・天心vs堀口は「フェイクの天才」対決です/鈴木秀明
――パッキャオのときはドーピング検査のやり方や、PPVの取り分を巡ってずいぶん揉めてましたよね。
鈴木 言い方は悪いですけど、それで結局、お互いの旬の時期を逃しちゃって。「もうやらないんだな……」って思っていたら急遽やることになって。
――今回の那須川天心戦も急な発表でした。
鈴木 いやあ、ビックリです。あのメイウェザーが日本でキックボクサーと闘う。これはもう大変なことだと思いますよ。たとえると、周富徳がそこらの中華料理屋に現れて、厨房で何か料理を……。
――それだと『浅草橋ヤング洋品店』で浅草キッドが案内人でやっていてもおかしくないです!(笑)。
鈴木 ああ、もっとスケールがないとダメですね(笑)。そうですね、マイケル・ジャクソンが日本の小さなクラブのステージにフラリと現れて、突然ライブをやるようなもんですよ!
――それは大事です!
鈴木 しかもステージ衣装じゃなくて普段着ですからね。メイウェザーもボクシングの公式戦ならまだわからなくもないんですよ。いや、公式戦でもありえないんですけど、今回はそれ以上にありえない試合というか。
――得体の知れないことになってますもんね。
鈴木 メイウェザーが日本にやってくることがいかにありえないか。ボクはファイトスポーツ全般が大好きなんですが、その中でも一番凄いのがラスベガスのボクシングメガファイトだと思うんですよ。ボクは以前パッキャオvsシェーン・モズリー戦を見るためにラスベガスまで行ったことがあるんですよね。
――モズリーとはオスカー・デラホーヤに2度勝ったことのある3階級制覇王者ですね。
鈴木 2万円の一番安い席で見たんですけど、リングサイドは数百万円で。ラスベガスの街自体がボクシング一色だったんですよ。街中のいたるところに試合のポスターが貼られているし、パッキャオの母国フィリピンから観光客が押し寄せていたり、どのホテルでも特設コーナーが設けられて試合のグッズを売ってましたし。注目度や大会規模、動くお金……あらゆる面から、ラスベガスのメガファイトこそがファイトスポーツの頂点だと思ってるんです。その真ん中に君臨するのがメイウェザー。そのスーパースターが日本のキックボクシングに関わっちゃうんだっていう驚きがありますよね。
――ラスベガスから飛び出てきちゃうことすらありえないのに、キックボクサーと拳を交えるのはもっとありえないと。
鈴木 いまだに「本当なんですか?」っていう心境ですね。 メイウェザーの試合は昔から見てて、ライト級やスーパーライト級の時代が一番好きで、あの頃は動きが早いし、倒しに行くしで。一度ダウンさせられたときなんて、猛攻で逆転勝ちしちゃったり。昔のメイウェザーの試合は面白かったんですけど、階級を上げるにつれてさらに勝つことに徹し始めて。
――ディフェンシブになってるから面白くないという声は挙がってますね。
鈴木 いまのボクシングってメイウェザーにかぎらず、積極的に倒しにはいかないんですよね。倒すのがうまい選手はたくさんいるんですけど、強振はしないんですよ。アマチュアボクシング寄りに当てるポイントをつけるようになってから、 ガンガンとダメージを与えることはあまりしなくなってますね。
――でも、勝つことに徹して勝ち続けるんですから凄いですよね。普通のファイターは勝とうと思っても勝てないわけですから。
鈴木 そうなんですよね。50戦無敗ですからね。いまでもちゃんと練習はしてると思いますよ。40歳を過ぎてあの身体のキレ、スピードを維持できるのは凄いです。
――那須川天心は「メイウェザーを倒す」と宣言していますが、メイウェザーはエキシビジョンマッチを強調してるじゃないですか。どういう試合になると思いますか?
鈴木 メイウェザーって試合前は口で攻撃しまくるんですよ。試合前はなんだかんだ煽りながら、試合になると淡々と戦うんです。それは試合を盛り上げる意味もあるんですが、煽ることによって相手の動きを雑にさせる狙いもあるんです。
――メイウェザーの戦術なんですね。
――そこはサイコロジーに長けている。プロレスにも通じますね。
鈴木 メイウェザーは人種の問題を含めて煽りますからね。パッキャオのときも「あの小人を踏み潰して、米を炊いて寿司でも作らせてやる!」って言うんですよ。フィリピン人と寿司はなんの関係もないのに(笑)。
――とんでもないことを言ってますね(笑)。こないだのラスベガス会見も面白かったですね。とにかく「俺は本気で闘わない」ことを強調して、隣に座っていた那須川天心がずっと渋い顔をしてるという。
鈴木 実際に日本のファンは「メイウェザー、ムカつく!! 天心頑張れ!」というムードになってたりしますから。
――一番のポイントはメイウェザーが真剣勝負で戦うかどうかなんですね。
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