春に報酬改正のあった介護保険制度が始まっています。
今回の改正は、これまで先行して取り組まれてきた地域包括ケアシステムをより充実させること、費用負担の公平性をはかろうというものです。
国民の3人に1人が65歳、5人に1人が75歳以上の高齢者となる2025年以降の大介護旅行時代に備えるには、今からサービスを受ける人の数を抑える一方で、予防など多様なサービスの担い手確保を図ること、さらに制度を利用する人の収入に応じた費用負担を当事者へ求めようというもので、その方向性は自然なことと受け止められます。
先日、田舎に暮らす要支援1の義父が脳卒中で入院しました。幸い異常に気づいた母が近所に住む親せきとすぐにかかりつけ医へ駆け込み、日赤病院へ搬送してもらえたので、素早く治療を受けることができました。本人にその間の記憶はなく、どこへ連れて行かれたかを理解できずに混乱していましたが、今では少しずつリハビリに取り組めるようになりました。大病院であるとはいえ、87歳という高齢者が脳内出血を起こしても軽症で済んだのは驚きで、日頃の医療連携がしっかりと機能してくれたおかげで、この地域の医療システムの質の高さを実感しました。
しかし、高齢者介護は、その周辺にも困ったことがおこります。
自宅から病院までは車で10分ほどの距離なのですが、両親二人仲良く暮らしてきた母としては、日に何度かは見舞いに訪ねて夫を励ましたいと望んでいます。よく慣れた道ですから、普段のことなら移動に不自由はありません。ところが、今は精神的な動揺も残っていて運転がとても不安そうです。入院直後は、遠方の家族も交代で休みをとり見舞いに付き添っていました。
しかし、仕事のある者はそう長く続けることはできません。結局、兄弟から近くの親戚、孫まで協力して、交代で母の世話をしていますが、このままでは皆の生活もおかしくなってしまうと家族の中でも不安が生じています。
突然のことですから仕方ないのですが、こうしたことというのは予め備えておくというのが本当に難しいと感じました。人には万一のことを考えたくないという精神的なバイアスがかかり、周囲も言い出しにくい内容のことなのですが、高齢な家族のいる者は、普段から冷静に少し先のこと、高齢な人の健康と暮らしを考えなければならないと思いました。
脳卒中患者には救急医療から通院通所のリハビリ、在宅介護からさらに生活支援まで、さまざまな段階で医療、介護、福祉のサポートが必要になります。これから市区町村が要支援の方を対象に訪問介護や通所介護サービスを地域支援事業として取り組むことになりますが、地方や大都市では、生活や社会資源にも大きな違いがあるので、そこで行われる介護サービスもこれまでより地域差が出てくると思います。
健康寿命をのばし制度サービスを利用する人の数を抑えていくには、個人や家族の努力だけでは限界があるので、地域ぐるみの取り組みが欠かせません。 今は自治体も財政破たんするような厳しい時代ではありますが、同じ国民である限りは、住んでいる地域の行政力の差が、公的制度である介護サービスの極端な差となるのは避けて欲しいと思いました。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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THE JOURNAL編集部
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