ここ数年タクシー業界では、ドライバーやオペレーターなど、乗客との接点を持つスタッフに対して、業務上必要なバリアフリーサービス教育を熱心に行っています。
以前は運転が乱暴であったり、言葉遣いが悪かったりと、態度の悪いタクシーが話題になることもありましたが、こうした苦情も最近は減り、子育てタクシーや高齢者の見守りタクシーなど、評判にいい話を聞くことが多いように感じます。
こうした教育活動が盛んとなった背景には、規制緩和でタクシーの供給量が過剰となった上に、長引く不況から利用客も減ったままで、新たな乗客を獲得するには、高齢化とそれにともなう障がいを持つ人への対応を欠かすことができなくなったからだと思います。
サービス研修の内容をみるとUD(ユニバーサルデザイン)研修やおもてなし講座、子育てとあわせた新たなサービスを試みるものなど様々で、修了したドライバーには運転サービス士などの資格が認定されるものもあります。運転サービス士は、安全な運転技能だけでなく、礼儀作法を学び、思いやりの気持ちを表わす所作を習得するなど、快適性に重きが置かれ、さらには守秘義務の徹底など、個人からビジネスシーンまで、幅広い乗客が安心して利用できるように配慮されています。体力に不安のあるお年寄りや幼い子供を預けたいというお母さんたちには顔が見え、安心して使えるタクシーとして期待されています。
他にも回転シート付きセダンの利用法や白状を持つ人の乗降時の注意の他、高齢者疑似体験を通してして体感する研修などもあります。
大分では認知症サポーター養成講座を県内の交通事業者に受講してもらい、認知症に優しい企業、団体として「大分オレンジカンパニー」の登録をすすめています。これらの事業者にはオレンジステッカーを配布して営業所や車両などに提示してもらい、サポーターの存在を県民にもわかるようにしています。交通事業者の他にも、金融機関やスーパー、コンビニ、薬局、理・美容室、宅配業者、さらに公共サービスでは、郵便局、警察、消防等で働く人の受講も進めており、認知症になっても、安心して暮らし続けることができるように地域全体としての取り組みをすすめています。
さらに、交通機関を利用するための事前情報として運賃や割引制度の対象者を示すなど、障がいや病気の程度によっては利用する交通が違うため、個々のニーズに応じた情報を事前に調べることができる仕組みが今後は必要となります。
こうした取り組みは、介護タクシーのドライバーに限ることではなく、コミュニケーションに不安のある訪日外国人が鉄道、バスなどを利用する際に必要な観光サービスとしても広がっています。
全国で行われるネットワーク会議を通じて、交通事業者や自治体の取り組みを相互に報告することや移動困難者との意見交換を重ねることで、さまざまな情報共有から高齢な人や障がいを持つ人の移動支援について学んだ人が増えているそうです。
トラベルヘルパーは車いすで行けるところへ行くのではなく、行きたいところへ行けるようにするにはどうしたらよいかを考える研修を行っていますが、専門教育を受けたドライバーとのコンビネーションで、さらに質の高い外出支援サービスを提供することが可能になると思います。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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THE JOURNAL編集部
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