では何を「改革」するのかと言えば「農協」であり、とりわけその頂点に立つ「JA全中」から農協法に裏付けられた協同組合の全国組織という資格を剥奪して一般社団法人に格下げし、さらにそのJA全中が持っていた全国約700の単位農協に対する監査・指導権限を解体して、一般監査法人が市場参入できるようにする(ということは、監査料などの名目で全中が得ていた年間約80億円の上納金を召し上げる)ことに狙いが絞られる。つまりこれは、農政改革でも農協改革でもなく「農協潰し」である。
なぜこのような粗暴なほどの農協潰しに躍起となるのかと言えば、安倍や菅義偉官房長官の農協に対する政治的怨念である。民主党が09年にヨーロッパ型の「農業者個別所得補償制度」の導入を掲げた時に農協はそれを支持し、それが政権交代が実現する一因となった。12年に政権復帰した自民党は、その制度を骨抜きにすることに熱心に取り組んだが、一度自民党から離れた農協はすんなりとは元に戻らず、例えば今年1月の佐賀県知事選では、菅長官と茂木選対本部長が推した自民党候補は佐賀農協の支持を得られずに敢えなく落選した。
自民党農林議員によると「安倍はこの結果に苛立って、菅を『何やってるんだ』と叱責し、慌てた菅は『選挙活動ばかりやっている農協の改革は徹底的にやる』と周辺に覚悟のほどを示した。菅は連日、農水省幹部を官邸に呼んで、結局、全中が得ている監査料などの80億円が政治活動やTPP反対運動の資金源になっているというところに目を着けたのだろう。その結果、農業の再生とは何の関係もない農協潰しに走ることになった」という。
もちろん、農協のあり方に数多の問題があるのは事実である。本来は農家の自発的な互助組織である農協の中央機能が肥大化して、その巨大組織を維持するために農家を搾取するかのようになってしまったからこそ、このような理不尽な自民党からの攻撃に屈服せざるを得なくなったという意味では自業自得という一面もある。しかし、こんなデタラメな農協潰しが「農政改革」の名によってまかり通るのを許せば、日本農業の壊滅は必至である。▲
( 日刊ゲンダイ3月5日付から転載)
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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944 年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレ ター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェ ブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にイ ンターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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