RIZIN広報・笹原圭一氏インタビュー。2回目の大晦日イベントを終えたRIZINは何を考え、どこへ向かっていくのか――?「視聴率獲得への飛び道具」「那須川天心MMA連戦の舞台裏」「川尻達也とプレッシャー」「クロン ・ヒクソンの親子喧嘩」「メジャーイベントの必要性」「テレビ局からの要望は若手」「RIZIN以前・以後…主語の入れ替わり」……1万3000字で語ってくれた!(聞き手/ジャン斉藤)
――年末はお疲れさまでした!
笹原 本当に疲れました……想定外のことがいろいろと起きましたから。
――たとえば欠場が相次ぎましたね。ヴァンダレイ・シウバや神取忍の欠場、大会直前にはチャールズ“クレイジー・ホース”ベネットがアメリカを出国できないというトラブルに見舞われたり。
笹原 ベネットはビザ問題で出国できなくなっちゃったんですけど、今回のトラブルは本当に謎なんですねぇ。前回RIZINに出たときは、なんの問題もなかったですし、11月にはシュートボクシングさんの試合にも出たじゃないですか。
――ベネットにはドラッグ等の犯罪歴があったにせよ、急に出国できなくなったんですか。
笹原 外国人選手には出国トラブルやビザ問題はつきもので、いままではなんとか解決できたんですけど、今回はどうやっても無理でした。ベネットはたしかに犯罪歴がありますけど、本人は更生したいと強く考えていたんです。そのためにはRIZINで試合をして稼いで……という道が閉ざされてしまったかもしれないんですよね。
笹原 ベネットはマイアミの領事館で「俺はどうやって更生したらいいんだ!? 日本に行かせてくれ!」って2時間くらい粘ったみたいですけど、やっぱりダメで。
――更生の道を作ってあげたいですねぇ。
笹原 嘆願書運動とかやっても難しいんだろなぁ。
――なんとかなってもらいたいです! それで今日はRIZINについていろいろとお伺いしたいんですけど。笹原さんはおぼえてるかどうかはわからないですが、笹原さんがRIZINに関わるかどうかまだ決まってない頃に「PRIDEをやってる頃と比べてもう若くもないし、新しいイベントに携わったとしても、うまくやっていける自信がない」と言ってたんですね。
笹原 あ、おぼえてますよ。たしかに言ってました。
――この言葉が印象的だったんです。
笹原 ……まあ、いまだに自信はないんですけど。
――あ、いまだに。
笹原 いまだにね、自信はないんですよ(笑)。これは社長(榊原信行)とも話したんですけど、「昔のPRIDEの頃のように何も考えずに突き進んでいくのはさすがに無理だろう」と。だからこそ、いま凄く焦ってるんですよね。この2〜3年のあいだにRIZINのかたちというか、しっかりとした土台を作らないといけないという焦りですよね。
――軌道に乗る土台作りが必要ということですね。
笹原 だから毎回毎回が勝負というか。若い頃のような持続的なパワーはもうないからですね。もちろん地道な努力が求められる世界ですけど、「これから10年かけて大きくして行きましょう!」という考えはあまりないです。なので周りが考えてる以上に焦ってるところはありますよ。
――興行師って経験も重要だとは思うんですが、プロレス格闘技界で“仕掛け人”と呼ばれる方々って後年になると凄くズレてくるなっていう印象が強いんですね。
笹原 うーん、それはですね、他人の話を聞かなくなるんじゃないですか(笑)。
――あー、なるほど。
笹原 だと思います。過去に成功を収めてきた経験があるので「自分が正しい!」と思いがちじゃないですか。若僧が何を言っても「おまえはわかってない!!」と突き放しがちですよね。
――成功体験を追い求めてしまうんですね。
笹原 そうそう。
――笹原さんはPRIDEやDREAMに関わってこの業界はずいぶんと長いわけですが、いまのMMAの世界にどうも馴染めないところってありますか?
