不定期更新「ジャン斉藤のMahjong Martial Artas」――なんと2年ぶりのコラムはおのののかRIZIN解説を褒めちぎる原稿です!



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スポーツの実況・解説の仕事とは「試合の中で起きていること」を視聴者にわかりやすく伝えることだが、その攻防を技術面から解説する以外にも、勝敗を左右する決定的場面などでは興奮の声などを持ってして迫力や熱気を届ける立場でもある。

この2つの動画を見比べてほしい。どちらも2013年WBC日本vs台湾戦9回表の攻防だ。常識破りの二死一塁からの鳥谷盗塁から、鮮やかな井端の土壇場同点タイムリー。WBCの名場面のひとつに挙げられているシーンだ。

J SPORT
https://www.youtube.com/watch?v=emXinhyCMUA

地上波
https://www.nicovideo.jp/watch/sm21287942(6:10あたりから)

同じゲームでも民放地上波とCSチャンネルのJ SPORTでは、実況解説のボルテージに大きな差があることがおかわりだろう。マニアがじっくり楽しむJ SPORTとは違って、地上波はそこまで野球に詳しくない視聴者もチャンネルを合わせてくる。地上波のハイテンション実況・解説は、野球を深く知らなくても「凄いことが起きている」感が無駄に伝わってくる。どちらが正しいかではない。ターゲットが別なのだ。

こういった大げさなリアクションで格闘技の醍醐味を世間に知らしめていたのは、PRIDE時代の高田延彦だ。「鳥肌立った!」というド直球な決めゼリフで無双していた高田本部長には「まるで解説していない」などと批判が絶えなかったが、じつは「驚き屋」という一番大事な仕事を務めていた。ところがRIZIN以降の本部長はどういうわけか技術解説に色気を見せてしまい迷走中。こちらの鳥肌の立つ解説がとんと聞こえてなくなってしまった。本部長はいい意味でしっかり解説してはいけないのに!

技術解説と「驚き屋」の食い合わせが悪いわけではない。筆者は青木真也、大沢ケンジ、水垣偉弥、藤井恵を「格闘技解説・四天王」と勝手に目しており、この4人の解説者としてのストロングポイントはそれぞれ異なっているが、大沢氏はこの中で唯一「技術解説」と「驚き屋」の能力をどちらも兼ね備えている。大沢氏が解説者として活躍しているAbemaTV格闘技中継を見ればわかるとおり、彼はひとりで大騒ぎしながら、ひとりで技術解説をこなしている。口の悪いマニアは「大沢はうるさい」と批判しがちだが、それは一人二役でブン回しているから。AbemaTVはアナウンサーとのタイマン形式が多いこともあり、必然的にどちらの役割も求められているのだ。

RIZINなどの地上波中継の場合は、実況アナ、技術解説(高阪剛や中井祐樹、藤井恵)、タレント枠がズラリと並ぶ総力戦で役割がそれぞれ異なってくる。タレント枠が必ず用意されるのは「一般目線」の必要性からだろう。

00年代におけるタレント枠の成功例は藤原紀香や小池栄子が挙げられる。彼女たちが解説席に座ることで「格闘技は女性でも楽しめるもの」というイメージアップに多大な貢献を果たしてくれた。中にはただ座っているだけで、とくに当たり障りのないコメントに終止してしまうお客様タレントも数しれなかったが、それはそれで世間との温度差がある意味でエンタメ化していた。2001年から1年間『ワールドプロレリング』のイメージガールを務めた当時・20歳の乙葉の無知&天然な反応がそれである。「三沢光晴さんって有名な方だったんですね~」(乙葉)

現在RIZINタレント枠はどうかといえば、おのののかは大変難しい役割をこなしていると拍手を贈りたい。一般人からすれば意味不明な格闘技用語が飛び交い、攻防が複雑化した全局面型フルコンタクトスポーツのMMAに正面から向き合いながら、「MMAって何?」という一般目線も忘れてないからだ。

「高阪さん、なぜスイッチするんですか?」
「藤井さん、ハム選手はなぜ相手の右手をつかもうとしているんですか?」

選手や格闘技関係者、マニアなら「わかっていること」としてスルーしてしまうポイントを彼女は決して見逃さない。おのさんは、格闘技知識の土台が確実にあったうえで、視聴者の代弁者となっているのだ(じつはPRIDE時代の高田本部長は「どうなのTK?」という尋ね人の役回りもしていたのだが……)。それでいて「ムサエフ選手の好きな食べ物はお寿司で、嫌いな食べ物はシーフードなんですよ。そこからして只者じゃないって思いました!」などど、細かすぎるマラソン解説者・増田明美ばりのミニ情報を放り込んでくるから油断ならない。しっかりと格闘技を勉強して臨んでいる証だ。そのうえ、とびきりカワイイから最高ではないか。FLASH……じゃなくてフレッシュな格闘家と付き合って何か変なことに巻き込まれないでほしい。

もうひとりRIZINタレント枠で忘れていけないのは勝俣州和の存在だ。リング上で何か動きがあると、必ず勝っちゃんの叫び声が飛んできて番組にエンジンがかかる。勝っちゃんのエネルギッシュさはスポーツ中継と相性と抜群なのだ。そして彼はただ、はしゃいでるわけではなく、破壊王・橋本真也と親友の間柄だっただけあってプロレス格闘技が持つドラマ性も充分に理解している。たとえば宮田和幸vs山本アーセンのテーマを芯から理解しているから、こういった言葉が自然に溢れ出てくる。

「KIDさんがアーセン選手を見守ってるんじゃなくて、宮田選手の後ろにKIDさんがいて向かい合ってる」(2018年12月31日RIZIN/宮田和幸vs山本アーセン)

彼女たちは大事な役割を任せられているが、どうしても「何も知らないくせに偉そうにしゃべりがやがって!!」と批判されがちだ。大晦日RIZINメインイベントの試合後に勝者のマネル・ケイプが実況席に雪崩込んできたときに「ドン引きしている」「喜んでいない」などど批判する声があるが、「日本人が負けて面白くないに違いない」などという偏見からそう見えてしまっているのだろう。試合後に興奮した格闘家があんなに勢いよくやってきたらビックリするのはあたりまえだし、おのさんの拍手の手は止まっていない。勝っちゃんに至っては興奮のあまり立ち上がっている。そのあと身構え気味だったのはケイプの暴走キャラをちゃんと理解しているからだ。

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新規層に排他的になったジャンルは世間から遠ざかっていき、いずれ見向きもされなくなる。そうだ、我々はGACKTを失ったばかりではないか。GACKTの身に何が起きたかは「スタミナ太郎 GACKT」で検索してほしいが、「スタミナ太郎事件」のようなことが続けば格闘技界に関わろうとする人たちはますます減っていく。

もう細かいことはいいじゃないか。格闘技界のスタミナ太郎ゲージはとっくにゼロよ。おのさんのようにしっかり勉強している分にはこしたことはないが、格闘技をよく知らない俳優・タレントたちでさえ「ちょっと格闘技も仕事にしてみようかな……」と、いっちょかみを試みたくなるジャンルこそ栄えるのではないか。おのののかの声は、世間への架け橋なのである(ジャン斉藤)


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