この冬、首都圏では記録的な大雪が続いて、ずいぶん驚かされました。
出張で沖縄にいた私も羽田便が欠航となり、翌日の振替手続きに大変苦労しました。空港カウンターの前は長蛇の列となり、立ったまま一時間以上も待たされていた年寄りは気の毒でした。都市交通は雪に弱いと言われますが、それも我が事となってはじめて実感するものがあります。
私の住まいは赤城山の麓にある前橋で、裏の田んぼからは妙義、榛名と続く上毛三山や5月まで白雪が残る谷川岳もよく見渡せます。上州のからっ風は有名ですが、冷たい北風が吹く土地柄でも、これほどの雪は生まれて初めてのことと85歳になる老親が教えてくれました。背丈ほど積もった雪に1週間近く家に閉じ込められ、このままでは頭がおかしくなると訴えていました。年寄りもまた雪には弱いことが、相次ぐ事故のニュースからも伝えられています。
高齢化が進んだ地方には年寄りもたくさん暮らしていますが、元気な人でもこの大雪には音を上げています。住み慣れた家で家族と一緒にいる人でも、わずかな間、外に出られないことが辛く恐怖さえ覚えたと言うのですから、孤独に暮らす年寄りならばなおさらのことだと思いました。
介護保険制度は、高齢者が増えるにつれて施設から在宅サービスへとその重点がシフトしています。国は団塊世代が75歳になる2025年を目途に、30分程度で様々なサービスが提供されるように地域包括ケアシステムを構築する計画ですが、そこに高齢者の自由な移動を支える内容は見当たりません。通院や通所など、命をつなぐ上で最低限必要な移動を確保するまで、というのが方針のようです。
欧米と比べれば確かに日本国民の社会保障費や消費税の負担率は低いので、そこから提供できるサービスは限られ、移動の自由など担保できないというのもわかります。しかし、人口減少が止まらない地方の自治体では財政も厳しくなるばかりで、公共交通の維持はままなりません。
一方で高齢という理由から運転免許証を取り上げられる人も増えていて、地域に暮らす年寄りの移動はますます乏しいものになっています。孤立した高齢者は心身の健康を害し、犯罪に巻き込まれる危険性も高まるので、見かねた市民やNPOなどが支え合い活動を続けていますが、維持が難しいという声が多く聞こえてきます。
自由な移動ができないというのは、社会との接点を失うことにつながり、近年では介護や認知症へのリスクが高まることがわかってきました。人が動けばお金がかかるのは当たり前ですから、どこかで費用負担を決めなければなりませんが、核家族化が進み多様化した生活様式が広がり、高齢者の単独世帯も増えている社会の中で、一人で移動できない年寄りには30分を越える文化生活圏もあります。食品や日用品の買い物など地域の生活を支えるサービスとともに、お参りや家族訪問など本人の希望にあわせて出かけられるような移動サービスが求められていることも事です。ここでは様々な主体が地域で試みる超高齢者時代の移動について連載していきます。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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THE JOURNAL編集部
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