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格闘技中継が増加の一途をたどる昨今――実況・解説の役割を知り、さらに番組を楽しむために格闘技中継などでおなじみのアナウンサー西達彦さんにお話を聞いてきました。1万字インタビューです!


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――
今日は、UFCやパンクラス、ONE Championshipなどの格闘技実況でおなじみの西達彦アナウンサーにお話をおうかがいしたいと思います。テレビ放送しかなかった時代と比べて、最近は格闘技配信が当たり前のようにあるのでいろいろと聞かせてください!

西
 よろしくお願いします!

――
まず、西さんの経歴ですが、アナウンサーとしては非常に異例のキャリアなんですよね?

西
 ボクは局アナを経ていない人間なので、かなり珍しいと思います。もとから、しゃべりの仕事をしたくて就職活動でもテレビ局を受けていたんですが、なかなかうまくいきませんで。結局、新卒では旅行会社に就職したんです。でも、やっぱりアナウンサーの仕事をやりたいなという想いが強かったので、アルバイトしながらでも目指してみようかな、と。

――
当時からスポーツの実況アナを目指していたんですか?

西
 いや、最初は情報番組のレポーターをやりたかったんですよね。もともと旅行が好きだったので。それに、ボクは中学時代もブラスバンド部でしたし、スポーツはまるっきりやっていないんで、スポーツ実況は向いてないだろうと思っていました。ただ、アルバイトをしながらアナウンサーを目指しているときに、神宮球場で六大学野球を見ながらよく実況の練習していたんですよね。それがけっこう面白くて。

――
へえ~、そういうところで練習したりするんですね。

西
 実況アナウンサーを目指す人間って、神宮球場のネット裏でブツブツ言っているんですよ。とくに大学野球は必ずと言っていいぐらいアナ研の子たちが練習していますね。ボクも混ざって練習していたら、スポーツをやったことがない人間でも頑張ればできそう、面白そうだなということで、スポーツ実況の世界にハマっていきました。

――
それと並行して就職活動もやっていたんですか?

西 じつは、ボクの場合はそこも変わっていて。練習で実況した音声をテープに吹き込んで、何かアドバイスをもらえたらと思って身近にいるアナウンサーの方に聞いてもらったりしていたんですよ。それこそ、いまボクが所属している『ボイスワークス』の方にも聞いてもらったり。そのテープが巡り巡ってある放送局の野球担当の方に渡りまして。当時、その局ではたまたま「若くてこれからのアナウンサーを育てていきましょう」という方針があったようで、そこでお声がけいただいてアナウンサーとしてのキャリアをスタートできたんですよね。それが2006年のことでした。

――
やはり現場で練習するのは、画面越しだと全然状況が違うんですか?

西
 そうですね。たとえば画面越しだと、野球ならヒットを打ってランナーが二塁から三塁に回ったりしたときに、カメラがそっちに向いていないとわからないですからね。

――
実況アナは全体を見渡すわけですもんね。

西
 あと、実況でよく「彼は何日間連続ヒットですね」とか言いますけど、あれも実況アナウンサーが普段から記録している資料をもとにしゃべっているんですよ。つまり、野球の実況をするアナウンサーは、何打数何安打というのを毎日自分で記録しているんですよね。

――
となると、自らも現場で取材しないといけないケースもある、と。

西
 そうです。ボクは埼玉西武ライオンズの実況もさせていただいているので、2月初めの3日間は宮崎
の西武キャンプを取材して、新戦力の情報を得てきたところなんですよ。それはそれで面白いと思っていて。そうやって経験を重ねるうちに、現在は野球のほかにもサッカーや格闘技をやらせてもらえるチャンスに巡り合ったかたちですね。

――
それぞれの競技についてはオファーがあってから勉強するんですか? それともやりたいジャンルをアピールして営業をかけていくスタイルなんですか?

西
 ボクの場合は一番はじめが野球だったんですけど、実況アナとしてなんのキャリアもなかったので、いただいた仕事に合わせてという感じです。もちろん自分がやりたいジャンルを事務所に伝えて営業をかけてもらう方法もあると思いますけど、やっぱり仕事なので「これしかやりたくない」ということはないですね。どこにチャンスがあるかわからないですから。だから全然経験のない競技にも挑むんですけど、その一つがまさに格闘技でした。

――
イチからの取り組みなんですね。西さんが格闘技の実況に携わった最初のきっかけってどういうことだったんでしょう?

