小飼弾です。2014年最初のブロマガをお届けいたします。
200 Any Questions OK
それでは、今年最初の質問。
Q. STAP細胞ってなにがすごいんですか?
「なぜそれを私にきくかなあ」という思い9割、「よくぞきいて下さった」という思い1割。
まずは理研の発表を見てみましょう。ネットがあるおかげで部外者でもこうして本人たちの口から直接、マスメディアという割烹着を通さない裸の声を聞けるのは本当にありがたい。しかもそれが
- 自分にしかかけないことを
- だれが読んでもわかるように書いた文章
になっているのですからこれは直読みするっきゃないでしょう。
体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見|理化学研究所
- 細胞外刺激により体細胞を迅速に多能性細胞へ初期化する方法を開発
- 核移植も遺伝子導入も不要な多能性の獲得という新しいメカニズムを発見
- 初期化された多能性細胞はすべての生体組織と胎盤組織に分化できる
細胞外刺激により
「細胞外刺激により」とありますが、さらに平たくいうと、「細胞を半殺しにしたら、生き残ったやつの一部が幹細胞になっていた」ということです。どうやって半殺しにするか?酸性雨程度の弱い酸(PH 5.7)に浸けてもよし。おしくらまんじゅうしてもよし。とにかく半殺しの目にさえあわせれば幹細胞になっちゃうってんですから、熊蟲博士もびっくりなわけです。
今、ピペットを片手にフリーズしている実験に手がつかない当該分野の研究者もたくさんいるだろう。
核移植も遺伝子導入も不要
「核移植も遺伝子導入も不要」。こんな感じですかね。
研究者たち「パソコンを再起動したいのだけど、どうしたらいいのかわからない」
京大の山中博士「コマンドみつけたお。OCT3/4・SOX2・KLF4・C-MYC…」
研究者たち「でもめんどくさいなあ。しかもやたら再起動までの時間がきちんと再起動しないでクラッシュ(ガン化)しちゃうこともあるし」
理研の小保方博士「パソコンぶったたいたら再起動した」
これはソフトウェア(遺伝子)のプロはたまりません。今まで一生懸命コードを解析してたのに、「ハードウェアをたたけばおk」だったんですから。「んなわけねーだろ!」と最初は突っぱねるのも当然です。「おまえ、たまたま再起動している個体を見間違えたんじゃないの」というツッコミは当然入ります。
で、ここからが、プロの犯行、いや反抗なんですよ。パソコンをぶったたくのは子供でも出来ますが、それできちんと再起動したかを確認するのは、ソフトウェアの挙動を知っている人でないと出来ないので。
では、小保方博士のチームはどうやってそれを確認したのでしょうか?Windowsを再起動すると窓ロゴが出ます。Macを再起動すると林檎マークが出ます。これと同様なことがぶったたくことで起れば、たしかにそれが再起動の引き金だったと証明できるわけです。
この窓ロゴや林檎マークに相当するのが、Oct4遺伝子。「起動中」にしか「実行」、つまり発現しないコードが動いた形跡を捕まえれば、たしかに再起動したと言えるわけですが、Oct4に限らず遺伝子というのはあまりに小さくて現在のところそのまま見ることは出来ません。
そのかわり、そのコードが動いたら、もっと見やすい別のコードが実行されるように仕込むことは可能です。ITの世界ではこれを「フック」(hook)と言いますが、このフックに相当するのが緑色蛍光タンパク質。Oct4が発現したら、光って知らせてくれるわけです。ケータイのイヤフォンプラグに刺しておくと着信時にピカピカするアクセサリーがありますが、これと同じですね。
で、その結果は。
見事マウスの全身が緑色に光ったわけです。冒頭の写真のように。
こう書くとずいぶん簡単に聞こえますが、この「GFPフック」自体、ノーベル賞が出ております。今回の発見は間違いなくノーベル賞の受賞対象、というのか出さないと賞の沽券に関わるぐらい重大な発見なのですが、それもまた別のノーベル賞級発見に支えられているわけです。
すべての生体組織と胎盤組織に分化できる
小保方博士らは、それを STAP = Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency と名付けましたが、これ、実はずいぶんと控え目な言い方なのかもしれません。
胎盤組織も出来るということは、 pluripotency = 多能性どころ全能性 = totipotency/omnipotency があることを示唆しているのですから。
ES細胞もiPS細胞も、胎盤組織にまではなれません。それが出来るのは、知られている中では受精卵だけです。
「ぶったたいたら初期化」が素人騒然のツボなら、こちらは玄人呆然のツボなのではないでしょうか。
小保方博士は割烹着でノーベル賞授賞式に臨むか?
熊蟲先生は、こうおっしゃいます。
ただ、あと5年早く発表できていたら、ガードンさんと山中さんとノーベル賞を共同受賞していたかもしれない。
しかし私は、今回の成果にはノーベル賞を出さざるを得ない、出さないとノーベル賞の沽券に関わるほどの大発見だと見ています。
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