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序盤はじっくりとしたレスリング、一転して激しい場外戦を経て打撃戦の火蓋が切られ、最後は必殺技の応酬……“プロレスの教科書”と言うべき名勝負となったNOAH後楽園ホール大会の中嶋勝彦vs鈴木秀樹! 30分フルタイムドローのすべてを鈴木秀樹に語ってもらった(聞き手/ジャン斉藤)
――あれ、「思っていたよりも」なんですか?
鈴木 今回の試合はメインやセミではなかったですよね。8試合中の6試合目だから大注目はされないだろうなと。でも、あと考えたらこの試合順にしたのはよくわかります。セミでやるとメインへの切り替えが難しいし、前半にも起きたくない。絶妙な位置だったと思いましたね。
――いわゆる“プロ・レスリング”の攻防が凝縮された試合内容に「こんな戦いが見たかった!」という声が各方面から挙がってますけど、こういった正統派の試合が「特殊なもの」として待望される時代なんだなっていう感想があったんです。
鈴木 ああ、じつは昨日出演した「ニコニコプロレス」でもそういう話をしたんですよ。
――あれま。すいません、その番組は見てないです!
鈴木 それはいいんですけど(笑)。ボクはビル・ロビンソンがやっていたようなプロレスは「空き家だからやってる」という意識はないんですよ。これしかやることがないからやっている。昔の試合を見返すと、ロビンソンの試合はスタンダードではあるんですね。別にロビンソンだけがああいう試合をしてるわけじゃなくて、ルー・テーズなんかも同じような試合をやっているじゃないですか。あの時代からすると今回の中嶋選手との試合も珍しくはないんですけど、お客さんの反応は「珍しいものが見れた!」みたいな。そこは不思議というか。
――こういった反響があることは鈴木さんにとっても手応えがあったと思うんですけど、「珍しいもの」扱いされるということは、そういったプロレスラーがいなくなったのか、もしくはそういう試合にニーズがないのか、ということにはなりますよね。
鈴木 こないだDropkickで阿部(史典)と対談をやったじゃないですか。アイツはバトラーツ系のバチバチ的なものが好きで、ボクはキャッチ・アズ・キャッチ・キャン系の試合が好き。でも、ボクもアイツも自分たちのスタイルがトレンドではないことがわかってるんですよね。大多数のお客さんのニーズがないから、どちらも下火になっている。だってニーズがあれば主流になってるじゃないですか。 で、ボクらはいまのトレンドのプロレスも好きだから、そこに交わるようにやっているんですけど。いまのプロレス界にキャッチ・アズ・キャッチ・キャンの技術を持っている選手がなかなかいないことは、はたしてどうなんだろう?とは思っていることはたしかです。プロレスラーならみんな持っていなきゃいけないものなので。
――鈴木さんの技術は、新日本プロレスで活躍しているザック・セイバー・ジュニアのサブミッションともまた違うように見えるんですね。
鈴木 うーん。ザックの話になると、彼のことをどうしても悪く言ってるように聞こえちゃうのがボクは嫌なんですよ。彼のことは全然嫌いじゃないし、あのスタイルは好きなんですけど。ザックはボクが教えてもらったキャッチ・アズ・キャッチ・キャンではないんですね。なんて言えばいいんだろう??
