「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
2018年10月9日(火)配信の「小飼弾の論弾」の前半をお届けします。
次回のニコ生配信は、2018年12月4日(火)20:00からの「小飼弾の論弾」です。テーマは、「熱狂で始まり失望で終わった?2018年のIT」。
お楽しみに!
2018/10/09配信のハイライト(その1)
- 本庶佑先生のノーベル賞受賞
- 「迷彩服にペイントボールをぶつける」のがオプジーボ
- 究極の免疫療法はテーラーメイド医療
- 盗聴チップはスパイの夢物語
- iPhone 8はおすすめ
- 国境はなぜ出来たのか?
本庶佑先生のノーベル賞受賞
山路:まずはノーベル賞の話からいきますかね。本庶佑(ほんじょ たすく)先生がノーベル賞を受賞したという話なんですけど。
小飼:おめでとうございます。(拍手)
山路:これ、弾さんも1番最初に持ってきたいって言ってましたよね。このノーベル賞の本庶佑さんのこのニュース。
小飼:いやまあ、いまだに自然科学の分野ではノーベル賞が圧倒的に有名で、他の賞というのは知る人ぞ知る、になっちゃうでしょう。1年に1回しかない、せいぜい1つの分野で数人しか受賞が出来ない。これさ、たとえばオリンピックとか、何百競技あります?
山路:数えたことないですけど、オリンピックなんかだと相当多いですよね。
小飼:それよりも面白いかどうかというのはおいといて、あれじゃないですか、もう人類に対する貢献度から言ったら比較にならんわけでしょう。
山路:うーん、その割には受賞者も少ないし、その競技の数というのも少ないし、
小飼:だから何と言えばいいのかな、もっとエンターテインメントでいいと思うんだよ。
山路:エンターテインメントっていうのは、なんか芸人とかが舞台を盛り上げるっていうんじゃないですよね、授賞式を盛り上げるとか。
小飼:そうそう。要するに余計なことをするんじゃなくて、競技そのもの、というの変だけども、そのものを楽しむ人口がもっといてもいいと思うんだけど、やっぱりルールとかが厳しいからかな、難しいからかな。なんだけれども、やっぱりノーベル賞でわーいって言ってるわけですよ。
山路:みんなようわからんのに、騒いでいたりはする。
小飼:そう、だから科学者自身も人の子なわけですよね。
山路:貰ったら単純に嬉しいとか、なんか箔がつくっていうのはありますもんね。
小飼:いまだに、ねえ、一個人がそれこそ自分のやってた血なまぐさい事業の罪滅ぼしのために。
山路:ああ、ノーベルさんがダイナマイトを作ったことを言っているんですね。
小飼:そうです。もういくら運営を国に移管してるとはいっても、名前からもわかる通り、個人が始めたものですよ。
山路:それがでもまあこんだけ続いたという、伝統になったということ自体は、けっこう凄いことかなと思いますけどね。
小飼:いやあ、でもそれを言ったら、近代オリンピックだって似たような歴史ですよ。
山路:ああ、クーベルタン男爵が……
小飼:うん、ちょっと長いくらい。19世紀の終わりだから、近代オリンピックが始まったのは。
山路:意外に伝統だと思ってても。
小飼:うん。でもこの彼我の差。動くお金の差。本当にノーベル賞こそ、携帯電話をリサイクルしたメダルをやる、実際にメダルをナチスから奪われるのを防ぐために、いったん王水で溶かしたっていうのがあったじゃないですか、それで改めてメダルを渡したっていうのもあるじゃないですか。それこそ携帯電話リサイクルしてやるべきじゃないですか?
山路:なんかもうなんのための賞かどんどんわからなくなっていく感じはありますけどね(笑)。しかしこの本庶先生がやった業績自体っていうのは、けっこうなんというか、パッとわかりづらいというか。
小飼:だけども、すぐにもわかるご利益があるじゃないですか。今まで治らなかった癌が治るかもしれない。
山路:うん、実際そのオプジーボっていう薬の原理には、使われてるわけですもんね。
「迷彩服にペイントボールをぶつける」のがオプジーボ
小飼:そうです、はい。そのオプジーボの仕組みなんですけども、ちょっとややこしいんですよね。なんでちょっとややこしいかっていったら、癌細胞が上手く振る舞っているからです。
山路:癌細胞が上手く? 癌細胞のほうが賢いという?
小飼:はい。じゃあ、ここで改めて質問しますけども、癌って何ですか?
