安倍政権の集団的自衛権容認論は、いよいよ錯乱気味となっている。安倍晋三首相は16日の衆院本会議の答弁で、ホルムズ海峡に機雷がまかれた場合「わが国が武力攻撃を受けたのと同様に深刻、重大な被害が及ぶ」ことは明らかで、「わが国の存立が脅かされ国民の生命が根底から覆される明白な危険がある場合などとした集団的自衛権行使の新3要件に当たる」と明言した。

 しかし、第1に、これはいったい誰に対する集団的自衛権の発動なのか。言うまでもなく集団的自衛権とは、軍事同盟関係にある同盟国が武力攻撃を受けた場合に、自国は攻撃されていなくてもそれを我が事と思って一緒に戦う権利である。日本の同盟国は米国のみであり、米国艦が機雷除去作戦を実施するから参加しろと言って来た場合には自衛隊が出て行くことはありうるが、米国がいなければ、集団的自衛権の名目で出て行くことはできない。

 第2に、佐藤優が指摘しているように、ホルムズ海峡の航路帯は公海ではなくオマーンの領海にある。他国の領海に機雷を撒くのは侵略であり、宣戦布告と同様の意味を持つから、武力攻撃を受けているのはまずもってオマーンである。ところがオマーンは日本と同盟関係にない。

 第3に、集団的自衛権を発動出来ない場合に、それでも「わが国の存立が脅かされ国民の生命が根底から覆される明白な危険」に軍事的に対処しようとすれば、個別的自衛権の超拡大解釈で出て行くか、あるいは国連決議に基づく「集団安全保障」措置に参加するかのどちらかで、これらはいずれも集団的自衛権とは関係がない。

 第4に、では誰が海峡に機雷を撒く可能性があるかといえばイラン以外にない。イランとオマーンが交戦状態にある中で(停戦後なら話は別だが)、日本がオマーンの領海に入って機雷除去作戦を行うということは、日本がイランと戦争するということである。そういう国際法の理解も、イランと戦うことの重大性の認識も覚悟もなしに、言葉だけを弄んでいるのが安倍である。

 自民党ベテラン議員は、「イランも石油輸出国だし、ホルムズ海峡を塞げば自国を封鎖するのと同じだから、そんなことはしない。万が一、あるとすれば、イスラエルがイランの核疑惑施設を空爆して大戦争になった場合だろう。そういう事態を起こさないために中立の立場で外交力を発揮すべき時に、安倍はイスラエルに肩入れする姿勢をとっている。もう、支離滅裂だよ」と歎く。安倍はすでにこの国を危険な道に引きずり込んでいる。▲(
日刊ゲンダイ2月19日付から転載

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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944 年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレ ター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェ ブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にイ ンターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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