90年代のパンクラス黎明期から活躍、対バーリトゥード路線では切り札的存在感を示し、MMAに完全シフトしたいまなおパンクラス上がり続けるレジェンドパンクラシスト、近藤有己が登場! プロデビュー以来ロングインタビューを受けている印象がない近藤だが、その不動心に迫れば迫るほど……17000字で不動心のミステリーワールドに誘います!
格闘技という名の青春、完結編―― 「ミノワマン、家族と共に故郷パンクラスに帰る」の巻!!
――近藤さんってSNSをやらないですよね。
――「ネットはあまり好きじゃない」って過去のインタビューで答えてますけど。
近藤 好きじゃないってわけじゃないですけど、やり方がわからないです。
――Facebookには近藤さんのページがありますけど、どなたかにやってもらってるんですか?
近藤 …………。
――あるんですよ!(笑)。
近藤 よくわからないんですよねぇ。
――よくわからないといえば、リングネームを近藤有己から「有己空」に改名されて、また近藤有己に戻したじゃないですか。あれはいったいなんだったんですか?
近藤 あれはね、ふと思ったんですよ(笑)。ああいいうのって自分の中で盛り上がるけど、寝て起きたら「……バカじゃないの?」って覚めるじゃないですか。でも、「……これはいいんじゃないか。よし、変えよう!」って。
――一晩経ってもナイスアイデアだと。あの「空」はどこから来たんですか?
近藤 空が好きだし……空っぽという発想が好きなんですよ。
――あ、なるほど、空っぽと空。
近藤 そういうイメージが好きなんですよ。「何もない」「何も持っていない」自分が好きだった。
――AV女優っぽい名前だなって思ったんですよ。
近藤 ああ、そうですか。蒼井そらね(笑)。
――近藤有己で定着してましたから、改名は周囲に反対されませんでした?
近藤 反対されなかったですね。皆さん、ボクの性格がわかってるから「そうですか」ってすんなり通って。また戻すときも「そうですか」って感じで。
――なるほど(笑)。なぜまた元に戻したんですか?
近藤 あれはね、「……戻そうかなあ」って。
――理由はあるんですか?
近藤 それが理由はないんですよねぇ。ふと「やっぱり近藤有己だろ!」って。
――やっぱり有己だろうと(笑)。近藤さんはひっそり100試合目を突破してるんですよね。
近藤 100戦いってるらしいんですね。
――らしい?
近藤 こないだ、なんか聞いたんですよ。100試合を超えてるって。
――「こないだなんか聞いた」(笑)。ご自分ではあんまり気にしてないんですか? 100試合目って大きな節目ですけど。
近藤 うーん、気にしてましたけどね。特別数えてなかったというか……数えてもすぐ忘れちゃうし。
――忘れちゃうってどういうことですか?
近藤 頭がバカなんでしょう。頭は悪いですね。
――そういう問題なんですかね?(笑)。
近藤 「いま何戦だったけ? そんなにやってんだー!」 ……「で、いま何戦だったけ?」みたいな繰り返しで。
――普通はメモリアルマッチをやったりしますよね。
近藤 うーん、そういうメモリアルマッチみたいなのがあればね、それはそれでやりますし。自分から「メモリアルマッチをやろう!」とは思わないですね。まだ100戦目ぐらいじゃメモリアルにはならないよ。
近藤 1000でやっとかなって。
――MMAだと1000試合は超難しいと思うんですけど(笑)。
近藤 うーん……でも、やっぱりそこ目指してやっていきたいですね。
――いまの話を聞いて思ったのは、近藤さんって昔からブレてないですね。
――たとえばいまから10数年前、PRIDEミドル級GPに出るか出ないかという時期のインタビューだと、「どんな小さい大会でも出たい」「試合はもちろん勝つためにやるけども負けてもあんまり気にしない」みたいなことをおっしゃってたんですよ。いまの近藤さんって勝っても負けても淡々とリングに上がり続けてますよね。
近藤 負けたら多少は気にしますけどね(笑)。
――あまりにも淡々と試合をこなしてるから「近藤有己は何を考えてるんだろう?」って思っちゃうですよ。
近藤 たぶん他人よりはあまり気にしないほうなのかもしれないですね。気にしないというか、「負けたなー、残念だなー」で終わってるのかもしれないです。うん。あれですね、あんまり引きずらないほうなんですよ。
――すぐリセットできるというか。
近藤 やっぱり、忘れっぽいんでしょうね。
――「あれ?100試合目だっけ?」みたいな(笑)。昔からそんな感じですか?
近藤 フフフ、けっこう子供のときからそうですね。忘れ物の天才でしたからね。絶対忘れ物する子供いるじゃないですか。
――いますね、何度注意されても。
近藤 気をつけてはいるんですけどね。
――それは格闘技ではいい面に作用しているということですか?
