プロレスラーの壮絶な生き様を語るコラムが大好評! 元『週刊ゴング』編集長小佐野景浩の「プロレス歴史発見」――。今回のテーマはドラゴンゲートに降臨したウルティモ・ドラゴンです。
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――小佐野さんとウルティモ・ドラゴンはいつからの付き合いになるんですか?
――浅井さんは有名なプロレスマニアだったんですよね。
小佐野 彼は名古屋の人でしょ。愛知県体育館で全日本プロレスの興行があるときは、リング作りのアルバイトをやってて。馬場さんやファンクスの前で宙返りを披露して喜ばせたりしてたんだよね(笑)。
――高校卒業後に新日本道場に潜り込むわけですね。
小佐野 いったんはどこかの電気会社に就職してるはず。スーパータイガージムにも顔を出してるんだよね。憧れていた佐山(聡)さんに「プロレスラーになるためにはどうしたらいいんですか?」なんて聞いたりして。新日本の入門テストを受けて内容はよかったんだけど、いかんせん身体が小さいから落ちてね。ただ、山本小鉄さんは小さい人が好きだから「入門はできないけど練習するのはいいよ」と。船木(誠勝)と練習をしていたなんて話は聞いたことある。
――そこからメキシコに渡ってユニバーサルのエースとして逆輸入されて。
小佐野 90年代はそれまでの新日本と全日本だけじゃなく多団体時代に突入するけど、プロレスラーになるための意識を変えたのは大仁田厚と、そして浅井嘉浩の2人だと思いますよ。 大仁田は成功せず一度は引退したけど、復帰後はやりようによっては大ブレイクできるとみんなが夢を見た。それであんなにインディ団体がボコボコ生まれたわけでしょ。
――大仁田厚はアイディアと情熱の勝利ですね。
――海外デビュー組最大の成功者がウルティモ・ドラゴン。
小佐野 ユニバーサルからSWS、WARを経て、入門できなかった新日本に上がって、1発目の試合でIWGPジュニアのチャンピオンになっちゃったんだからね。試合後「ボクは6年前、背が低くて新日本には入門できませんでしたけど、諦めなければベルトは巻けるんです」とマイクして感動を呼んでね。それを見ていた現場監督の長州力が「女々しいこと言ってんじゃねえ」って浅井に怒ったらしいんだけど(笑)。
――ハハハハハハハ。長州さんは「俺の一生にも、一度くらい幸せな日があってもいいだろう」という喜びの表現をする人ですからね。
小佐野 お涙頂戴ではなくチャンピオンとして胸を張れ!ってことなんだろうね。まあ、浅井がなんのバックボーンも持たずに成功したのは身体が小さい人への大きな励みになったと思うよ。
――ユニバーサルの旗揚げ戦は紙面からでも革命的なことが起きていることは伝わってきました。
小佐野 なんといってもラ・ケブラーダ。あの写真だけでもインパクトあったもんね。いまではみんなあたりまえのようにラ・ケブラーダを使うけど、あんな技を使う人はメキシコにもいなかったわけだから。
――日本だけではなく世界のプロレスを変えたんですね。
小佐野 やればできるんだろうけど、その発想にたどり着くかどうかってことだよね。ユニバーサルで帰国する前、新日本の坂口(征二)さんがメキシコ視察に行ったときに、たまたま試合が組まれていたので浅井がアピールするためにラ・ケブラーダをやってみた、みたいな話もあるよね。
――売り込むために開発した技なんですね(笑)。
小佐野 浅井が日本でやったのは、まるっきりのルチャではなかったこともミソなんだよね。グラン浜田さんなんかはまるっきりのルチャを持って帰ってきたんだけど、ちょっと日本人には合わないところがあった。ジャパニーズ・ルチャの叩き台を作ったのは浅井だと思うよ。浅井の頭の中では「そのままルチャリブレを持ってきても日本では成功しない」という考えがあったんだと思う。彼はプロレスファンだし、新日本の道場にもいたので日本のファンが何を望んでるかは理解できていた。
――日本ファン向けに味付けする必要があったと。
