アベノミクスや安保法制を巡る議論も堂々巡りを繰り返し、春めく季節のせいか眠気を誘う国会質疑が続いてきた。ところが16日に突如として眠気を吹き飛ばす発言があった。基本的質疑で自民党の三原じゅん子参議院議員が安倍総理に「八紘一宇」を世界に広めよと迫ったのである。
「八紘一宇」は戦前の日本がアジア侵略を正当化するために使ったスローガンとして、日本を占領したGHQが公文書に使用する事を禁じたいわくつきの言葉である。それを三原議員は「グローバル資本主義」に対抗するための「日本建国以来の大切な価値観」と紹介し、2年前「ナチスのやり口を学んだらどうかね」と発言した麻生副総理と安倍総理に考えを質した。
戦後70年に当たり安倍政権の歴史認識が問われる時期に、自民党の中から「八紘一宇」が肯定的に取り上げられた事で、背景に何があるのかを探りたい気持ちになった。しかしその後の展開はさっぱりだ。麻生副総理は戦争を知らない世代が「八紘一宇」を評価している事に「驚いた」と発言し、安倍総理は「八紘一宇」に全く言及しなかった。ウラがあるような話ではないようだ。
そもそも「八紘一宇」は軍部に利用された事で「侵略」を正当化するスローガンとみなされるが、元は大正期に日蓮宗の僧侶であった田中智学が創設した宗教団体「国柱会」のスローガンである。「世界を一つの家のようにする」意味だが、田中によれば「国家も民族も領土も人種もそれぞれがそのまま特色を発揮しながら世界が一つの生命体になること」と解説されている。「侵略」を肯定するものではない。
「国柱会」の信者には詩人の宮沢賢治や軍人の石原莞爾がいて、その石原が1931年に起こした満州事変が日本の侵略戦争の始まりとされる。では石原が満州事変を起こした理由とは何か。直前の1929年にアメリカ発の大恐慌で世界は失業と貧困に苦しんでいた。資本主義経済は破綻の危機に瀕していた。
その前の第一次大戦で日本は戦勝国となり英米と肩を並べる大国の地位を得た。しかし一方で日本は資源のない「持たざる国」である。大恐慌が起こると「持てる国」は経済をブロック化して自己の利益を守ろうとする。そして「持たざる国」日本はそこから締め出された。日本は「持てる国」を目指すようになる。それが満州事変を引き起こした理由だが、「国柱会」信者の石原は日本が満州国を支配するのではなく「五族協和(満州人、日本人、漢人、朝鮮人、蒙古人が共生する)」を目指した。
さらに石原は満州で資本主義に代わる経済体制を作ろうとした。ソ連留学の経験がある満鉄調査部の宮崎正義に計画経済の青写真づくりを委ねる。それが「革新官僚」と呼ばれる国内の官僚たちに引き継がれ、年功賃金や終身雇用など独特の制度を生み出した。そしてこの「日本株式会社」と呼ばれる経済構造が戦後に日本を高度経済成長させる原動力となる。
ちなみに「革新官僚」の中に戦後社会党の理論的支柱となる和田博雄や勝間田清一、また自民党の中心となる岸信介や椎名悦三郎がいる。つまり自民党と社会党にはルーツが同じ政治家がいて、それが対立と協調を繰り返しながら、アメリカの要求をかわす政治術を駆使してきた。
「八紘一宇」のスローガンを作った「国柱会」の田中智学は戦争に反対した。石原も日中戦争に反対して東条英機と衝突し軍の中枢から左遷された。そして日本は無謀な戦争に突入する。一方で「八紘一宇」は軍部に利用され日中戦争が始まる昭和12年に国民精神総動員のスローガンとして、また大東亜共栄圏の建設と結び付けられ、国民を戦争に駆り出す役目を果たした。
そのため戦後はGHQが軍国主義を連想させるとして公文書に使うことを禁じ、また自民党の政治家も日本を過ちに導いた言葉として批判してきた。それが戦後70年の節目の年に突如として「日本の大切な価値観」として国会の論戦に登場したのである。
三原議員がどれほど「八紘一宇」を理解しているのか知らないが、それを持ち出したのはグローバル企業の納税回避を批判するためであった。グローバル企業はある国で利益を上げてもその国に税金を支払わない仕組みを作る。それを阻止するために「八紘一宇」の精神を世界に提案しろと安倍総理に訴えたのだ。
弱肉強食の国際社会がそんな精神論に耳を貸すはずはなく、日本のイメージダウンになるだけの話だと思うが、それよりも安倍政権が何を目指し、何をやろうとしているのかを吟味すれば、この政権がグローバル資本主義を拒否できる政権だと考える事の方がおかしい。
冷戦後、グローバル資本主義を推進してきたのはアメリカである。平等主義を排し「頑張る者が報われる社会」を理想として弱肉強食を是認してきた。競争こそがアメリカ的価値観の土台である。そのためには常に格差を創り出す。格差のない平等社会に競争心が生まれる筈はないからだ。
21世紀はその価値観を国際社会に広げ、さらに競争の場を宇宙にまで広げて、限りなき競争原理の追及をアメリカは考えている。そのためにそれぞれの国家や民族が持つ固有の価値観をアメリカ的価値観に転換させる事を「改革」と呼ばせるようにしている。宮沢政権から小泉政権を経て麻生政権まで日本は「年次改革要望書」を突きつけられ「改革」を迫られた。
そして今TPPによる国家改造が突き付けられている。三原議員が「八紘一宇」を「日本の大切な価値観」と考えるなら、それは「競争社会」ではなく「共生社会」を目指そうと考えている事になる。しかし安倍政権のどこに「共生社会」を目指す政策があるだろう。ひたすらアメリカにすり寄る事で延命しようとする安倍政権は「八紘一宇」とは真逆の価値観を目指している。
三原議員がやるべき事はアメリカの要求に屈しない手練手管を持ち、「競争社会」ではなく「共生社会」を目指す政治家を自民党の総裁選挙に擁立し、安倍総理を交代させる事ではないか。
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東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
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【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。
懇親会:4000円程度
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【アクセス】
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東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分
【申し込み方法】
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■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article
<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
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