笹原 社長は格闘技イベントに携わるのはPRIDE以来ですから、もしかしたらまだ細かい部分でフィットしないところがあるかもしれません。ただ、言っていることは相変わらずスケールがデカいんですけど(笑)。
――年末2日間開催とかちょっとおかしいですね(笑)。
笹原 自分のことを言えば、DREAMにも関わっていて、日本のメジャーイベントが沈んでいくことを体感してきたので……。
――冬の時代を体感したわけですね。
笹原 UFCがどんどん大きくなっていくところを実体験したんで。だからRIZINをやると話を聞いたときに「いやいや、絶対に無理だろ」という考えがあったんですね。
――UFCがMMA市場を寡占している以上、メジャー志向のイベントは厳しいんじゃないか、と。
笹原 そうですね。「UFCにはどうやっても敵わない」というイメージは強かったので、RIZINに関わるかどうかの迷いはあったんですね。実際にやってみたら.....そんなこと全然気にすることはなかった(笑)。
――それは想像以上の手応えがRIZINにあったということですか?
笹原 いや、「このイベントを成功させる!」という気持ちになったら、ほかのイベントがどうこう言っているヒマなんてないんですよ。ヒマがないというか、そんなものにかまっていられないというか。で、自分で言うのもなんですが……よくやってるほうだと思いますよっ!(ドン)。
――おお!! エンジンがかかってきました
笹原 自画自賛ですけど(笑)。
これまでのRIZIN、これからのRIZINを熱く語る笹原氏。
30分も遅刻してきた記者を蛇拳の構えで威嚇しようとしてるわけではない。
――たしかにUFCなんかに選手を独占されて、こんなに欠場者が出た中、よくまとまりましたね。
笹原 今回の大晦日も超目玉カードが用意できたわけでもなく、手持ちの材料で、RIZINの世界観を見せられたんじゃないかなって。
――でも、どうしても“PRIDE基準”からRIZINを厳しく見られてしまうところってありますよね。
笹原 ああ、PRIDEと比較されるのはしょうがないというか……あの頃のPRIDEを知ってる人からすると物足りないとは思うでしょうし。ただ、UFCと比較されることは腹が立ちますね。
――腹が立つ!?(笑)。
笹原 UFCはこういうところがちゃんとしてるけど、RIZINはちゃんとしてないとか言われるじゃないですか。腹が立つというか、そこは「ちょっと待って」とは思いますね。
――UFCが絶対正義じゃないということですね。
笹原 そうです。もうちょっとちゃんと考察してくれよ、って思いますよ。そんなに簡単に白黒つけられる話じゃないだろって。もちろん逆のパターンもありますよ。例えば日本の格闘技にはドラマがあって、UFCにはドラマがないとか。そんなわけないじゃんって話じゃないですか。なんか、これまでに耳にした言説や報道みたいなものを無条件に信じている姿を見ると、こう怒りがふつふつと湧いてくるんです(笑)。
――怒りがRIZINの原動力(笑)。“PRIDE基準”じゃなくて、DREAMや戦極が消え去ったあとの“焼け野原”目線で見ると、RIZINは凄く頑張ってると思うんですけど。
笹原 ありがとうございます。誰も褒めてくれないんですけどね(笑)。
――あら、そうなんですか。
笹原 いや、多くのファンの方からは喜びの声は伝わってきますよ。
――業界内からは伝わってこないってことですか?
笹原 そうですねぇ。「失敗すればいいのに……」という声は聞こえてきますけど(笑)。
――ひえっ!? 被害妄想じゃないんですか?
笹原 RIZINが失敗して「だから言わんこっちゃない」とか、「最初からこうなることがわかっていた」みたいなことを、言いたい空気というか。誰かがチャレンジしているところを、高みから偉そうに言うのって楽だし、自分が偉くなったような気がするじゃないですか。私もRIZINに関わっていなかったら、同じようなことを言っていた気がします(笑)。
――ブハハハハハ! そこは嫉妬というか、人間として素直な感情かもしれません。
笹原 それだけRIZINが気になってるということの裏返しなので、嫉妬めいた声が出てくるのは健全なのかもしれないですけど。
――大晦日の視聴率は前回とほぼ同じでしたが、RIZINとしてはどういう評価なんですか?
