ベラトールのロンドン大会でデニス・キールホルツから一本勝ちした渡辺華奈インタビュー。コーチの上田貴央さんにも同席していただいて1年前の敗戦から何が変わったのかを振り返っていただきました!(聞き手/松下ミワ)
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渡辺 いやあ、なんとか生き残りましたあ! でも、うれしいというよりホッとしたというのが一番かもしれないです。なんせ、試合序盤にパンチを被弾したので……。
――序盤が前回と似たような展開だったので、観ているこっちもちょっとヒヤッとしちゃいました。
渡辺 毎回ヒヤヒヤさせてしまってスミマセン(苦笑)。でも、あの打撃もまったく見えてなくて。
――そうだったんですか!
上田 というのも、今回の対戦相手デニス・キルホルツはベラトールに参戦している選手の中で最も打撃が強い選手だったんですよ。
――たしか、ベラトールのキックボクシング王者だった選手ですよね?
上田 それ以外にも2つぐらいキックのベルトを持っている選手で、キックのプロ戦績は50戦47勝らしくて。だから、今回は渡辺がサウスポーの構えでケンカ四つだったんですけど、そうなると絶対に外側を取られると警戒していたんです。その対策をずっと練習してきたんですけど、あっさり外側を取られてしまいまして。やっぱり一朝一夕じゃないなと思いましたねえ。
――ちなみに、打撃はどういう練習を?
上田 今回、その対策をパージ東京の矢口哲雄先生に教えてもらってて。矢口先生は、久保優太くんとかのトレーナーでもある方なんですけど、もう半年以上前からお願いしてたんですよね。
渡辺 対戦相手が決まったのが1月末ぐらいだったので、そっからですね。
上田 で、そもそも打撃が強いデニス選手は正直一番やりたくない相手だったんです。ボクも「これはキツイな」と思ったけど、準備期間が4カ月間あったから、それならこの準備期間がある中で受けたほうがいいと判断して。また違う選手と戦って、2~3カ月のスパンでデニス選手と戦うよりは、こっちのほうが勝てる確率が高いと思ったんですよね。で、受けようと思ったら、矢口先生が「いや、この選手はマズイよ」と(苦笑)。
渡辺 第一印象で「女子でこんなに打撃できる選手は見たことないですねえ」って感じでしたよねえ。
上田 専門家が見て「これはほとんど世界最強レベルだから」と。でも、いつかは絶対にやらなきゃいけない相手なんでね。だったら、4カ月間の準備期間がある中で受けたほうがいいという判断で受けて、デニス選手に対しての対策をみっちりやってきた結果、まったく通用しなかったという(苦笑)。
――そこまで時間をかけて対策しても、うまくいかないのがトップクラスなんですねぇ。
渡辺 それに、私自身がいつも試合の立ち上がりが悪くて。けっこう序盤が悪いので、そこが今回も改善できてなかったなあと思いました。まあでも、そんなに簡単に強くはなれないし、センスがあるほうじゃないので、コツコツとやっていくしかないですよね。
――でも、前回のようにラッシュで一気に試合が傾かなかったのは大きな一歩だったんですかね?
上田 というか、逆に今回はラッシュに来てくれたから大事にはならなかったんですよ。前回のリズ・カムーシュ戦はビックヒットのあとにいったん距離を取られたのが問題だったので。
――冷静に戦況を判断されたのがマズかった。
上田 リズ・カムーシュは本当に百戦錬磨で、普通はドカンと当たってみんな勝機と思って詰めてくるんですけど、そこはうまかったですよね。でも、今回はラッシュに来てくれたおかげで組みつけたという。
渡辺 なんか、“やられたフリ戦法”みたいに言ってますけど(苦笑)。
上田 いや、でも過去にもあるんですよ。一発もらって相手が詰めてきたからテイクダウンできたケースというのは。で、今回も勝機と思って詰めてきてくれたんでね。
――ただ、その後の寝技の展開もまあまあしつこい感じでしたよね。
渡辺 うーん、でも寝技は「一発あるかな?」ぐらいでした。過去の試合でも瞬発力とパワーがあるんで、一気に腕十字に入ったりはしてたんですけど、正直けっこう雑かなと思ってて。
上田 それでも寝技の実力はあると思うんですけどね。デニス選手は柔道出身者でもありますから。ただ、寝技に関しては相手と渡辺の打撃差ぐらい差があったと思っていて。たぶんダブルスコアぐらい差があると思うし、寝技なら何回やっても勝てますよ。
――そんなに!
