイキングダウンでは競技人口は増えない?……13000字はまだまだ続く
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ブレイキングダウンのくだりはバンドブームに影響受けて音楽はじめた奴でグラミー賞をとった奴はいないのと同じですね。個人的にはこれだけの情報化社会でいまだにこれがブームになる民度の低さとそれを取り上げるマスコミの稚拙さにげんなりしますが、二極化の対極にいる有望な若手選手が続々出てきていることが救いです。