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篠塚恭一:真のユニバーサル旅行の実現に向けて

2019/08/24 14:03 投稿

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  • 篠塚恭一
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(写真:念願のスイス・アルプスを望む)

 トラベルジャーナルという業界専門誌から~分け隔てない旅行の仕組みづくり~という特集への寄稿を頼まれたので、この機会に改めてユニバーサルツーリズムについて考えてみようと思う。

 20数年前、福祉と観光分野の人が一堂に会した「優しい旅へのシンポジウム」で21世紀を迎える社会へ提言したのは、それまでのバリアフリーの旅づくりから旅をユニバーサルデザイン化することだった。当時は障がいを持つ人の社会参加を求める活動のひとつとして、いかに旅行を様々な関係機関と連携して、誰でも利用しやすいものとしていくかにあった。障がいを持つ人の旅は、健常者に比べて大きなバリアが社会の中にたくさん存在していたから、そうしたバリアを取り除いていこうという発想だった。

 ユニバーサルデザインは、すべての人に使いやすいデザインと訳される。初めからバリアを作らないという発想だ。したがってユニバーサルツーリズムは、すべての人が利用あるいは参加しやすい旅行と解釈されている。その対象は、高齢者、障がい者、ベビーカーを使用する子育て家族等であり、広義には食物アレルギーを持つ人や日本語のわからない外国人、宗教の違う人も含まれる。ユニバーサルツーリズムはこうした一般旅行者とは違った配慮やニーズを持つ人を対象に提供されているのだからparticularやスペシャルツーリズムの方がしっくりくると思うのは私だけだろうか。

 18世紀後半の産業革命以降に生じた近代ツーリズムは、大量輸送機関の発展に応じたマスツーリズムとして市場を拡大した。また経済成長に沿って労働者の暮らしが豊かになるにつれ、旅行者を旅慣れた消費者へと進化させた。成熟してゆく社会では消費や嗜好の変化も早く、そこに供給される商品・サービスもまた個々のニーズを捉えるものへと変化した。いわゆるSITを求める旅行者が増加した。グリーンツーリズムやエコツーリズムも起源は、そうした変化の派生にあったと言える。それが2012年に起きた東日本大震災以降、旅行スタイルがさらに変化を始める。個人の嗜好を追及する旅から、人と人との繋がりや誰かの助けになることに価値を置くボランティアツーリズムが生まれ、自然災害の多い日本に定着している。時代は自我を追求した旅から利他的な旅へ嗜好が変わってきたようだ。インバウンド市場が急成長する中、全国で活躍するガイドの働き方も収入より人との出会いや繋がりに面白さを感じて働く人は多く、6割以上は無償のボランティアが担っている。観光人材も急速に様変わりしている。

 社会背景を反映して生じるニューツーリズムは様々な姿となって現れ、1990年代に盛んとなったバリアフリー旅行もまた、そうした変化に応じて派生したものと私は理解している。

 昨年、高齢化率が28%を超えた日本社会は人生100年時代を迎え、超超高齢者社会に突入した。わずか100年足らずの間に寿命が2倍になってしまったのだから、人生設計も考え直さなければならなくなった。

 国もまたインバウンド振興同様、多くのヘルスケア産業を推奨していて、観光においてはヘルスツーリズムが時代のあと押しを受けている。他方、すでに一部の消費は健康志向の先にあるスピリチュアルな世界へ向かっている動きもある。霊山を詣でる講社やお遍路を辿る旅など、独特の民衆精神を持つ日本人の暮らしが神秘の世界に同居している東洋の魅力として欧米人にはミステリアスに写ることから人気の旅だという。

 世界をひとつの価値基準で捉えようとするグローバル思考を是としてきた近代社会が行き詰まる中、お遍路のような昔ながらの旅の作法から未来の旅へヒントを得ることがある。自我を求め続けた時代の気が変わり、これまで科学的に進化し続けてきた旅行スタイルは、一方で過去の不自由さを求める兆しが見え始めている。

 2017年、オリパラ開催を控えて国はユニバーサル社会の実現を掲げ、様々な分野で取り組みを進めている。その多くが移動や宿泊、あるいは誰でもトイレなどのハード面からバリアフリー情報の提供、さらにバリアフリー教育に到るソフトまで多岐にわたり観光との関係も深い。今年はラグビーW杯があり25年には大阪万博も行われ、ユニバーサルツーリズムにも注目が集まりプレイヤーが増えはじめている。そうした中で要介護高齢者のような過去存在しなかった大量の、しかもこれまでの観光を支えてくれた人の旅は存在しないとされている現実があるのは寂しいと感じていた。なかなか難しいテーマだが、近ごろ旅行会社が介護事業者と連携して取り組む動きや福祉ベンチャーが外出サービスとして日帰り旅行のようなものを行う話も聞くようになった。人材が集まり環境が整い、情報が多くなることで解消されるバリアは少なくない。旅行業は移動や宿泊サービス等を確実につなぎ、値ごろ感のある商品として完成させ、固有ニーズのある客にも利用しやすく提供してほしいと望まれている。そうした声を作り手に届ける責任もあるだろう。さらにこれらの旅行者が増えることで地元が喜び、地域がよくなることを考えなければ持続可能な関係にはなれないから時間もかかるし簡単にできることではない。

 バリアフリーやユニバーサルの言葉を使う背景には差別がある。障害とは労働力とみなされない人に対してつくられた言葉だからだ。今、多額の税金をかけてバリアフリーツアーやユニバーサルツーリズムを謳う観光拠点を増やしているが、なぜ既存の観光協会等の機能をこうした分野へ振り向けないのか、新たな縦割りを作ろうとするのか私には理解できない。

 障がいのある人は普通に働く施設職員やボランティアを旅の友としているし、要介護高齢者も健常な家族、子や孫と一緒に旅をしている。障がいのある人に対する旅行も健常者の旅行も同時に提供されなければ成立しない。旅先で一般観光はこちらでバリアフリー旅行はあちらというようなことをするのは提供者側の理屈で、どこかパフォーマンスのように意図が透けて見える。もちろん熱心にやっているところもあるのは承知している。

 禅の教えに一元絶対、二元相対という言葉がある。一元絶対は自分と相手を別々に考えるのではなく、ひとつのものと捉えると苦しみは解決するという教えで「絶対」は対立をつくらないという考えだ。一方、人は二元相対、対象となる相手があって自分を知ることを教えられて育つから、人生は苦しく悲しくもあるが、そこに人としての成長もあるという。

 2020年、日本のテクノロジーは過去最高になる。東京という町をハードにホスピタリティあふれるサービスを加えた先端技術が三位一体の旅行システムとして、このオリパラが世界へ高齢者社会日本の力を知ってもらうショーケースになることを楽しみにしている。(190701トラベルジャーナル特集)


【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。



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