鈴木 言葉をなんて表現したらいいのか。ザックの試合は見てて面白いんですよ。ただ、ボクのキャッチ・アズ・キャッチ・キャンと同じものとして捉えられるのは違うのかなって。そうですね、クラッシクなものをファッション化したものというか……。
――ああ、なるほど。
鈴木 誤解しないでほしいのは、ザックがダメだとかそういう話じゃないです。彼はボクよりも多くのお客さんから支持を得てるわけですから、ザックのプロレスは正解なんです。でも、キャッチ・アズ・キャッチ・キャンってサブミッションだけではないですからね。今回の中嶋選手との試合もキャッチ・アズ・キャッチ・キャンの要素がなかったかといえば、ふんだんにあったものだと思います。場外に行くまでの展開はまさにキャッチ・アズ・キャッチ・キャンで。
――中嶋選手はいままでこういう試合を見せたことはあまりなかったですが、やろうと思えば普通に戦える。そういう引き出しがあったということは、ザックにもありえるってことですよね。
鈴木 あると思います。いまは必要がないからやってないかもしれないですね。
――凄く雑な問いかけになっちゃうかもしれないですけど、武藤敬司さんと西村修さんのレスリングだったら、鈴木さんは武藤さんっぽいなっていう気もするんです。
鈴木 ああ、ボクは武藤さんのほうが「レスリング」を感じますよね。ボクが武藤さんのファンだったんですけど、武藤さんの動きで好きだったのは序盤のレスリングなんです。そこに華があったんですよ。もちろんムーンサルトプレスもかっこよくて好きだったんですけど、レスリングの動きだけで「この人は強いんだな」ってのが何も知らない素人でもわかる。
――そうやってペースを握っていくのが武藤さんですよね。
鈴木 そうですね。武藤さんは「俺が一番だ」って人じゃないですか。そこでプロレスラーとしてのプライドが見せつけるというか、 時折意地の悪さもあるというか(笑)。その意地の悪さはレスラーとしての本質かもしれないですけど、だから面白い。
――西村さんの場合はいまザックに言われたような、クラシックなものをスタイルとして見せていくところはあるような……。
鈴木 うーん、そこはザックより厳し目の言い方になっちゃうんですけど、クラシックなものをファッション化したのはあの人なのかなって。なんていうんですかね、非パワー系で俊敏な動きができないレスラーの逃げ場にしたような。多くの方がイメージするキャッチ・アズ・キャッチ・キャンやランカーシャスタイルってそういうものじゃないですか?
――パワーファイターを技術でかわすテクニシャンってやつですね。
鈴木 一時期のボクもそう思い込んでいたんですよ。でも、実際にキャッチ・アズ・キャッチ・キャンで習ったり、昔の映像を見て勉強したりすると、ロビンソンやテーズ、カール・ゴッチや猪木さんもそうですけど、みんなパワーがなかったかといえば、そんなことはないじゃないですか。ロビンソンもパワーがメチャクチャありましたよ(笑)。
――ゴッチさんもかなりのパワーファイターですよね(笑)。
鈴木 やっぱりプロレスラーとしてパワーがないとデビューはできなかったと思うんですね。それはサブミッションの技術も同じ。中嶋選手はいままで見せてこなかっただけで。トップレスラーになれるということは、いろんなことができないと無理なんですよ。 同じことを田中将斗さんにも思ったんです。田中さんのイメージはハードコア、ハードヒットなんですけど、いざシングルでやってみるとあたりまえのようにレスリングができるんですよ。そうじゃなきゃあの位置にいないですよね。
――鈴木さんのプロレスラーとしてのイメージもキャッチ・アズ・キャッチ・キャンですけど、それだけではないということですね。
鈴木 キャッチ・アズ・キャッチ・キャンだけで評価されるのは、それほど嬉しくはないんですけどね。 リトマス試験紙のようにに思われるのも……。
――毎回こういう試合をやるわけではない。
鈴木 うん、ずっとこんな感じかといえば、そんなことはないし。ボクは小林軍団だったり、アイスリボンではペイントをして試合をしてますからね。ボクの中ではどれも一緒なんですよ。ただ、プロレスのリングに上がるならば、そういった基本はできないといけないですよね、という考えはあります。
――中嶋選手が普段こういう戦い方を見せていないことへの驚きもあったと思うんです。鈴木さん本人を前にこういう言い方は失礼かもしれないんですが「中嶋勝彦はグラウンドで鈴木秀樹を上回っていた」という声もありますよ。
鈴木 あー、そういうツイートがありますね(苦笑)。
インタビュー10本、コラム8本、9万字の詰め合わせセットはまだまだ続く……
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