渡辺 実際、寝技での圧は全然感じなかったです。最初の腕十字はその前の打撃が効いちゃってたのであんな感じになりましたけど。でも、逆に向こうが腕十字にきてくれたので、その対処をしながら回復できたので。
上田 だから、MMAの寝技では相当な差があったので、グラップリングとかパウンドありの寝技で勝負させたら10回やって10回勝てるレベルだと思います。……打撃勝負だと10回やって10回やられるレベルなんですけどね(苦笑)。
渡辺 フフフフフ、そうですね(苦笑)。
上田 だから、1ラウンド終わってこっちに戻ってきたときに「これはもう絶対に大丈夫」と思ってましたから。
――へえ~、素人目だと全然見抜けませんでした。
上田 インターバル中にしゃべったのは、ちょっと言葉は悪いですけど「寝技は全然差があるぞ。楽勝だな」と。あと、相手がバテてるのもあったので、もう序盤のようなKOパンチは体力的に出せないなと思ってましたから。
渡辺 「相手はバテてるぞ」と言われたので、「よーしバテてるのか! こっちは元気だぞ!」と思いました(笑)。
――危険区域は抜けた、と。
渡辺 デニス選手は前回の試合で5分5ラウンド戦っている選手なので、もともとすんごい体力がある選手だと思っていたんですよ。ただ、それ全部スタンディングだったので、寝技の展開ではけっこう疲れてくれていたので、「すんなりテイクダウン取れるかも」と思いました。
――実際、2ラウンド目の渡辺選手のタックルは早かったです! ただ、その後は相手選手の蹴り上げの反則もありましたよね。
渡辺 ああ、あれは全然大丈夫……だったんですけど、一応アピールしとこうかなみたいな(笑)。
――ハハハハハ! いや大事です。日本人選手はそこで遠慮しちゃいがちなので。
上田 でも、ベラトールはそこがけっこう厳格で。インターバル中の渡辺に指示を出そうとしたら、もの凄く厳しく止められたので「ちゃんとしてんなー」と思いました。ブレイクになった瞬間に「指示を出しちゃダメだよ」という係の人が来るんですよ。
渡辺 しかも、ケージとセコンドの距離も日本ほど近くないんですよね。
上田 だから、全力で叫んだんですけど、会場は凄い歓声だったし、まったく声が届かなかったですね。ボクの声はなかなか通らないらしくて(苦笑)。
――そうですか? 元谷友貴選手のセコンドのときとか、めっちゃ響いてる印象がありますけど。
上田 いや、いままでコロナ禍でみんな静かにしてくれてたから聞こえてただけで、どうやらボクの声は拡散するらしくて。ちょっとボイトレ行かないとなと思ってます!
渡辺 でも、耳を澄まして聞こうと思ったら聞けましたよ。
――それはよかったです(笑)。そして、あの見事な三角絞めですよね。
渡辺 今回、寝技はあんまり対策してなくて。自分のやれることを増やしたり、スキルを上げる練習はやっていたんですけど、練習した中の一つが出たという感じですね。あの体制になったときに「いけるな」と。
上田 でも、三角絞めは技の中ではそんなに得意な技ではないですよね。三角絞めでフィニッシュしたのも今回が初めてですし。
渡辺 試合では初めてですね。
上田 練習では取るんですけど、MMAを始めた当初に一番適正がなかった技の一つが三角絞めで。だから、とにかく三角絞めをいっぱい練習させたんです。今回はその成果ですよ。
渡辺 そもそも三角絞めは苦手だし、今回は足の組み方も得意なほうとは逆の入り方だったので。でも、原理は一緒だからやってみようと思って。
――となると、苦手な技で極めたというのはかなり大きい収穫ですね。
上田 だから、寝技はだいぶ頭抜けてるんですよ。
渡辺 でも、試合は立ち技から始まるからなあ~……(しみじみと)。
――ハハハハハ!
