集団的自衛権解禁をめぐる与党協議が始まるのを前に17日、公明党の支持母体である創価学会が、安倍晋三首相が目論む解釈改憲に反対し、「本来、改憲手続きを経るべきである。……慎重の上にも慎重を期した議論によって賢明な結論を望む」とするコメントを発表した。「政教分離」原則からして政治向きのことは党に任せて口を出さないという建前からしても、党は学会の付属機関なのだから意に反する言動をするはずがないという本音からしても、学会がこのようなコメントを出すのは異例のことで、波紋が広がっている。

菅義偉官房長官は19日の会見で「与党協議や閣議決定に影響はない」と平静を装ってみせたが、自民党内では早くも「これで、9月の臨時国会前に閣議決定をするのは難しくなった。臨時国会では、PKO法の改正による“駆けつけ警護”の容認とか、自衛隊法改正による離島防衛など個別的自衛権のいわゆる“グレーゾーン”対策などをやるのが精一杯で、集団的自衛権そのものには踏み込めないだろう」という声が出始めた。何しろ、自民党の国政選挙は今や学会頼りで、現在の300近い衆院議席も公明党との選挙協力なしには200近くまで減ると言われているから、学会の動向にはピリピリせざるを得ない。そうだとすると、夏に閣議決定、秋に一気に法改正して年末から始める日米防衛協力ガイドラインの再改訂作業を迎えるという安倍の目算は、大きく狂う可能性が出て来た。

学会側としては、マスコミから見解を求められたので、これまで公明党の山口那津男代表らが繰り返し表明してきた慎重論の線に沿って、穏当な表現でまとめただけなのに、「おっ、学会がいよいよ反対論で動き出した」という話になって、いささか戸惑っているらしい。

しかし、公明党は「平和と福祉」の党として創立されて今年11月には結党50周年を迎える。その記念すべきタイミングを、安倍の「戦争のできる国」路線に屈服した姿を晒しながら迎えるというのでは、創価学会としてはいくら何でも我慢がならないだろう。民主党はじめ野党がヘロヘロ状態の中では、公明党が結党の原点に立ち返って、連立離脱も辞さずという覚悟で突っ張ることが、安倍の暴走を止める一つの鍵である。ここで存在感を示せないようでは、公明党は創価学会から見放されることになるのではないか。▲
(日刊ゲンダイ5月21日付から転載)


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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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