近藤 フフフ、してるのかな……悪い面にも作用していると思いますけどね。
――負けてけっこうショックを受けたり、引退を決めたり、試合から遠ざかる選手もいるじゃないですか。
近藤 いますよね。
――そういう選手をご覧になってどう思いますか?
近藤 「そんなにそんな風に思いつめることないのにな……」って。ダメならダメでやり続けるのもひとつの手なんじゃないかなとは思うんですね。
近藤 まぁ、ないですね(即答)。
――早っ! もうちょっと考えてもらえないんですか?(笑)。
近藤 うーん、ないんですよね、そういえば。ないですね。ないですけど、やっぱりね、それこそ去年3連敗したんですよ。けっこう周りが心配してくれて。
――ファンも「どうするんだろう?」と思ったはずなんですよ。
近藤 けっこう声をかけてくれて、それは凄くうれしかったですね。自分の中にグッとと入ってきて「がんばろう!」と思ったし。それでいまちゃんとがんばれてるんじゃないかなと、格闘技に対して。なんとなく「やれんじゃないかな?」という感じでやってたわけではないですけど、ちゃんとやりたいなっていう風にいまは思ってます。
――ここにきて気をまた引き締まったわけですね。
――なんとなく近藤さんの性格がつかめてきました……。あまりしゃべらない方と聞いてたんですけど。
近藤 そういうわけではないですけどね(笑)。
――今日はパンクラスに入った頃の話も伺いたいんですけど、もともとは少林寺拳法ですよね?
近藤 そうですね。いわゆる総合格闘技的な世界に入りたくて、なんかやっとかなきゃっていう思いで始めたのが少林寺拳法で。当時ボクが一番総合格闘技だな、なんでもありの戦いだなって思えたのがプロレスだったんですね。
――プロレスラーになりたかったんですね。
近藤 そうですね。新日本プロレスが好きだったんです。
――誰が好きだったんですか?
近藤 俺ね、獣神サンダーライガー。佐野(巧真、当時・直樹)選手とのタイトルマッチを見て、俺はプロレスラーになろうと思いました。
――当時のプロレスは冬の時代と言われて、あんまり目立ってなかったですよね
近藤 たしかウチの田舎では土曜4時から放送だったのかなあ。もっと子供の頃、タイガーマスクがいたころも「あー、いいな」とは思ってたんですけど、ちゃんと見て面白いと思うようになったのは、ライガーが出てきたぐらいの頃で。あとジャッキー・チェンが好きだったんですね。でも、ジャッキー・チェンは結局お芝居の中の世界なので、本当に戦う人間になりたいなって。かといって、路上で戦ったら法に触れるしなって。そこで一番なんでもありというか、自分にとって一番MMAだったのはプロレスだったんです。
――それでプロレスラーを目指そうと。
近藤 プロレスラーになりたいと思っていろいろ調べるじゃないですか。たいていのプロレスラーは高校時代にレスリングや柔道をやってるんですよ。自分の高校はレスリング部はなくて、柔道部はあったんですけど、少林寺拳法部もあったんです。
――珍しいですね。
近藤 少林寺拳法部がある高校は県内に4~5校しかないんで、すぐに全国大会に行けるし、毎年のように誰かが全国大会に出るから修学旅行の感じでついていって。
――ジャッキー・チェンに憧れていたなら、柔道より少林寺拳法を選びそうですね。
近藤 ですかね。子供の頃にもやってたんですよ、少林寺拳法。
――もともとやってたんですね。ルールってどういったものなんですか?
近藤 ルールっていうか、試合がないんですよ。演武大会なんですよ。
――型なんですか?
近藤 型というか……型とはまた違うんだけど、戦いを2人1組で作るんですよ。少林寺の技をいろいろ入れて、うまく攻防を見せるというか。
――へえー、面白そうですね。
近藤 話はそれますけど、女の子の部員もいっぱいいるんですよ。いかつい女子じゃないんですよね、本当にかわいい女子というか。練習も一緒にやるんですけど、手首を極める練習も男女同士でやったりするんですけど。ちょうど思春期なんで、その、なんだろな……手を極めながら「この子、手首が柔らかいな……」とか「いい匂いがするな……」とか。
――少林寺拳法どころではない(笑)。
近藤 本当に楽しくてしょうがなかったです。
――演舞だと強さを競うって感じではないですね。
近藤 ないんですけど、体捌きさとか、フットワークとか腰の回転だったりとか、動きが凄く理にかなってるんです。凄くためになりました。
――ずっと型を繰り返すことで身につくわけですね。卒業後はパンクラスに入るわけですよね。
近藤 ですね。
――パンクラスは従来のプロレスとは異なってましたけど。
近藤 プロレスラーになると決めて、いろんな団体を見てくじゃないですか。より妥協のないスタイルでやりたいと思うようになって、新日本からUWFのほうに興味が移って。UWFで船木(誠勝)さんが高田(延彦)さんたちに勝った試合を見て「このスタイルでもこんなにカッコよくなれるんだ! カッコよく試合ができるんだ!!」と感動して。このスタイルを俺はやりたい、UWFに入りたいと思ったんですよね。
――でも、新生UWFは解散しちゃいますよね。
近藤 ボクが中学3年のときに解散したのかな。藤原組に入るつもりだったんですけど、高校3年のときですね、パンクラスができて。卒業するときだからタイミングはよかったんですよ。
――同じU系のUインターやリングスには興味はなかったんですか?
