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田中良紹:日本の民主主義は生き返ることが出来るか

2014/01/25 06:00 投稿

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第186通常国会が始まった。昨年の185臨時国会はこれまでになくひどい国会で、長年国会を見てきた私は「議会制民主主義の死」を感じてしまった。それだけにこの通常国会がどのような議論を展開するかに強い関心がある。日本の民主主義は生き返ることが出来るのか、それがこの通常国会で問われる。

昨年の臨時国会は当初「成長戦略実現国会」と位置付けられていた。アベノミクスの「第三の矢」について議論するのが国会の課題であった。ところが始まってみると、それがどこかに消え、「日本版NSC法案」と「特定秘密保護法案」を成立させる国会である事が明らかになった。

アベノミクスは当初から「第三の矢」が最も重要な意味を持つと言われてきた。しかし楽天の三木谷浩史社長が薬事法改正を巡って産業競争力会議の委員辞任を表明した事からも分かるように、民間主導になるはずの改革が結局は霞ヶ関主導になり、表の看板とは裏腹に旧来の枠を壊せない事が明らかになりつつあった。

そうした事から成長戦略をまともに議論する事を避け、「日本版NSC法案」と「特定秘密保護法案」の成立に舵を切り替えたのではと私は見ていた。それでは国家の安全保障に深くかかわる「日本版NSC法案」と「特定秘密保護法案」は十全な準備がなされていたのかと言えばそれも違う。

日本版NSCはアメリカの強い要請により第一次安倍政権の頃から検討され、民主党政権でも検討は継続されたが、今回決まった「日本版NSC」は議事録を作成しないと言うのだから、アメリカのNSCと原理が異なる。議事録を作らないというのは将来にわたって国民の目に触れさせまいという事で、それは全く民主主義に反する。

「日本版NSC法案」とセットで成立を目指すことになった「特定秘密保護法案」も民主党政権の時代に検討された経緯があり、安倍政権としては民主党も反対できないと踏んだのだろうが、内容的には問題だらけであった。誰が秘密を指定するか、それを監督するのは誰かなどで諸外国とは異なるのである。

これまでも情報を独占してきた官僚がますます権益を拡大することが容易に想像できる法案であった。さすがにそれは国民の疑念を呼ぶ。すると「日本版NSC法案」に賛成した民主党も「特定秘密保護法案」には賛成できなくなった。そして政府の答弁は国民の疑念を晴らそうとするあまりに、日替わりでころころ変わる意味不明の答弁となった。民主主義に反すると追及されると、成立させた後で施行までの間に様々な措置を講じると答弁して逃げた。そうやって強引に法案を成立させたのである。

法案を成立させた後に安倍政権は「重層的なチェック機関」と称して有識者などによる会議を複数立ち上げたが、これも官僚が得意とする官僚支配のやり方である。有識者によるチェック機関と聞かされると騙される馬鹿な国民もいるが、人選によって有識者会議はいかようにでも操ることが出来る。

私は以前から秘密情報を監視する役割は国会だと主張してきた。国民の代表が国家の中心的役割を果たす事が民主主義の民主主義たる所以だからである。その重要なポイントが臨時国会の議論の中では全く深まらなかった。

今年に入って超党派の国会議員団がドイツ、イギリス、アメリカを視察し特定秘密の指定をどう監視しているのかを調査した。そこで分かったことはどの国でも議会の役割が非常に大きいという事である。それは民主主義国であれば当たり前である。それが法案を成立させた後になって分かったというのでは笑い話にもならない。調査団を迎えた国は法案を成立させた後から勉強に来る日本の議員たちのお粗末さに呆れたに違いない。

ところが森雅子担当大臣は17日の記者会見で「特定秘密保護法案の法改正はしない」と断言した。「運用で対応する」と言うのである。これも官僚お得意のやり方だ。法律に書き込まれた事には官僚が違反することは出来ない。しかし「運用」となると「運用」をする主体は官僚であり政治家ではない。官僚の胸三寸でいかようにでもなるのである。では何のための欧米視察だったのか。そういう問題が残されている。

安倍政権はこの通常国会を「好循環実現国会」と名付けた。先の臨時国会を「成長戦略実現国会」と名付けたのと同じ戦法である。馬鹿な国民には良い経済が始まると思わせ、都合の良いデータだけを並べて見せ、その裏でせっせとアメリカに媚を売る。柳の下に土壌は二匹いると安倍政権は考えているのである。

しかしそれが通れば日本の民主主義は二度死ぬ。思えば昭和11年、日本は東京オリンピックと万博の招致に成功し、国中が湧き上がり、国民は明るかった。翌年に盧溝橋事件が起き、次いで南京が陥落すると戦争景気を期待して国民の顔はさらに明るくなった。政府は「戦線不拡大」を声高に言い続けるから誰も深刻な戦争になるとは思っていない。

それが民主主義を否定して大政翼賛会に組み込まれるのにさほどの時間はかからない。昭和14年に映画法が成立し、15年に新聞法と銀行法が成立して、国民の洗脳と企業の国家管理が始まった。大げさな事を言う気はないが、明るい未来が強調されている時には民主主義を弱める動きが出て来るものなのである。民主主義を二度殺さないために、この通常国会は「民主主義」という視点からしっかり見る必要があると私は思う。

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■《甲午田中塾》のお知らせ(1月28日 19時〜)

田中良紹塾長が主宰する《甲午田中塾》が、1月28日(火)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!

【日時】
2013年 1月28日(火) 19時〜 (開場18時30分)

【会場】
第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
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http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。

【参加費】
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懇親会:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

【アクセス】
JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分

【申し込み方法】
下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。21時以降の第2部に参加ご希望の方は、お申し込みの際に「第2部参加希望」とお伝え下さい。
http://bit.ly/129Kwbp
(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

【関連記事】
■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article


<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

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コメント

ご投稿を読みながら、島国民族である日本人は、支配されることが習性化しており、自分の目で見て、考え、行動する民主主義は、根付かないのではないかと懸念しています。
ドイツに遠く及ばない不平等な基地地位協定にある沖縄では、今尚、主権を確保しようとする粘り強い戦いが展開しています。民主主義を勝ち取ることの難しさを沖縄の方々に教えられています。
私達本土に生きる人間は、60年代の安保闘争で地位協定の不平等をなくす主権在民を求めた戦いをしたが、原発は平和利用ということで、丸め込まれ、経済馬鹿になって今まで経過してきました。
そのツケが、一挙に噴出したというのでしょうか。原発は安全なものでなく、扱い方一つ、自然災害、テロ、戦争などによって、日本が破滅しかねない恐ろしい原因を孕んであることを学びました。
もう一つは、戦後69年の現在、戦争の悲惨さを知らない若い人たちは、米国に従属することから脱して、独立国として世界で活躍しようとするのが当たり前のこととして考えています。
問題は、日本に国民主権の民主主義が根付いていれば肯定できますが、マスコミに自由な報道をさせず、ナショナリズムを煽ることによって、日本を独り立ちさせようと、国民に論理のすり替えで洗脳し続けています。野党は与野党的であり、与党の歯止めにならず、与党の内部のリベラルな人たちに期待するしかない情況は、民主主義の危機ではないかと思っています。

No.1 131ヶ月前
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