じつは4月以降、消費税値上げの影響で消費は低迷する一方、企業の賃上げは進んでいない。「デフレマインド」から脱却できないのである。この状況に対して、日銀は「金融緩和が妥当」と判断したのだ。
この日銀の動きは、市場にとってはまさにサプライズだった。日経平均株価はあっという間に上昇、1万6000円を突破した。だが、これはあくまでも短期的な現象だと僕は思っている。
さて、今回の件で、とても気にかかっていることがある。この日銀の決定について、9人いる日銀の政策委員のうち、4人が反対をしていたのだ。反対をした4人は、野村證券の木内登英さんなど、いずれも民間のエコノミストである。一方、賛成した5人は、学習院大学教授の岩田規久男さんら、大学教授の4人と黒田東彦総裁だ。つまり賛成と反対4対4で真っ二つ。黒田総裁の1票で決まったということだ。
一概には言えないが、大学教授よりも市場に近い立場にいる民間のエコノミストのほうが、現実の金融市場をよく見ている可能性が高いのだ。その民間のエコノミストたちがみな反対した、ということが僕は気がかりなのである。
4月に消費税の値上げがあり、消費は落ち込んだ。だが、消費の落ち込みは一時的で、7月から秋にかけて景気は回復すると、政府は予想していた。ところが、一向にそうならない。だから、追加の金融緩和に踏み切らざるを得なくなったのだ。
はっきり言おう。今回の金融緩和は、「アベノミクス」がうまくいっていない、つまり「3本の矢」のうち、肝心の「成長戦略」の矢が効果をあげていないことを、認めたようなものなのだ。安倍政権は、「4本目」の矢ではなく、同じ矢をまた放ち直したのだ。
ところが、来年には、消費税をさらに10%にあげることになっている。だが、いまの経済状況で消費税をあげれば、また同じ道をたどる可能性が高いのではないか。賛否については軽々にいえないが、今回の政策がうまくいくように僕は念じるばかりだ。
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