まず、このようなソフトがあるということが、コンピュータ音痴の僕には驚きだ。だが、それ以上に、日本よりも「実直」、もっといえば堅物のお国柄のドイツの会社が、そんな「完全犯罪」を起こすとは、予想外としか言いようがない。
今回、アメリカの検査基準を満たしていなかったのは約48万台だが、問題はそれにとどまらない。全世界で、実に約1100万台がリコールの対象となる可能性が高いという。そうなればVW社は、深刻な経営危機に陥るだろう。
VW社といえば、日本におけるトヨタのような国民的企業である。VW社の経営が危なくなると、一企業の問題にとどまらない。ドイツ経済に与える影響も大きい。
さて、アメリカ以外の国々でも次々とVW社に対する捜査が始まったが、ここからがドイツのすごいところだ、と僕は思った。捜査が進めば、大変な事態になることは間違いない。それでも、ドイツは毅然として捜査を受け入れている。一時は、国際的な信頼を損うかもしれない。だが、この対応によって、ドイツは遠からず立ち直ることができる、と僕は信じるのである。
それにしても気になるのが、日本の中途半端さだ。たとえば、東芝の問題である。ご存じのように、東芝は2014年までの7年間に、1562億円もの利益を水増ししたのだ。巨額不正経理事件である。田中久夫社長、佐々木則夫副会長、そして西田厚聰相談役といった歴代3人の社長が辞任した。「粉飾決算」であることは疑いようがない。
ところが、である。この事件に対して、検察も、そしてメディアもまったくの及び腰なのだ。新聞各紙をみると、「不適切会計」と報じている。比較的、踏み込んで書いている新聞でも、せいぜい「不正会計」だ。大企業に対して、なんという甘さなのか。呆れるばかりだ。
ここで思い出すのは、ライブドア事件である。2006年、証券取引法違反などで、当時社長だった堀江貴文さんは逮捕された。そして2011年、懲役2年6カ月の実刑が確定している。ライブドアの「粉飾決算」額は、約50億円であった。繰り返すが、50億円で堀江さんは実刑になったのだ。
このライブドア事件の関係者を取材して、感じたことがある。ライブドアが、「叩きやすい」ベンチャー企業であること、そして「ホリエモン」がニッポン放送買収、プロ野球球団買収などで、目立ち過ぎたことが、厳しい結果につながったのだと。彼をかばっているのではない。取材の結果、そうとしか言えないのだ。
つねづね思っていることだが、日本の検察には、「相手を見る」ところがおおいにある。しかし、公正であるべき検察が、そんなことでよいのか。ドイツに負けず劣らず、日本も真面目で実直な国柄であったはずだ。
だが、やはり島国なのかもしれない。僕たちは議論したり、意見を主張して、きっちりと結論を出すのが不得手なのではないか、と感じる。「空気」の国なのだ。
だが、これからの時代、そういう態度ではやっていけない。このままでは確実に国際的な信頼を失ってしまうだろう。ここはひとつ、僕たちはドイツを見習うべきではないか。検察はもちろん問題だ。だがその前に、まずメディアよ、「粉飾決算」と堂々と書き、不正を弾劾すべきなのだ。
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