――今回は格闘技界を騒がしている契約問題について、キックの観戦の鬼・サーバルさんと一緒に語っていこうと思います。
サーバル よろしくお願いします!
――前回の配信で少し契約問題に触れたときに、元キックボクサーのサーバルさんもコメントを書き込んでくださっていました。今回のサステイン(修斗プロモーター)と西川大和選手の問題を含め、選手と団体間の契約については単純にどう思いますか?
サーバル 私自身は現役時代が30年前なので、もちろん契約なんてものは一切、言葉さえも出てこない時代でした(苦笑)。ただ、Dropkickの配信でジャンさんやシュウ・ヒラタさんの話を聞いていて、いまMMAの世界というのは相当にプロフェッショナルになっているんだなと感じます。
――いや、ここ最近の話ですし、一部の団体、一部の選手だけだと思います(笑)。
サーバル キック界でも、おそらくK-1さんやRISEさんはしっかりやられてるとは思うんですが、いまはボーダレスな時代なので、現在のキック選手でも「あなたはここの団体で何年契約ですよ」というのは、ほぼ見たことがないのではと。もちろん、チャンピオンクラスは違うと思いますけど。
――難しいのは、「所属」と言われている選手がじつは契約がなかったり、契約がないのに移籍できなかったり、契約していると言っても1試合契約だったり、いろんなパターンがあるので一概には言えないということですよね。サーバルさんの現役時代は移籍も御法度な時代ですよね?
サーバル もちろんです。なので、30年前のキックの試合の決まり方は、基本的に会長同士の電話のやりとりで、ある日ジムに行くと黒板に「サーバル◯月◯日試合」と書いてあるんです。それで「あ、俺、プロデビューするんだ」と。当時はキック団体が3つしかなかったので契約書もなく、会長同士の話で「決まったぞ」という。いまの選手だとおそらく計量通知書が来ると思いますが、当時は「◯キロ」と黒板に書いてあるのを信じて体重を落とすという感じですね。
――いまも昔も日本は団体との契約の前に、ジムにおける主従関係が強いですね。
サーバル ですので、当時は移籍というのはほぼほぼない前提です。で、その慣習がどこからきているかというと、やっぱりボクシング界なんですよ。ジムに入ってもしその会長さんとケンカしたら、もう引退するしかないみたいな。
――昔はジムとトラブったら、各方面に破門状が出回る世界でしたからね……。
サーバル ただ、そういう意味でボクシング界はブラックだと言われることが多いんですが、いまは非常にクリーンになってきているんですよ。というのも、何年か前に裁判がありまして。それをもとに、いまのボクシング界では活発に移籍が行われるようになってます。しかも、いわゆる移籍金とかで、会長が「移ってもいいけど1000万円払え」みたいな法外なことを言う人は法律的にアウトだということも浸透してきたので、ボクシング界は一足早くそういうところから抜け出しつつありますね。じゃあ、キックはそれに付随して変わっているのかというと、要はボクシング界みたいに全キック団体が一丸となって「このルールでやりましょう」ができないので……。
――キックやMMAは、ボクシングのように一つのコミッションが管理しているわけじゃないですからね。これは本人が口外していることなんですが、たとえば日菜太選手が湘南格闘クラブからクロスポイント吉祥寺に移るときに移籍金を払ったことは表に出ている話ですよね。ただ、それもちゃんとしたルールがあるかといえばべつになく、両ジムとの話し合いによって成立した。
サーバル そうやって、ジムと話がつけば移籍金とかでパッと出られるケースもありますよね。ただ噂話レベルでは、現代のキック界でもジムとの話の中で、お金というよりは「1年間試合できません」とか、そういう落としどころになってしまうという。だから、我々は「試合が決まらないということは、そういうことなんだな……」と察する感じで、そこはまだクリーンになってない世界なんだと思います。
――さらに、キックの場合は団体の縛りなのか、ジムの縛りなのかわからないケースもありますよね。
サーバル 現状、K-1さん、RISEさんはかなり大きな企業になっていますけど、それ以外の団体は中心になる人がいて、そこにジムがまとまっているイメージなので。だから、その中心人物からジムごと離れるならまだしも、だいたいは選手ひとりがフリーになるケースが多いので、自分のジムの会長さんと団体の方と二重じゃないですけど、そこをうまくクリアしないと、昔だったら干されるという状態があったり、選手のほうも弁護士を立てて交戦したりもあり、いろんな歴史がありますよね。
――ぶっちゃけ、試合機会を得られれないまま引退しちゃうというケースもありましたし……。
サーバル 私自身は1990年にデビューして1回キックを引退をして、また96年にべつのジムに移ったんですね。それは治政館に移ったんですけど、今回の件で後輩と電話で話していてハッと思い出したことがありまして。96年当時に不意にジムから「これに署名して」という話が起こったんですよ。私も意味がわからなかったんですが、なんとなく移籍に関することかなということで、とくに確認もせずにパッと署名したんですけど。たぶん、当時はまだ団体の縛りが強いので、要は「勝手にフリーになってよその団体には出ません」という署名だったと思います。それがどの程度、法律的に効力があるかはわからないですが、そんな時代から20年以上経ち、とくにMMAでUFCが台頭してきたときに、いわゆるチャンピオンクラスとなると動くお金が違いますよね。今回の西川選手の件でも、問題はより大きくなっているんだろうなと感じました。
――キックやボクシングは、「選手をイチから育てたのに、お金になるときに移籍されては困る」という考え方ですよね?
サーバル ただ、ボクシングでもイチから育てた選手もいれば、アマチュア上がりの選手もいますよね。で、移籍と一口に言っても4回戦からA級のボクサーまで、仕事の転職があったりと自分の人生を考えての移籍だと思うんですね。なので、敗戦を機に環境を変えたり、気分一新でスタッフを変えるみたいな移籍も増えていますし、少しボクシング界のほうが移籍が軽くなった感じです。本当は一番そのへんが重たかったのがボクシングなんですけど、ボクシングがいち早く脱却しているので、私から見ると一応格闘技の中では一番ボクシング界がまともになりつつあるかなという気はします。
――そこは、やはり競技としてまとまっている強みですよね。
サーバル 日本でプロボクシング活動という意味では全ジムが同じ基準で動けるので、そこは確かにまとまっているボクシングのよさではありますね。一方のキックの場合は、各団体のルールが「これが我々のルールです」と言われればそれまでなので。いまのK-1さんやRISEさんみたいな状況ではなかった時代、「この選手は使うな」という話が電話やFAXで出回るみたいなことがありましたけど、そんな世界はいまは崩れていると思う一方で、完全にはなくなってないので。その中で団体のお偉いさん同士の関係性が妙に効いてきたり、そんな中でも何事もなかったかのように移籍して普通に試合している人もいますし…。
――本当にケースバイケースというか。
サーバル で、ちょっと話はズレますが、シュウさんの配信を聞いてキックやボクシングとMMAの違いについて気づいたんですが、MMAは上位概念にUFCという大きなものがあるので、「垂直的」な世界だということなんですよ。要は、海外のローカル団体だとUFCからオファーが来たときは無条件で上がれる契約があるということとか。
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https://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar2129474
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コメント
コメントを書く(ID:64063594)
2000年代前半のキックは本当面白かった。
全日本、NJKF、NKB、シュートボクシング・・・
山本元気と桜井洋平が相対したのが個人的格闘技のピーク
あれを越える興奮は無い