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試合前の東京ドームで鈴木博昭、マルキーニョス、クレベル、サトシ、三崎和雄
クレベルが朝倉未来を、サトシがムサエフを揃って三角締めで勝利したボンサイ柔術。彼らに打撃を指導する“怪物くん”鈴木博昭インタビュー。現在はONEのキック部門で戦う鈴木博昭はボンサイ勢にどんな戦略を与えていたのか。その裏側に12000字で迫る(聞き手/松下ミワ)
――クレベル・コイケvs朝倉未来の熱戦から1週間、まだまだ話題が尽きない中でじつは関根シュレック秀樹選手のツイッターで気になるコメントを拝見しまして。「クレベルのあのエルボーは鈴木博昭選手が授けた作戦だった」という内容なんですが。
――ハハハハハ! 鈴木選手はクレベルやボベルト・サトシ・ソウザの打撃を指導されていますが、そもそも今回の朝倉未来戦はどういう作戦を立てていたんですか?
鈴木 それでいうと、未来選手はクレベル戦に向けてトレーナーを雇いましたよね?
――柔術家の岩本健汰選手のことですね。
鈴木 そう。K-1のトレーナー(K-1五反田・小倉將裕)とグラップリングの岩本選手を雇った時点で「なるほど」と思いました。そのコーチ陣から向こうの戦い方が浮かび上がってきたので、「じゃあこれだな」と。
――向こうの戦い方というのは、具体的にはどう想像していたんでしょう?
鈴木 まず、自分のファイトスタイルをよりブラッシュアップしようというのが見えましたよね。打撃のキレ、スピード、パワーをさらに磨いて、なおかつグラップリングで倒されないぞという。スタイル的にクレベルと岩本選手は違うと思うんですけど、強いグラップラーに倒されないことを練習しているんだなと感じました。
――つまり、寝技の展開というよりは、倒されないことへの対処をしているんだろうな、と。
鈴木 1ヵ月そこらで寝技の技術が格段に変わることはないと思うので。だから、まず倒されないことを強化、自分の得意なことを強化したんだろうなと考えました。
――はー、そこから試合が始まっていたんですね! その中で、エルボーは有効な攻撃になると考えていた。
鈴木 未来選手がそういう練習をしていると予想できたから、よけいに効くと思いましたね。絶対に倒されたくない、いつもより倒されたくない気持ちが強いから、そっちに意識がいくじゃないですか。だからこそエルボーが入る。だけど、その前にクレベルとしては1ラウンドを凌ぐというのを考えていましたね。
――たしかに、あのエルボーが出たのは2ラウンドでした。
鈴木 そう。1ラウンドはなるべく出さずに、有効打をもらわないようにしてほしいと話しました。
――たしかにクレベルは執拗にローを蹴っていましたね。
鈴木 あれは距離を測るのと、相手の戦闘力を削るためのローですね。打撃で勝つというよりは、打撃でやられない自信を持ってほしいという感じでしたね。クレベル自身も打撃は強いんだけど、やっぱり彼のアイデンティティは寝技にあるから、いつでも寝技に行けるようにするために「打撃戦でも怖くないよ」という練習をしてました。
――そして、早くもグラウンドの展開になりましたが、クレベルが取り逃して朝倉選手が立ったあの場面、朝倉選手がクレベルに対してフックを当てました。あれで、クレベルはぐらつきましたよね?
鈴木 うん、ありましたね。
――あの場面って、鈴木選手はどう見ていたんですか?
鈴木 もう、練習でもヘッドムーブでクリーンヒットをもらわないようにすることを繰り返しやっていたので。未来選手も本当に頭がいいから、絶対にタックルを切って自分のスタイルに持っていくというのは予測していたし、やっぱり打撃の精度も高いので、ぐらついても変に乗らずに頭を振る、クリーンヒットをもらわないという感じですね。
――でも、あれってけっこう効いてましたよね?
鈴木 ああ、効いてました。効いてたけど、殴られて完璧によけることは難しいと思っていたから、持っていかれなければ大丈夫。1ラウンドでフィニッシュされなければいいという状態ですね。応戦はするし、組みにもいくけど、最悪な自体だけは避けてほしいという感じでした。
――もし、あそこで朝倉選手が追い討ちをかけてきたら、やはり危なかったと思いますか?