上田 これ、毎回言ってるんですよ(笑)。柔道の練習みたいに、背中合わせスタートのMMAやってくれれば絶対にチャンピオンになれるのに……って。
渡辺 でも、柔道時代は試合時間も短いから、寝技もそこまでできなかったんですけどね。ただ、練習ではけっこう力を入れてやってたので、それがMMAでも活きてきてるのかなあ、と。
上田 これ余談なんですけど、渡辺がMMAに転向した当初は正直びっくりするほど寝技ができなくて。
――それは意外ですね。
渡辺 いや、そこまでじゃないでしょ。けっこう柔術はできたよ(笑)。
上田 いやいや、パワーとスピードがあるからなんとかなるんですけど、寝技の原理を理解しているという部分が凄く少なくて。こんなこと言うと柔道に失礼なんですけど、やっぱりまったく競技が違うから「柔道の寝技ってこれぐらいなんだ……」と驚いちゃって。だから、ゼロから組み立てるのに凄く時間かかったんです。試合も、寝技ができないことがバレないように誤魔化して誤魔化して……。
――なかなかの酷評ですね(笑)。
渡辺 そうだ! 失礼だ!
上田 いやいや、本当にこれは事実で(笑)。最初はどうしようと思ってましたから。
渡辺 でも、けっこうすぐできるようになりましたよね?
上田 マンツーマンで寝技を組み立てるところを毎日何時間もやったからね。紙にも書いて原理も説明したり、優位性から何から一から教えて。でも、それで時間を使ったのが戦績がよくなった理由なのかなと思ってて。そこですぐに打撃に傾倒していたらこの戦績は残せなかったので、やっぱり寝技に一極集中してよかったなと思ってます。
――それが今回の一本勝ちにもつながっているわけですもんね。
上田 だから、柔道家がMMAに転向したら「あとは打撃さえできれば勝てる」と思われがちじゃないですか。でも、まったく通用しないんでね。
――じゃあ、MMAでも一本を量産している大島沙織里選手なんかは特別なんですね。
上田 大島選手はアームロックの得意パターンがあって、みんなまだそれを対処できないという。そこの強みがあるからだと思います。
――なるほど。となると、今回勝ってホッとした反面、まだまだやらなきゃいけないことも多いという。
渡辺 そうです。まだまだやることいっぱいです。
上田 でも、ボクはもうこの時点でパターンにハメれば全員に勝てると確信しました。もうベラトールはパターンにハメれば勝てますよ!
渡辺 でも、パターンにハマんないもん……。
――そこが難しいところですか(笑)。
上田 いやいや、だからパターンにハメる練習をしましょうよ。去年負けたときの帰りの飛行機でも、ずっとその話をしていたんですよね。「どうすれば勝てる?」「どうすればチャンピオンになれる?」という話だけをしてて。その中で、絶対にレスリングのタックルをやるということと、絶対にテイクダウンをできるパターンを何個もつくっておこうという話をしました。
○レスリング強化に元ONE鈴木隼人
○いまでも眼窩底骨折の影響が……
○外国人女子ファイターの打撃の破壊力
○リズ・カムーシュ戦の敗戦はコンタクトレンズ?
○海外試合の難しさ
○クラファン批判について
○短期間の海外練習だとそこまで深掘りはできない……12000字インタビューはまだまだ続く
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