◎正道会館と藤原組退団■臼田勝美インタビュー②
THE MATCH総合演出・佐藤大輔インタビュー。THE MATCHの那須川天心vs武尊の煽りVはどのように作られたのか。12000字で迫ります!(聞き手・ジャン斉藤)
――佐藤大輔さん渾身の映像が華を添えたことでTHE MATCHは素晴らしいイベントでした。
――ハハハハハハハハ!
佐藤 いきなり偉そうですか?(笑)。
――いや、気持ちいいです(笑)。
佐藤 マジメな話、我らRIZINチームはスポーツの演出においては世界一という自信をもって臨みましたよ。
――でも、佐藤大輔さんってキック嫌いですよね。それなのにオープニング映像や天心vs武尊の煽りVまで、キックイベントを素晴らしく演出できるのがすごいなって。
佐藤 ボクがキック嫌いとか、そうやって根も葉もないデマを流して煽ろうとするのは三流マスコミの悪いところですよ。
――えっ、違うんですか?
佐藤 MMAより詳しくないし、キックをそんなに見てこなかったから、ぼんやりしているだけですね。
――でも、フジテレビ社員時代はK-1の煽りもやってましたよね?
佐藤 1999年2000年の煽りはボクが作ってましたね。アーネスト・ホーストに「バンナがこんな悪口を言ってます」って伝えて『I’m 4 times champion.』を引き出したのはボクですね。でも、そんなに前のめりでキックは見てこなかった。フジテレビ局内はPRIDEとK-1に割れていく中、PRIDE側の中心になったし。DREAMのときTBSとギクシャクしてたのは、いわゆるK1MAX的世界観的なものと相容れなかったわけですから。
佐藤 ああ、それは血液型レベルで残ってるんじゃないかな。
――そんな佐藤大輔さんがじつはこの7年間、RIZINの煽りVで密かに天心vs武尊を煽り続けてきてきましたよね。何かを示唆するシーンを一瞬、挟み込んだり。
佐藤 ああ、あれは「どこまでやったら怒られるかな?」っていうゲームです(笑)。
――ずいぶんスリリングなゲームですね(笑)。今回のオープニングにも挿入された那須川天心の「誰と戦いたいですか?」というマイクは、両陣営のいざこざの原因にもなりましたよね。あのシーンですら物語として消化してるんだなと。
佐藤 あの発言自体は問題ないんだろうし、そこは有無を言わせないオープニングVの出来になったってことじゃないですか。やっぱり感動しちゃったら、表に出したいと思っちゃうでしょう。
佐藤 今回はいろんな人の協力があって、映像が作れたんですけど。個人的には関(巧)さんの存在が大きいです。関さんがいたからキックと繋がれたところがある。
――制作会社ブロンコス代表の関さん。昔からK-1関連のテレビ番組のクレジットでよく名前を見ますね。マニアックな情報としては『週刊プロレス』常連投稿会プレッシャーの会長を務めたこともあります(笑)。
佐藤 関さんはいまはK-1のマッチメイクを中心にお仕事をされてますけど、昔からいろんなプロレス格闘技に関わっていて。ボクとはPRIDE時代からの付き合い出し、『やれんのか!大晦日2007』でも一緒だったし、そういう意味ではつかず離れずとやってきた。「お互いに趣味が違ってよかったね」って間柄。だって関さんは全日本プロレスファンだけど、こっちは新日本プロレス。関さんはキック大好きだけど、こっちはMMA大好き。お互いに好みが違う。「なんで全日本プロレス好きだったんですか?あんなもの」「ああ、新日ファンってそういうこと言うよねー」みたいなやり取りも面白くて。
――なんてったって会社の名前からしてテリー・ファンクな「ブロンコス」ですからね(笑)。昔からのつながりがあったから、いざ何かやるぞとなったらスクラムが組めると。
佐藤 面白いことができるとなったら、メンツや意地とかっていうよりもオモシロで繋がれる。「うわ、それ、面白いですね」「オマエ、面白いこと考えるじゃん」と。オモシロできたら、こっちもオモシロで返すしかないでしょ。そこは那須川天心も一緒。関さんもそういう脳がある人。まあ榊原(信行)さんはオモシロの権化だよね(笑)。
――逆にそういうオモシロな大人たちが不在になったら、格闘技界はどうなるんだろうなっていう。
――自分で言いますか(笑)。
佐藤 「榊原信行・後継者」問題もありますね。候補は誰かいますか?