山路:自分の身体にあるものっていうのが、異常増殖してどんどん増えていっちゃうというか。
小飼:そうですよね、要するに正常でない細胞が異常に増えた結果、もう身体が正常に機能しなくなってついには死んでしまうというのが癌という病気なんですけども、要はもともと自分自身なわけですよね。自分の細胞なわけですよね。
じゃあ、ここで問題です。癌細胞って普通の細胞と比べて、どれだけ変わっているでしょうか?
山路:えー? もう、本当一文字二文字っていうレベルだったりするんですか?
小飼:そうなんですよ。しかもこれも癌細胞によって、どこがどれだけ変わるのかっていうのは違うんですけれども、1番変異が激しいやつはメラノーマというやつですね。皮膚に出来るんですけれども、あちこち転移して。
山路:はいはい、皮膚癌。
小飼:そうです、転移しだすともう手に負えないやつです。それですら、普通の新書ってだいたい10万文字くらいあるんですけども、わずか1文字。
でも、よく考えてみれば当然で。もっと壊れてたら、そもそも癌細胞自身が生きていけなくなるじゃないですか。
山路:ちゃんと細胞としての基本的な生存はしなきゃいけないわけですもんね。
小飼:そうそう、基本的な機能は揃ってなければいけないんです。ちゃんと必要な物質を取り入れて、不要な物質を排出してっていう、そういう機能がなかったら癌細胞、増えることすら出来ないわけです。だから、ほんのちょっとしか違わないんですよ、癌というのは。しかもほんのちょっとなんだけれども、どこが変わるかによって物凄い変わってくるわけですよね。
山路:そうやって自分の細胞、今まで自分の中にあるのとほぼ同じで、ちょっとしか変わってないものをだからこそ、攻撃するのも難しい。治療するのが難しい。
小飼:そういうことになります。だから癌の治療というのは、必ず正常な部分というのも巻き添えにしちゃうわけですよね。たとえば乳癌とかだったら、最近は再現術とかもありますけれども、おっぱい取っちゃったりもするわけですし、これが消化器官だったら、周りのリンパ節までびゃーっと取り除く、郭清っていうんですけども、取り除いちゃったりするわけですよね。放射線を当てるなら放射線を当てるで、やっぱり周囲の正常な細胞というのもやられちゃいますし、キーモセラピー、化学療法の場合というのは、癌のほうがわずかに他の正常細胞よりも増殖すると、飢えていると、だから兵糧で攻撃するとかやるわけです。当然、正常細胞もやられちゃうわけですよね。だからハゲちゃうわけですよね。
山路:今まで治療には苦労してきた。
小飼:もともと自分自身だったので、ここで免疫というものがあるじゃないですか。自分以外のものを自分自身から排除するための仕組みですよね。じゃあ元から自分自身なんていうのは、じゃあどうやって選り分ける、そもそも免疫も全く働かないんじゃないかと。
山路:というのが普通の考えですよね。
小飼:ところが働いてるんですよね。そのへんが癌の研究の中で、最近になって1番進んだ部分で。
山路:癌細胞と免疫の関係みたいなものって、ごく最近の話なんですね。
小飼:さっき10万分の1程度しか変わってないというのは、あくまでもゲノムのレベルで、でもね、DNAそのものをいちいち免疫細胞が読み取っているわけないですよね。
山路:膨大な情報ですもんね。
小飼:そうそう、だからじゃあ免疫細胞が何を見ているかっていったら、表面を見ているわけですよね。
表面にどんな糖タンパク質が生えているとか、まあそのへんを見るわけですけれども。でも癌細胞も発現するとやっぱりわずかに変わるんですよね。癌細胞にはあるけれども、普通の細胞にはないというものが出てくるわけですよね。
だから、そこを突くわけですけれども、やっぱりこれも普通の異物ですね。普通に免疫に反応するものよりは、やっぱり弱くなってしまう。弱くなってしまうんだけども、全くの無力ではないですよと。ところが癌細胞も大したもので、そうやって免疫からの攻撃を受けると、免疫を騙すためのタンパク質を出すわけです。
山路:すごいイタチごっこというか。でもまぁ自分の身体の中にあるんだから、そうやって巧妙に逃れるのも当然といえば当然なのか。
小飼:はい。物凄い乱暴な例えをすると、免疫の攻撃を受け始めると、迷彩服に着替えるんです。
山路:普段は着てないのに。
小飼:その迷彩服に、ぶつけるペイントボールみたいなもんなんですよ。要は免疫細胞から見て、見えない。なぜかと言うと迷彩服を着ているから。それを阻害する。要は迷彩服にぶつけるペイントボールみたいなものというのが、あれですね。
