2XXX年、アメリカの国技は相撲になっていた! 連日沸き上がるアリーナを四十九番目の決まり手「デトロイト・スペシャル」で席巻するのは「技の横綱」五大湖。しかし謎の奇病に冒され、科学に魂を売った彼が再び土俵に立ったとき、その身体は無数の重火器とテクノロジーと融合した機械横綱と化していた……。そんな全米相撲界の危機に立ち向かうは、十字架の磔像から大復活を果たした「伝説の横綱」! さあ、このブッ飛んだ設定にどこまでついてこれる?
どこまでも荒唐無稽、どこまでも溢れるケレン味! それにヒリヒリした親子愛までブチ込んでくる、稀代のメカニカルバイオレンスファミリー相撲漫画が『五大湖フルバースト』だ。4年前ひっそりとウェブ連載として始まり、その後『ネメシス』(講談社)に再掲載。ネットのコアな漫画読みたちの支持を受けて、ついに今年2月に上下巻が発売されたという粘り腰な一作だ。
しかもこれ、第一部『両国リヴァイアサン』から始まる「SF相撲三部作」のひとつであり、スモー・サーガはまだ続く! 作者・西野マルタはいかにしてこの奇跡の相撲漫画を生み出したのか? それには1人の哀しい結末を終えたプロレスラーの人生があった─。とにかく「この格闘マンガがすごい!」てのがあったら今年度ブッチギリで大賞決定の大傑作!
─本誌は『ガチ相撲』にやたら力を入れていたりと「邪道の相撲」とはやたら縁深い雑誌なんですけど、ならば『五大湖フルバースト』も扱わないわけにいかんだろう、とインタビューにうかがわせていただきました!
西野 僕も「相撲にロボが出た」って話は聞いてるんですけど、ウチに10年くらいテレビがなくって見る機会がないんですよね。プロレスとか格闘技は好きなんですけど、試合はYouTubeで観て、あとはブログとかでチェックするくらいで。
─実際のロボ力士の取り組みは観られてないんですね。よかったような残念なような……。さっそくですが『五大湖フルバースト』誕生のきっかけから聞かせていただきたいんですけども。
西野 いま僕は32歳なんですけど、構想は大学時代からですね。中高と剣道やってまして、もう体育会系はイヤだなと思ったんですよ。それで大学に入って漫画のお話がいっぱいしたいなと思って、漫研(漫画研究会)に入ったんです。「よし、これからは漫画の話をゆるくするぞ!」と思ってたら「描かなきゃダメ!!」っていう体育会系の漫研だったんです。
─あの~、あんまり普通の漫研について知らないんですけど、漫研って普通に漫画を描くところじゃないんですか?
西野 描かなくていいところもあるはずですし、言われても頑なに描かなかった人もいましたね。でも、僕も先輩に言われるとやらざるを得ない体育会系気質なもんで(笑)。
─当時はどんな漫画がお好きだったんですか?
西野 子供のころは普通に『ジャンプ』や『マガジン』読んだり、あと親が『モーニング』買ってきてたりと、いろいろ読める環境ではあったんですね。余暇は立ち読みで過ごしたり。格闘技漫画って意味では中学生くらいに『グラップラー刃牙』にあたりました。
─『バキ』はけっこう衝撃でした?
西野 でも『聖マッスル』とか平田弘史とかそういうのは家にあったんで、『バキ』で特別驚いたことはなかったですね。
─親が『聖マッスル』読んでたって、西野家は漫画エリートですねえ!
西野 ただ、僕自身はやっぱり『修羅の門』とか『タフ』みたいな格闘技漫画に目が行きやすい感じではありましたけど。でも、漫画よりプロレス見始めたほうが先かなあ。
─プロレスを見始めたのはいつごろなんですか?
西野 僕は静岡の生まれなんですけど、中学時代に深夜で新日や全日がやってたころで。とくに印象的なのが、選手でいえばライガーにワイルドペガサス、若手で大谷金本といった新日ジュニアが盛り上がってて「世界最高のジュニア」って言われてたあたりですね。
─インディ団体の勢いもあって、新日ジュニアが盛り上がっていた時代ですね。
西野 ただ高校の半ばくらいからK─1とか格闘技が流行りだして、そっちに流れたんです。もうそのころは周りにプロレス話してもダメなんですよ。三国志の話とかはできても、プロレスはもう全然。
─プロレスは三国志以下の話題(笑)。
西野 でも自分は『週刊プロレス』から『紙のプロレス』に手を出したりして。そのあと大学に入って、WWE好きの先輩に会ってからまたプロレスに戻って。漫研ってネタ出し大会的なバカ話をよくやるんですけど、WWE好きでよく一緒にレスリングごっこをやる大塚さんって仲間がいたんです。その人が「相撲が心・技・体に分かれてインディーズ団体を作ったら面白い」みたいな話をしてて、それからアイデアが生まれたんですね。
─「インディーズ相撲団体」って響きがいいですね! そこから「SF相撲三部作」のアイデアが生まれたと。
西野 そうです。で、もしそんな分裂があったら「体の横綱」「技の横綱」「心の横綱」がいるだろうな、と考えたんですよ。それでまず書いたのが、デカくて強い「体の横綱」が登場する『両国リヴァイアサン』。
─下巻に収録されてる、人体改造された哀しい巨大力士の物語ですね。
西野 次に「技の横綱」ってなんだろう? って考えたときに、「テクニック」イコール「テクノロジー」で機械横綱が浮かんだんですよ。それで機械といえば『ロボコップ』だし、舞台はデトロイトだろうって!
─相撲技が機械って、そこけっこう飛躍してるように思えますけど……。
西野 それは僕の中ではすんなり繋がってるんですよ。それで「テクニックの横綱」っていうと誰だろう? と考えると僕の中ではクリス・ベノワだったんです。
─えっ、五大湖のモデルはベノワだったんですか!
……つづきは誌面で!
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