――うーん、ビジネスの巨大な山を動かせるのは朝倉未来選手ですけど、プロモータータイプかといえば、ちょっとわからないですね。
佐藤 少なくとも自分たちの世代にはいないですよね。後継者問題はフジテレビ以上に大変ですよ。ソフトづくり的にはフジテレビが離れても、俺がフジテレビ以上にフジテレビなわけだから。
――俺がフジテレビ宣言! いろいろあったとはいえ、THE MATCHの地上波がなくなると聞いたときはどう思いました?
佐藤 鬱。強がっていたけど、鬱。
――あー。
佐藤 風邪もひいちゃって、なんにもやる気がなくなりました。撮影自体は全部済んでいたんですけど。
――それだけショックだったのは、テレビ局のいた人間として地上波にこだわりがあったからですか?
佐藤 地上波にこだわりがあったというか、それは「俺がフジテレビ!」だからだよね。
――フジテレビがなぜ「フジテレビ」を放送しないのかと。
佐藤 でもまあフジテレビには感謝しかないですよ。ここ何年間、RIZINを扱ってくれたことに関しては感謝しかないです。
――フジテレビがなかったらRIZINは始まってなかったし、ここまで続いてなかったですよね。
佐藤 地上波がなくなったことはもちろん悔しいけど、フジテレビというテレビ局自体は最後まで応援してくれたから。
――「フジテレビというテレビ局自体は」ですか。
佐藤 さらに上の人たちの判断だよね。老人たちの逃げ切りは、日本社会の縮図ですよ。だからフジテレビに恨みはないです。「ありがとう!」としか言いようがないです。だってフジテレビがなかったらRIZINもない。ってことは、那須川天心や朝倉兄弟も、こうはなってなかったということですからね。
佐藤 そういう意味では、この試合をフジテレビから届けられないのは、天心と武尊と同じくらい無念です。フジテレビがなくなっても、RIZINはお金的にはそこまで関係ないのかもしれないけど……地上波がないなら俺はもう引退かなって思った。
――緊張の糸が切れたってやつですかねぇ。
佐藤 しばらく休みたいな……って本気で思いましたよ。なんで元気になったかっていうと、○○○○○の話が出てきたから。
――えっ、そんな話が。
佐藤 あ、知らなかった? 向こうの現場はノリノリで、もうあと一歩のところまで行ったらしい。まあ最終的にはギリギリすぎたんで調整はつかなかったんだけど。いまなんとなく元気があるのはPPVの数字がよかったこともあるし、もしかしたら将来的にこういうチャンスがあるんじゃないかな……と。
――佐藤大輔さんにとって地上波は精神的支柱だったわけですね。
佐藤 それに今回の映像だってフジテレビで流す前提のものだから。
――すごくきれいで心が洗われるような映像でした。いまから殴り合いが始まるのに。
佐藤 自分で言うのもなんですけど、抑制が効いてて美しかったでしょ。俺の暗黒面みたいなところを持って、グリグリに2人の因縁を煽ることもできたけど。俺以上に天心vs武尊を待ち望んでいる人が多いから、その人たち全員を納得させるものを作らなきゃいけない。やっぱり天心も武尊も両方をちゃんと送り出したいでしょう。なんなら試合前に両方の選手がその映像を見て、ちょっと涙ぐみそうになるのがベスト。関係者も含めてウルッとさせたい。
――派手に煽ったり、どちらかに立った視点ではないものを見せたい。
佐藤 選手を含めて誰にも文句を言わせないものを作ったという自負がありますよ。あともうひとつ描きたかったポイントは那須川天心と親父さんの関係。正直ここ1年はずっとギクシャクしていたでしょう。
――父と子にありがちな仲はよくない雰囲気が漂ってましたよね。那須川天心はキック最後の試合で宿敵と戦い、そして親父さんとの和解がゴールだった。
