「新潟から東京へ母を連れ出したいのですが、お願いできますか?」
介護するお嬢さんから2度目の電話が入りました。
「春に一度、相談したのですが、その時は不安で実現できませんでした。今度は父の同窓会があるので、それを口実に母を連れ出したいと思い連絡しています」
本当は伊豆の温泉へ連れていきたかったのですが、脳梗塞で倒れた母は車いす生活、移動が不安であきらめました。母親は要介護度3で、2年前に倒れて半身に麻痺が残っています。一度はあきらめたはずの旅でしたが、ふさぎ込んでいる姿がたまらず、父を口実に東京見物を実現したいと娘の真由美さんが奮い立ちました。
真由美さんは、あ・える倶楽部を介助人材の派遣会社だと思っていました。
だから、いざ土地勘もない東京へ行くとなれば、どこに泊まったらいいのか、駅からはどう行ったらいいのか、荷物もあるしトイレも心配と自分たちだけでは不安が募り、結局あきらめていました。
介護旅行に限らず、外出を実現するには、断片的なサービスでは利用者の課題は解決できません。ベットを出てから帰るまでのすべて、持ち物の準備から、洋服選びまでトータルに相談できなければ事は足りず、そうした相談を気軽にできるところがないのが現状です。「滞在先のホテルや移動手段まで教えてもらえるとは思いませんでした」一瞬、真由美さんの声が明るくなりました。
「もっと、具体的に考えると相談したいことがたくさん出てくると思うので、また、電話させてもらいます」そう言って電話を切りました。
私達は、普段どのような介護サービスを受けているかを理解した上で、旅先でできること必要な手配を説明していきます。すると、案外自分たち家族でもできることがあることに気づいてくれます。
リフト付きの介護タクシーでないとダメと思い込んでいる家族も、いくつかのポイント、例えば車いすから普通の座席へ移乗しても座位を保つことができるか、その際、身体には痛みがないかなど、問題がないことが解かれば一般車両で可能なことに気づきます。
さらに、自宅から同行する娘の他、途中合流するお姉さんの存在もわかりました。するとその座席の手配やホテルの仕様、全行程をマンパワーの有無に合わせてアドバイスすることもできます。
このケースでは、症状は安定しているので移乗が上手くいけば、どうやら、介助者はいなくてもいけそうという結論になりました。
トラベルヘルパーはおでかけ相談から交通手段の選択、宿泊先の選定などさまざまなコーディネーションを行うことができますし、もちろん外出時の介護スキルもあります。それでも、日常生活を取り戻そうと自立を目指す家族なら、環境が整えて介助をしない介護旅行ということもしています。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決まりました。
先の五輪は戦後復興から高度成長の象徴として、以後、半世紀以上に渡って国民生活を各段に向上させるインフラを残してくれました。この先半世紀は、超高齢者が標準、次は超高齢社会の未来空間、質の高い多様なサービスモデルを先進国として世界に示したいものです。
真由美さんの母は孫と一緒に東京五輪を観に来たいと今から楽しみにしています。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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THE JOURNAL編集部
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