9月21日の日米首脳会談を終えた野田佳彦首相は、帰国するなり閣僚会議でTPPへの交渉参加をめぐる議論を再開することを表明し、10月11日には関係閣僚会合を開いた。野田首相は11月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までに、現在9ヶ国で協議されているTPPへの「結論」を出すことを目指し、鉢呂元経産相を座長とする「経済連携と農業再生に関するPT」を設置し党内議論をまとめる方向で動いている。
TPP参加に後押しするのは全国5紙の社説だ。
「首相はTPP交渉参加へ強い指導力を」 (日経10月12日)
「TPP参加 もはや先送りは許されぬ」(産経10月9日)
「TPP首相の力強い決断を」(毎日10月12日)
「TPP参加が日本の成長に不可欠だ」(読売10月6日)
「TPP参加―丁寧な説明で再起動を」 (朝日10月5日)
この横並び社説と対照的なのは地方紙、それも311で被災した東北地方紙だ。宮城県の河北新報は10月12日の社説「TPP参加問題/拙速な結論は避けねば」で、「食料と貿易という国の根幹にかかわる問題だ。だからこそ、バスに乗り遅れるな式の議論は避け、その両立の道を探るべく、状況の変化も踏まえ議論を尽くさなければならない」という。
4,664人の死者(※)を抱える岩手県下の岩手日報は、「TPPは多方面に影響が及ぶ。日本の将来を左右する問題だけに拙速な結論は避けるべき」として「『見切り発車』は避けよ」と社説で訴えている。
どちらも農業は大問題。「状況は変わった。巨大津波と原発事故で太平洋沿岸は漁業も水田農業も甚大な被害を受け、生産性向上どころか生産基盤の復 旧すらままならない。TPP参加はそんな国内有数の食料基地に追い打ちをかけかねない」(河北新報)「大震災で農地損壊などのダメージを受けた本県農業に TPP参加が追い打ちをかけるようであってはならない。」(岩手日報)
この一連の動きは一年前に突然出たTPP発言とまったく重なる。菅前首相は昨年10月に所信表明でTPP参加への意向を口にし、それによる影響を説明しないまま「開国」の必要性を観念的に訴え、中央財界と全国マスメディアが後押した。《THE JOURNAL》では「『TPP反対!』地方紙からの声(1月24日)」で取り上げたが、TPPの対立軸はマスメディアがあおる「一次産業vs輸出産業」ではなく、「中央vs地方」の構図になっている。
野田首相は明確な表現を避けながらも、TPP推進派で財界の顔色をうかがう玄葉氏、前原氏、枝野氏を要職に就ける人事を敷いている。玄葉氏は「目を見開いて打って出るべきだ」と国家戦略室担当相以来の主張を続ける。
急速に推進スピードを上げているTPP議論は11月上旬にも「結論」が出るとされる。「忘れてはならないものがあります。それは、原発事故や被災者支援の最前線で格闘する人々の姿です」(9月13日野田首相所信表明演説より)
最前線で報道を続ける地方紙の声を野田政権はどこまで聞くことができるだろうか。TPPの動向を被災地はじっと注視している。
(※注 11日現在、岩手県総合防災室より)
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THE JOURNAL編集部
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