佐藤 そうなんですよ。“父許し”。まさに『エヴァンゲリオン』なんですよね。RISEのラストマッチの風音戦は同門対決で、親父は風音のセコンドについたでしょ。あのカードのVは俺が作りたかったなあ……とも思った。まさに『シン・エヴェンゲリオン』でいえば、電車から親父を下ろすための試合だったんだなって。
――武尊との物語が巨大すぎて、親子の物語にはなかなか目が向きませんでしたけど。
佐藤 だから親父さんのことは煽りVでも最後にさらっと見せた。で、大会途中に「天心vs武尊の歩み」というドキュメンタリーVを流したでしょ。
――“碇ゲンドウ”な立木文彦さんナレーションで。
佐藤 あれでなんとなくわからせようかなって。今回の武尊戦は親父との再合体の物語でもあるよ、と。
――その前提で見ると、お父さんに触れた那須川天心最後のマイクも味わい深いですよね。
佐藤 天心にとってお父さんの存在はデカイんだよ。で、ライバルの武尊くんもいいよねぇ(しみじみと)。いまどきこんなに素直な子がいるんだと感心した。終わったあと泣きながら謝る姿とかもさ……ちょっと心配になってくるよね。
――武尊、お父さん、K-1vsRISE、RIZIN……と様々な視点がある中で、ひとつの映像に落とし込むのは大変な作業だったわけですね。
佐藤 最初に「ボクがやれば素晴らしくなるのはあたりまえ」なんて言ったけど(笑)、なかなか難しかったし、自分だけの力ではできなかった。いろんな人の力を借りましたよね。VのコピーはRIZINと同じく松下ミワさんね。どれも最高でしょ。彼女もホントに大変だったと思う。あと選曲はFantastic Plastic Machineの田中(知之)さんにお願いした。東京2020オリンピックの音楽監督。
――えっ、そうだったんですか!?
佐藤 俺の選曲じゃ無理だと思ったから。そうしたらエヴァのヴンダー発進の曲(Dark Defender [3EM-06] )を出してきた。「うわ、そうですね!これですね!」って一発で納得しましたよ。
――エヴァだから佐藤さん選曲ではなかったんですね。
佐藤 違う違う。そもそもFPMの田中さんは、PRIDEの煽りVが覚醒したきっかけを作った人ですよ。偉大なミュージシャンだし、ボクの師匠。桜庭和志vsヒカルド・アローナ、ミルコ・クロコップvs美濃輪育久(現ミノワマン)、ノゲイラvsジョシュ・バーネットもFPMの曲ですよ。
――知りませんでした。
佐藤 教養がないよ!(笑)。煽りVを覚醒してくれた人にこうして天心vs武尊の選曲を頼むことで、恩返しもできたかなと。
――いままで田中さんにお願いしたことってあるんですか?
佐藤 ないです。ここぞ、だったわけですよ。田中さんも格闘技に詳しいから「この試合は重いですね。その重さはよくわかります」と。オリンピックで使いたかったけど、使えなかった曲があるんですよってことで、エヴァのヴンダー発進の曲をポンとかけた。たしかにこれはすげえわと。
佐藤 メインの煽りVでも使った『イノセンス』もオリンピックで使いたかったんだって。「リベンジさせてくださいよ、佐藤さん」ってことでね。
――煽りVからオリンピックの神々しさを感じさせたのはそういうことなんですね。
佐藤 そういうことです。メジャー感、ドラマチックさ、感情を揺るがすのはあたりまえだけど、日本のアーティストで、しかもサブカルであるというか。反抗的なもの、カウンター的なものをちゃんとぶつけてこられる田中さんはすごい。教養のない斉藤さん、我々はこうやって日本のカルチャーから深く考えているんですよ。
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