西
 一番はじめはWOWOWさんのUFC中継からで、UFC89からなんですが、きっかけはオーディションでした。なぜオーディションが行われたかというと、WOWOWで長年格闘技実況をされている高柳謙一さんはボクシング中継も担当されているので、UFCと大会が被ることがある、と。そのときのために実況アナを用意しておこうということだったと思います。

――
そこから格闘技の実況に取り組んで。

西
 そうですね。実況についてはもちろん高柳さんにもいろいろ教えていただきましたし、とにかく過去の映像を見ながら必死になって練習しました。

――
それはいち視聴者としてもあまり格闘技を観る機会がなかったということですか?

西
 一般的な人がテレビで観る程度でした。だから選手の名前は知っていますけど、技の名前までは知らないという。だから、当時のUFCの実況は本当に申し訳ないできだったと思います。いまは当時の映像は見返せないです…(苦笑)。

――
ハハハハハ! まあ、仕事でそういうことってよくありますよねえ。

西
 本当に、最初の3~4年は無我夢中でした。

――
昔は中継がそんなにありませんでしたから、格闘技担当の局アナはともかく、フリーの方は詳しくなれる機会はないですよね。

西
 格闘技に関しては、プロレスの実況をしている方が並行して格闘技を担当するイメージでしたよね。それに、プロレスを実況している方は子供の頃からプロレスや格闘技そのものに興味を持っていて、それこそプロレスごっこをしたりしながら育ってきた方だったりするじゃないですか。でも、私は文化系の最たる人間ですし、兄弟も姉貴が2人なのでチャンネル争いをしても『キン肉マン』にはたどり着けないという。

――なるほど(笑)。そういう方から見ると、格闘技がどこでどう盛り上がっているのかもわからないかもしれないですね。

西 技術に関してはUFCの解説は高阪剛さんなので、高阪さんの寝技解説DVDを一生懸命に観て勉強していました。DVDを観ているときは「なるほど」と思うんですけど、試合でそれが起こったときに、すぐにその技を言えるかというのはまた別問題なんですよ。

――
理解できていても、知識が身に染みているかはまた別だという。

西
 足関なんかもどこが極まっているかわからないですし、下にいる選手が狙っているのが腕十字か三角絞めかを見極めるのも難しかったですね。あとは柔道技でテイクダウンしたときに、それが何の柔道技かを説明できなかったこともあり、そのときもツラかったです。

――
しかも、格闘技って凄く不規則ですもんね。野球は「静」から「動」のスポーツ、サッカーはずっと「動」のスポーツですけど、格闘技は展開が早いときもあれば、ずっと動かないときもあるという。

西
 とくに膠着気味の試合なんかは、難しいですよね。あと、やり始めた当時、高柳さんが凄いなあと思ったのは、ボクシングとか打撃系の実況をやっている方って、目が打撃に付いていけてるんですよ。「パンチが見えるか、見えないか」の差は大きいので、ボクは高柳さんが言ってること見えてないなと。

――
当たっている、当たってないかがわからない。

西
 パンチを見る目をつくるのが大変です。この打撃が有効打なのか、そうじゃないのか、スウェーバックで逃げてるのか、当たっているように見えているけど当たってなかったのか……とか、そういう部分で凄くコンプレックスを感じながら、最初の3~4年間を過ごしていました。

――
何か試合展開が動いたときに最初に伝えるのは実況アナですから、重要な存在ですよね。

西
 そうです。だからこそ一生懸命勉強しようと思って頑張るんですけど、そうすると今度はその知識を出したくなるんですよね。でも、それを出しすぎると今度はうるさくなってしまうという。たとえば昔の女子プロレスの実況の志生野(温夫)アナウンサーさんなんかは、何が凄いって、難しい言葉をいっさい使っていないんですよね。

――
志生野さんは「いったー!」とか、「投げたー!」とかで伝えていましたもんね(笑)。<1万字インタビューの続きは会員ページへ>

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