山路:本庶先生の研究に大きく関わってくる。
小飼:研究の業績ですね。その迷彩服にあたる部分というのがPD-1というタンパク質で、これを阻害するのがオプジーボ。
山路:なんかPD-1、報道されてると、本庶先生がPD-1というタンパク質を作ったみたいな一瞬、印象受けるけど。
小飼:もとからあったものです。
はい。ほんのわずかしかない違いをどう捉えるのかっていうので、しかもじつは癌というのは、癌の一言で捉えちゃうと、もう日本であれば半分以上の人が一生に1回はやって、3分の1はそれで亡くなるという病気なんですけど、癌もいろいろありますよね。
山路:臓器の場所とかにもよりますし。
小飼:癌の種類というのは、原発、要するに初めに癌化したところがどこかっていうので、区別するんですけど、それも場所によって物凄い治りやすさというのが違いますよね。確か1番よく治るのが前立腺癌で、もうこれはステージ1であればもう100%。ステージ1で見つかれば、助からないというのがありえないというレベル。
山路:内視鏡で取っちゃう。
小飼:直腸癌というのも、もうポリープの段階で見つかった場合というのは入院すらしませんもんね。乳癌というのもよく治るほうの癌です。ところがよく治らないほうの癌をみると、膵癌。
山路:あのスティーブ・ジョブズも。
小飼:かかったという。5年生存率がいまだに1桁%という。スティーブ・ジョブズは5年生存率でみると、助かったほうに入ります。7年頑張ったから。
山路:あれは奥にあるから結局治療しにくいっていうこともあるんですかね、膵臓というのは。
小飼:うん、まず見つかりにくい。だから初期の段階で見つかるということはまずない。替えが効かないというのもありますね。
山路:ああ腎臓みたいに2つあるわけでもなくとか。でもこの本庶先生の、その着眼点というか、ノーベル賞に値するほどの凄さっていうのは。
小飼:免疫っていうのはノーベル賞の宝庫なんですよ。利根川進先生もそれでしょう。B細胞の遺伝子というのはじつは組み替えているのだと、何で今までなかったような、ものもない化学物質を与えても抗体が出来るのかっていうのは、それで説明できたんですよ。利根川先生の場合、しかも単独受賞ですからね。
山路:ほほう、あれ何年前になるんでしたっけ? 利根川先生は、けっこう……
小飼:けっこう前ですよ。
山路:3、40年か、くらいになるんですよね。しかしまぁこの、
小飼:でも今回だってけっこうかかりましたよ。PD-1見つかったのって、確か1992年じゃなかったっけな?
山路:四半世紀は経ってるわけですもんね。
小飼:それがオプジーボにまでなったのは、21世紀の話ですからね。
山路:これってやっぱりノーベル賞、よく弾さんなんかも言ってますけど、理論の段階だとなかなかそれが受賞とかに繋がりにくくて。
小飼:そう、実証がないとダメなんだ。そこが自然科学の自然科学たるところで。だからホーキング博士だって、蒸発しているブラックホールが見つかってたら、ノーベル賞間違いなしでしたね。
山路:これやっぱりオプジーボとかで出来てたっていうのが、受賞理由としてはでかいわけなんですかね?
小飼:オプジーボ、いや、そういうわけでもなくって、医学生理学賞というのは、医学ってついてるだけもあってご利益も大きいわけですよ。だから受賞候補がいっぱいあって、業績がでかいにもかかわらず、待ち行列がかなり長い。
山路:なんかもうちょっと本当に増やせばいいのにって感じがしますよね。
小飼:それにしても研究段階からいけば四半世紀かかってるわけですよね。心臓移植なんてまさに実証じゃないですか。あれとか30年以上かかってますからね。
山路:受賞までに?
小飼:受賞までに。そうですね、翁長知事も膵癌でしたね。僕も3人ほど知人を膵癌で亡くしているんですけれども、膵癌に関しては助かった人は皆無ですよね。
山路:いや凄いな。
小飼:僕の知人の中では、ジョブズも含めて。その一方で、胃癌、乳癌、前立腺癌、直腸癌あたりだったら、サバイバーだらけです。
究極の免疫療法はテーラーメイド医療
山路:じゃあ癌のそういうとこで、『「がん」はなぜできるのか?』という書籍も紹介しましょうか。
小飼:はい。これは面白かった、今年の6月に出たやつです。本庶先生の業績も載っています。外せないもんな。
山路:これはどのへんが本としては面白いですかね? 読みどころというか。
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