期限が切れているのはあたり前、床に落ちてもそのまま使う、カビた鶏肉も平気で混ぜる……。それだけでも十分に衝撃的なニュースだが、この会社が大手飲食チェーン店の仕入れ先であったことも、日本の消費者にとっていっそう衝撃的だった。
「食の安全」の問題は、生産者と消費者との間に、「流通」「加工」という、いくつもの段階があることから、起きているといっていい。「食の安全」を真剣に考えるなら、なるべく加工品を食べないという努力も必要だろう。
以前、食物の流れはもっと単純だった。近所の畑で採れた野菜や、近海で水揚げされた魚を食べていた。このようなサイクルでは、食の問題も起こりようがなかったわけだ。もちろん僕も傷んだものを食べて、腹をこわしたりしたこともあった。だが、それはあくまでも食べた側の責任だった。
そして、流通技術が発達し、加工食品が次々と開発されている現在、日本の食卓には実に多様なものが並ぶようになったが、しかし、その多様さと「豊かさ」とは別物なのかもしれない。食品が「工業品」と化し、生産地から食卓までの距離が、離れすぎてしまったのだ。
いま、生産者と消費者の距離を縮めようとしている人物がいる。オイシックスの社長、高島宏平さんだ。先日、高島さんと会って、僕はいろいろな話を聞いた。
高島さんは、安全でおいしいものを、消費者に届ける事業を展開している。「作った人が自分も食べ、選んだ人が自分の子どもにも安心して食べさせることができる、『責任のある』食材」を厳選していると高島さんはいう。そして作り手の名前はもちろん、メッセージも添えて、消費者のもとへ届けるのだ。まるで田舎の親元や農家の親戚から、送られてくるかのようである。
高島さんは、生産者と消費者が直接繋がることで、コミュニケーションが生まれるシステムを作りあげたのだ。高島さんはいう。「食料ではなく、『食卓』を届けるのだ」
高島さんの発想はとてもおもしろい。そして、日本の「食」を見直し、再生させる可能性を秘めている、と僕は感じたのだ。
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