笹原 これも自分で言うのもなんですが、手持ちのカードの中では本当によくやっていると思います(笑)。
――もっと褒めてほしい! 褒めて伸びる子、RIZIN(笑)。
笹原 視聴率に関して言えば、RIZINオリジナルの“飛び道具”って作れていないところはありますね。世間が「コイツが出てくるのか!?」って驚くようなカード。それが朝青龍なのか室伏広治なのかはわからないですけど、今年はRIZINオリジナルの“飛び道具”をやりたいです。2年連続大晦日をやってRIZINの世界ができつつある中で、そういった“飛び道具”が実現すれば、数字が跳ねるんじゃないかって思いますね。
――いまのRIZINは地力と工夫だけでやってる感じはありますね。
笹原 一昨年の曙vsボブ・サップは使い古した“飛び道具”でしたし、欠場しちゃいましたけど神取(忍)さんも曙vsサップに近かったかもしれない。オリジナルの“飛び道具”を実現するためには、その方々を納得させるお金も必要だし、安心して戦うことのできる舞台も作らなきゃいけない。お金だけで「はい、やります」なんて簡単にRIZINに出てくれるわけではないので。
――そこは信頼関係が大事ってことですね。
笹原 綺麗事じゃなくて、お金以上にまず心と心が結びつかないと。そこはPRIDEの頃だって同じですね。
――PRIDEの頃は田村潔司を担ぎ出すためにバースデーパティーを開いたりしたわけですもんね。
笹原 極端な例ではありますけどね(笑)。あとイベントの知名度がないと、なかなか上がりづらいじゃないですか。「なにそれ?大丈夫なんですか?」って二の足を踏みがちというか。
――ああ、わかります。テレビ東京の「家、ついて行ってイイですか?」という番組ってありますよね?
笹原 終電を逃した人に声をかけてタクシー代を払うから家の中を見せてもらう番組ですね。
――あきらかに怪しい企画なのに、番組の知名度が上がってからは簡単にOKを出す一般人が多いんですよね。
笹原 「ああ、その番組、知ってる!」ってことで。それと同じで、RIZINを誰もが知ってる舞台にしないと大物は釣れないでしょうね。
――前例ができれば「あの人が出てるなら……」という流れができますし。
笹原 野球の野茂英雄じゃないですけど、海を渡ってその一人が実績を残せば、あとに続く人は出てくるのと同じで。PRIDE時代でいえば、吉田(秀彦)さんの存在は凄く大きかったと思います。
――「あの吉田秀彦がやってるなら……」と。
笹原 それこそ吉田さんは柔道界に戻って指導者としてやられてることも素晴らしいですよね。
――行き帰りの道を作ったわけですね。
笹原 ただ、オリンピックアスリートのMMA転向に関していえば、一番の壁は2020年の東京オリンピックですね。リオでやり尽くした、燃え尽きました。でも東京オリンピックがあるからMMAは……というケースってあるんです。これがロシアやアメリカでの開催だと目指さないですけど、地元であるなら違ってきますよね。
――日本でやるならチャレンジしてみたいと思うでしょうね。
笹原 「ひとまず東京オリンピックまでは頑張ります」という声が圧倒的に多いですね。それでも時間が経てば、東京五輪を目指す人と目指さない人にセパレートされていくので、MMAにチャレンジするアスリートも出てくるんじゃないかなとも思いますけど。
――年末の試合を振り返っていただきたいですが、笹原さんが一番印象に残ってる試合はどれになりま
すか?
笹原 今回はどの試合もよかったですが……個人的に那須川(天心)くんですかねぇ。それこそ那須川選手はRIZINが立ち上げの頃から話をしてきたんですよ。
――2015年の大晦日からオファーを。笹原さん、キックの会場を視察されてましたよね。
笹原 RIZIN関係者の中では、誰よりも声を大にして「那須川天心が凄い!! RIZINに出しましょう!」とずっと言い続けて、今回の大晦日であの内容とインパクトですよ。「だから俺が言ったとおりだろ!」と大声で叫びたくてしょうがない(笑)。
――このインタビュー、自画自賛しかしてない(笑)。
笹原 それくらい那須川選手には思い入れはあったので、ひさしぶりにドキドキしながら試合を見ました。キックではなくMMAでやることになるとは思っていなかったし、まさかの2連戦。腕を極めかけられたときなんかはもう……那須川選手のお父さん以上にハラハラしていたと思います(笑)。
――ハハハハハハハ!あのシーンは危なかったですよねぇ。
笹原 いま振り返ると、旗揚げじゃなくて今回の参戦でよかったんじゃないかって気がします。2015年の大晦日はRENA選手が輝いたように、今回は那須川選手が輝きましたし。
――那須川選手のアピールにより、29日と31日のMMA連戦になったんですが、29日の試合で極めかけられた右腕のケガは気にならなかったですか?
この続きと、中井りん、那須川天心、ジェイク・ロバーツ、ケニー・オメガ、RIZINの裏側、角田信朗騒動などの記事がまとめて読める「14万字・詰め合わせセット」はコチラ http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar1181523
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