支持率の下落に慌てた安倍晋三首相は、「私が直接国民に説明する」と称してあちこちテレビに出演し、「町内みんなで協力して戸締まりをしていきましょうという法案で、特定の泥棒をやっつけようということではない」などと言っている。あるいは「昔は雨戸を閉めておけばよかったが、今は振り込め詐欺もある。そういう事態に備えなければならない」とも言った。中国や北朝鮮は泥棒か詐欺師? それなら自衛隊が出る話ではなくて警察マターだろう。先日も「隣の麻生君が殴られたら私が殴り返す」と言って、どこかの新聞の投書で「隣で喧嘩が始まったらまず止めるのが先でしょう」と諫められていた。

 こういう子供だましのような“例え話”をさかんに持ち出すのは、安倍が、国民はバカだから難しい安保や法律のことは理解できないでいるので、噛み砕いて説明してやらなければ、と思っているからだろう。しかし国民は、この法案が「理解できない」のではなくて、理解すればするほどこんな違憲であることが明白な法案を出してくる安倍の頭脳程度が「理解できない」と言っているのである。

 安倍のお得意の例え話として、日本人避難民が乗った米艦が公海上で敵ミサイルに攻撃されるのを助けに行くのに集団的自衛権の解禁が必要だというのがあるが、これも分かりやすくしようとして分かりにくくしてしまった説明の典型である。端的な話、日本人を乗せたのが米艦ではなくてリベリア籍のギリシャ船主の貨物船であるとすると、同盟国への攻撃ではないから集団的自衛権発動の対象とはならない。その場合はどうするのか。あるいは、そもそもなぜ自衛艦は自らその港まで日本人避難民を救出しに行かないのか。そんなことをしたら侵略になるからだが、それが空港であれば自衛隊機を(丸腰ではあるが)派遣できることになっている。

 そうするとこの問題は、海外紛争で在外日本人が危険に晒された時に、陸であれ海であれ、相手国領内であれ公海上であれ、日本はどういう原理原則で「自国民保護」を行うのかという普遍的な法理と対策をまず立てなければならない。それをせずに、ほとんど架空の例え話で感情に訴えようとするからおかしくなる。国民を説得するには、憲法との整合性、10本の法律相互の整合性を含めた「論理の力」が必要だが、安倍にはその力が致命的に欠けている。バカなのはおまえのほうだ。▲(日刊ゲンダイ7月23日付から転載)