鈴木 まあ、でも追い討ちをかけられても組みついて逃げ切ることも可能だし。おそらく、それを未来選手が潰して、クレベルがガードポジションを取る展開はあるだろうな、と。
――たしかに、そういう展開もありえます。しかし、鈴木選手から見て「なぜ朝倉選手は追い討ちをかけてこないんだろう」という疑問はありませんでしたか?
鈴木 うーん、ちょっと怖かったけど、クレベル自身も効かされても「いつでもやってやるよ」というケンカ根性じゃないですけど、闘争本能が凄いんでね。だから「あ、いま追い込んでもまだヤバイかも……」と思わせたんだろうなと思います。
――朝倉選手も、追い討ちをかけなかった理由は「目が死んでなかったから」と言われてましたもんね。
鈴木 それ、戦っているとあるんですよ。目が死んでるか死んでないかというのは。で、死んでない人間というのは本当にまだ何をやってくるかわからない。死んだかどうかというのは「いまだ!」というのはわかるし、あれは周りじゃなくて本人にしかわからない部分は絶対にあるんで。
――周りが感じ取れる部分でもない、と。
鈴木 「効いてるから行けよ」と言いますけど、戦っている本人に向かってくる殺気の量は本人にしかわからないですよ。外国人選手って効くと一気に効かされてしまうケースもあるんですけど、クレベルにはそれがないのでね。
――今回の試合は、やはりあの場面が勝負の分かれ目だと語る方が多いんですよね。このサイトでインタビューしている斎藤裕選手も「明らかに効いていたので、ボクだったら詰める」という話をされていて。
鈴木 うん。追い討ちかけてたら、ひょっとしたらそのままいけるかもしれない。でも、逆に取られるかもしれないし。だから、リスクを取っていくか、リスクを回避して自分のペースを貫くかということで、未来選手はいわゆる手堅いほうを選んだんでしょうね。
――チャンスはまた来ると思ってた、と。
鈴木 そういう状態だったんでしょう。べつにいま追い込まなくても、だんだんと打撃が当たっていけば絶対に削れていくから、と。そう判断していてもおかしくはないと思います。
――その中で、とにかくクレベルとしては1ラウンドはなんとか凌ぐんだという。
鈴木 カイル・アグォン戦もそうですけど、クレベルってけっこう1ラウンドで受けに回るケースがあるのでね。未来選手との対戦で同じようにやると効かされてしまうから、だからクリーンヒットだけは避けるという動きをしていましたね。
――「クレベルなら絶対に回復できる」というスタミナへの信頼も強いということですよね。
鈴木 それは強いですね。みんな「スタミナ切れてた」と言うけど、切れてたら最後にあんな攻め方はできないですよ。彼はスタミナが切れているようで、あのまま最後までずっと動けるという、マラソンみたいな体力の使い方ができる選手なので。
――インターバル中は、どんなお話をされたんですか?
鈴木 まあ、基本はマルキーニョス(マルコス・ヨシオ・ソウザ)がメインだから、ボク自身はそんなには何も言わなかったですけど。ただ、「クロスゲームの時間が来るからね」ということだけは言いました。つまり、ラウンドが進むに連れて戦いの距離が近くなるよ、と。で、おそらく1ラウンドの戦いで未来選手には「テイクダウンを切れる」という自信ができるから、2ラウンド以降にあのヒジを出そうというのは言ってました。
――2ラウンドこそチャンスが来るよ、と。
鈴木 まあ、普通に戦って勝てるんだったらそれでもいいけど、エルボー出すのは2ラウンド以降。
――ああ、だからこそあんなにヒジが効いたんですね! あれ、かなりダメージがありましたよね?
鈴木 本当だったらあれでダウンしてほしかったぐらいの感じですけど、まあ、そのときの組み付き方によって、アゴ先なのか目尻なのか、そのへんは状況で変わるから。だから、場所の細かいことは言ってないんですけど、オートで出せる感覚は身につけてほしいとは言ってましたね。
――朝倉選手としては、あのヒジをよけなきゃいけないということで、ちょっとしたパニックというか、そのあとの寝技の対処まで考える余裕がなかったように見えました。
鈴木 あのヒジによって「え?」という動揺が起きたら、クレベルは単なるテイクダウンじゃなくて、より自分が有利なポジションをとって寝技に持ち込めるわけですからね。だから「コレがこうだったら、こうできた」という展開がずっと繰り返された戦いだったと思います。
――鈴木選手って立ち技競技の方じゃないですか。MMAでの打撃や際の攻防などについては、かなりクレベルやサトシともコミュニケーションを取っているということですよね。
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