14日の内閣改造はTPP慎重論の大畠前経産相が外れ、新たに海江田万里氏が就任した。改造後の記者会見で「広義の意味で国を開くことは歴史の必然」「アジアの成長を日本の成長に取り込んでいく」とTPPの必要性を説いた。
内閣改造翌日の主要新聞社説は年明けの紙面と同様に、
「懸案に党派を超えて取り組め」(読売新聞)
「TPP参加に踏み切れ」(産経新聞)
「政権賭する覚悟を示せ」(毎日新聞)
「結果出していくしかない」(朝日新聞)
など、菅首相が掲げるTPP参加の実行を後押しする論を横並びに展開した。
そんな中で黙っていられないと言わんばかりの社説がいくつか上がってきた。前回の「続・世論調査の「TPP推進」は本当?」の議会に引き続き、地方からの声が強まっている。
「食糧安保の観点からも、"見切り発車"は、絶対に許されない」
18日の沖縄県・琉球新報は15年前のウルグアイ・ラウンド以 降の農村の疲弊状況を取り上げた上で、「県の基幹作物のサトウキビや肉用牛、養豚、パイナップルなどが壊滅的な打撃を受けるのは確実」と政権交代以降も続 く"農政無策"を批判しTPPへの不参加を訴えた。琉球新報は11月にも「行き当たりばったりで、先行き不透明、結論は先送り、決めた政策も朝令暮改の 「決断なき内閣」では、国際交渉などおぼつかない」と菅首相のTPPに臨む曖昧な姿勢を厳しく批判してきた。
■TPP"見切り発車"は許されない(2011.1.18 琉球新報)
■TPP政府方針 玉虫色では論議もできない(2010.11.8 琉球新報)
「唐突に提示され「バスに乗り遅れるな」と猛スピードで突っ走る。これで国民合意は得られるか」青森県・東奥日報は20日の菅首相外交方針演説の翌日にTPPに慎重な対応を求める社説を掲載した。
■あまりに議論が足りない/TPP参加問題(2011.1.21東奥日報)
「民主主義の観点からも異常」(中野剛志「TPPはトロイの木馬」)なTPP賛成一色の中で、市民との距離が近い地方紙は中央に向けたメッセージを投げかけている。
<大マスコミの反自由貿易論>
地方の動きに影響を受けたのか、取り上げざるを得なくなったのか、NHKや新聞社にもわずかな動きが出ている。
NHKは1月22日の「ニュース深読み」でTPPの議論を企画し、ゲストで登場した金子勝氏(慶応義塾大学教授)は「何が問題になるかをあらかじめわかった上でTPP交渉に入るならいいけど、わからないで入っちゃえというのは危ない」などTPP反対論を展開した。金子氏は番組終了後のTwitterで「物足りないと感じた方には力不足をお詫びいたします。これまでメディアで報道されていない本当の論点を幾つか提示できたのが最初なのでお許し下さい」とつぶやいていた。
その「本当の論点」とはTPPの交渉は農業だけでなく24項目が交渉対象であること、TPPとアジアの輸出が直接関係ないことなど、今までの「開国」報道の影に隠されていたことだった。
TPP交渉では24の作業部会が開かれる。そのうち関税に関わる部会は赤く塗りつぶした3作業部会のみで他の21部会は知財や投資など多分野にわたる。
また、船橋洋一元主筆(2010年12月退任)を筆頭に推進論を展開してきた朝日新聞の夕刊に「窓」(1月19日)には論説委員室から自由貿易に対 する発言が掲載された。"食の工業化"をテーマにしたドキュメンタリー映画を取り上げ、「人間はほかの生物の生命を奪って生きている。映画に描かれる 「食」には、そういうことへの畏れや感謝は見えない。日本の現状はまだましなのだろう。だが自由貿易が進めばそんな食品が入ってくるはず」と論説副主幹・ 真田正明氏はTPP議論が盛り上がる世相を意識したのか、自由貿易が関わる輸入食品の問題点を投げかけた。
「TPPを結べば関税が撤廃されて世界に開かれ、アジアの成長を取り込める。反対派の農業を説得し、ライバル国の韓国や中国に負けない通商大国を目指せ」という"イメージ"に対する意見や払拭する丁寧な議論が少しずつ出始めている。
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