近藤 やっぱり船木さんが好きだったので。とにかくあの人のところでやりたいと。
――入門テストのことって覚えてますか?
近藤 7月23日だったかな。そのときは落ちたんです。2回目のテストが3月29日か30日だったか。そこで受かりました。
――そこで受からなかったらどうする気だったんですか?
近藤 そしたらまた3回目のテストを受けるつもりですね。
――親御さんは反対しなかったんですか?
近藤 反対しました。ずっと反対されてたんですけど、もう言っても聞かないからあきらめてました。中学3年頃から将来の話とかになるじゃないですか。「プロレスラーになりたい」って言ったら「何を言ってるんだコイツ」みたいな感じで。最終的に専門学校に出したつもりで「行ってこい」と。人生勉強になるんじゃないかみたいなふうに思い始めてたみたいですね。
――入門テストに受かると思ってましたか?
近藤 あー、難しいなとは思ってました。厳しいだろうなって。とにかく狭き門だろうし。
――練習生の生活はどういうものだったんですか?
近藤 朝起きて掃除雑用やって練習して、終わるとまた雑用して、また練習して、寝るだけですね。そうするとあっという間なんですよね。さっき寝たと思ったのにもう朝なんですね。
――道場の敷地内のスーパーハウスに寝泊まりするんですよね。
近藤 そうです、そうです。よく工事現場に簡易的に置くやつですね。意外と快適なんですよ、あれ。でも、生活自体は本当につらかったんですよね。
――やめようとは思いませんでしたか?
近藤 ちょっとでも思ったら「俺、やめちゃうだろうな」って。ホームシックもあったし、練習しんどいし、自分の時間もなかったし、本当つらかったですねぇ。ちょっとでもやめたいなって思ったら俺たぶんやめちゃうだろうなって思ったんで、考えないようにしました。「やめる」という単語を頭の中に出さないようにしました。
――やっぱり先輩方は怖かったですか?
近藤 怖かったですね。
――誰が一番怖かったですか?
近藤 みんな怖かったです(笑)。
――威圧感なんですかね?
近藤 威圧感ですね。威圧してるわけじゃないんですよ、船木さんにしろ鈴木さんにしろ高橋さんにしろ、威圧したつもりはたぶんないんですよ。ないけど、にじみ出るというか、こっちが勝手に感じてしまうのか。
――いまの格闘技ジムって一般人が月謝を払って通ってますから、優しく丁寧に教えるじゃないですか。当時は育てるというより、厳しい練習でふるいにかけるという感覚ですよね。
近藤 それでもパンクラスを旗揚げして選手を育てなきゃっていう思いはあったと思うんですよ。それこそUWFや藤原組の頃よりも、ちゃんと育てようという思いがあったような気がするんですよね。
――パンクラス以前はシゴキやイタズラがハンパじゃなかったみたいですし。
近藤 自分らのときもあるにはあったんですけど。理不尽に怒られるとか、そういうことはなかったですね。
――プロレス道場って理不尽に怒られる、殴られるのはあたりまえの時代で。
近藤 そういうことも覚悟していったんですけど、ちゃんと怒られて、ちゃんと厳しくされるというか。そこはちゃんとした大人たちだったなと思うんですよ。当時船木さんにしろ鈴木さんにしろ高橋さんにしろ、まだ若かったわけですから。
――育成方針もあったからなのか、パンクラスの練習生からプロデビューした選手は多いですよね。
近藤 そうですね。意外と残ってたんじゃないかな。
――あの頃って船木さんや山田(学)さんが映画にハマって自主制作作品を撮ってましたけど、近藤さんも出演されてましたか?
近藤 出てましたね。
――近藤さんの主演作品もあったという話も聞きましたけど。
近藤 主演は1回ですね。4〜5本撮ったんじゃないですかね。
――脚本も用意されてなくて演者もどんな作品を撮っているのかわからなかったとか(笑)。
近藤 あぁ、そんな感じですね。急に「これ、やって」みたいな感じで。できあがったあとで「おー、なるほど」と。
――鑑賞会もやられてたんですね。
近藤 鑑賞会はありましたよ。船木さんが編集して、映写機みたいなの持ってきて、スーパーハウスの中で見て。
――スーパーハウスで鑑賞会(笑)。
近藤 全員は入れないんで、何人かに分かれて(笑)。出来栄えは悪くなかったです。うまいこと編集するなって思いましたね。
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コメント
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久々にこのインタビューを読んで、感動した。