維新の党の共同代表である橋下徹大阪市長と同党幹事長の松井一郎大阪府知事が、今回の衆院選に「出るぞ、出るぞ」と思わせぶりをしておきながら、結局、出馬を見送っただけでなく、大阪と兵庫の公明党前職のいる6つの選挙区すべてで維新が立候補しないことを決めた。「大阪都」構想をめぐって激しく対立してきた公明党に対してあまりにも大甘な態度で、巷では「橋本が都構想の行き詰まりにほとほと困って、衆院選では歯向かわないから何とか都構想実現に協力してくれませんかと公明党に頭を下げた」とか、「いや、公明党のほうが橋本・松下の立候補で再び“橋本ブーム”が起きて、大阪・兵庫の6議席全滅となるのを恐れて、橋本さえ出馬を取りやめてくれれば競合しない他の選挙区では維新を応援するからと申し出た」とか、いろいろ取り沙汰されている。

大阪の新聞記者に訊くと「確かに、橋本は公明党を何とかしないと都構想がにっちもさっちもいかないところに来ているが、それだけじゃない」と語る。「橋本自身がもう大阪人から飽きられ始めていて、『いい加減にしてくれ』と思われていることが根本原因ですよ。だってそうでしょう、ここで2人揃って出馬するということは、都構想を途中で置き去りにして国政に出て行ってしまうことになり、おまけに再び自己都合で市長・知事を任期途中で投げ出してダブル選挙を府民に強いることになる。府政・市政をおもちゃにするのは止めてくれと多くは思っている。だから、前のようなブームは起きないし、橋本が出ようとした大阪3区ですら公明前職の佐藤茂樹に勝てるかどうか分からない。松井の15区に至っては北側一雄副代表にまったく歯が立たない。2人揃って落ちたら大阪維新はお終い。だから出馬を止めただけですよ」と。

関西出身議員の秘書の説はちょっと違う。「いや、衰えたりといえども橋本が出れば、全国的にはそこそこのブームが起きて野党陣営が勢いづく。それが安倍政権にとっては脅威で、官邸サイドから『ここは堪えて、大阪でちゃんと都構想を仕上げてから次の機会に国政に出てくるのが筋だろう。そうすれば安倍政権が都構想の実現に全面的に協力するから』と囁きがあったのではないか」と見ている。安倍に「次の機会」があるかどうかは分からないが、あるとすれば改憲を賭けた総選挙か衆参ダブル。その時に橋本=維新が健在ならば、安倍は公明を切って維新と組むという計算なのだそうだ。何だか、安倍も橋本も見果てぬ夢を追って「策士、策に溺れ」つつあるように見えるのだが……。▲

(日刊ゲンダイ12月4日付から転載)

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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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