小佐野 ルチャリブレの試合の組み立ては日本のプロレスとは違うもの。日本のプロレスをベースにして飛んだり跳ねたりする。ルチャって初めは目新しいかもしれないけども、曲芸にしか見えないところもあって長続きはしないんだよね。たとえばフィニッシュホールもボディアタック系ではなくマヤ式ジャーマン・スープレックスだったでしょ。日本のプロレスファンはジャーマンが好きだし、レッグロールクラッチも好きだから。
――日本ファン向けの必殺技だったんですね。なるほどなあ。
小佐野 ユニバで帰ってきたときにネグロ・カサスと抗争したけど、ネグロ・カサスがスペイン語でガーッと挑発した。当然浅井はメキシコ語を喋れるんだけども「ここは日本なんだから日本語で喋ろ!」とアピールすることで日本のファンを味方にするんだよね。
――その当時からプロデューサー視点で物事を進めていたってことですね。
小佐野 ファン目線で物事を見てたんだろうね。自分がプロレスファンだったから「こうすれば喜ぶんだろうな」とわかっていた。そういうプロデューサー頭があるから闘龍門も成功したんだと思うよ。
――浅井選手はウルティモ・ドラゴンに変身して、ユニバーサルからSWSに移籍しますよね。
小佐野 メキシコのUWAからCMLLに移籍してね。 SWSがそのCMLLと業務提携したことで、SWSに参戦することになったから形的には円満移籍になったんだけどね。ただ、決定する前には裏ではいろいろあった。あの年の3月のレッスルマニアに天龍さんと北尾が出ることになって、私も開催地のロスまで取材に向かったんだけど、その行きの飛行機の中で浅井と一緒になって。そうしたら浅井のほうから「天龍さんに会わせてほしい」と相談されてね。
――それはSWS移籍の相談をしたいと?
小佐野 うん。それで浅井はロスでカブキさんも交えて天龍さんと会ったんだよね。で、その年の夏、帰国した浅井を連れてSWSの事務所まで地下鉄で案内したんですよ(笑)。それはユニバーサルのシリーズとか関係ないときに来日して。 そこでカブキさんと細かい打ち合わせをして、ユニバに角が立たないように移籍しようと。彼がどうしてSWS行きを望んだのか詳しい話は聞いたことはないけども。
――もともとユニバーサルではなく新日本に戻ってくるんじゃないかという話もありましたよね。
小佐野 もっと言えば FMWの旗揚げ戦に浅井が参戦するという話もあったんですよ。その頃は新間(寿)さんと大仁田厚がくっついていたから、新間さんがメキシコから浜田さんと浅井を持ってこようとしてね。 FMWのなんでもあり路線の中にはルチャリブレもあったんだけど、新間さんと大仁田の関係がダメになっちゃったから自動的に浅井参戦の話もなくなって。
――そこでFMWに参戦していたらプロレス界の歴史もまた変わってたんでしょうねぇ。
小佐野 ユニバ帰国前から注目の選手ではあったんだよね。日本人がメキシコでスターになって、最優秀外国人賞を取っちゃったというニュースも入ってきたし。浅井に憧れてグレート・サスケという選手も生まれたり。サスケは浅井の付き人だったから。
――新しいファンはビックリする関係ですよね(笑)。
小佐野 邪道・外道、カズ・ハヤシ、 TAKAみちのく、スペルデルフィン、ディック東郷もユニバ出身。その後のジュニアを支配する人脈だよね。そうそう、浅井がユニバーサルをやめるときにケジメの1試合をやった。それは新間さんと天龍さんの約束だったんだけど、最後の試合のときにカブキさんが用心棒としてやってくるという(笑)。
――ハハハハハハハ! 90年代当時でも移籍劇は物騒なネタだったんですか?
小佐野 じつはそう。いまはもうなんのわだかまりもないけど、あのときは浜田さんが怒ってね。俺が控え室にいたら「浅井はどこにいるんだ?食らわさなきゃ気がすまない」って怒ってて。「やめましょうよ」って止めた記憶がありますよ(笑)。
――昭和プロレスですねぇ。平成なんですけど(笑)。
小佐野 しばらくしたらカブキさんが浅井にピッタリついて会場入りしたから、何かあったらカブキさんが止めるんだろうなって。何事もなく試合も終わったんだけどね。
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