前川氏の身の下問題を暴露する人格攻撃で前川証言の信ぴょう性を疑わせようとしたのである。この手の人格攻撃は権力の常套手段だが、リーク先に選ばれるのは通常「週刊文春」か「週刊新潮」である。それが今回は読売新聞という一般紙にリークされた。ニュースとは言えないゴシップが一般紙の社会面を飾ったのはおそらく初めてのケースである。
極めて珍しいケースだけにまず私はどういう事情で安倍官邸が読売に書かせたのか、その裏舞台を探れば安倍政権の置かれている現状が明らかになると思った。そして同時に驚かされたのが菅官房長官の記者会見である。
薄ら笑いを浮かべながら「教育行政のトップが出会い系バーに行き小遣いまで与えていたことに、国民のみなさんもそうでしょうが極めて違和感を感ずる」と発言した。私はかつて中曽根内閣時代に後藤田官房長官の番記者をやった経験がある。その経験からしてこの記者会見に極めて強い違和感を覚えた。
官房長官とは総理大臣を支える女房役であると同時に霞が関の行政機構を統括する内閣の要である。米国で言えば副大統領と大統領報道官を合わせたような重要な役職を担う。身の下問題を暴露して相手を攻撃するような下賤の仕事はしない。
後藤田官房長官は中曽根総理が米国の要請を受けペルシャ湾に日本の海上自衛隊を派遣し機雷掃海に従事させようとしたとき、身を挺して派遣に反対し中曽根総理を翻意させたことがある。官房長官はただの総理の使い走りではなく国家の命運を総理と同等のレベルで考える人間なのである。
ところが菅官房長官は安倍総理の「お友達への特別待遇」に疑惑が生じているとき、その疑惑にまともに応えようとせず、まるで総理の使い走りであるかのように低レベルの身の下攻撃を鬼の首を取ったかのように会見で語った。
その姿に私は菅官房長官の人間としての浅ましさ、同時に官房長官という役職にある者の発言とは思えない違和感を覚えた。政治未熟児の安倍総理とは異なり、これまで何度もまともな判断を下してきたと思っていただけに、この会見で私の菅官房長官に対する評価は一変した。この程度の人間が官房長官の地位にあることに国家の行く末が案じられる。
私は前川前事務次官の「出会い系バー通い」が身の下問題であったとしても、それで今回の告発が信用に値しないことにはならないと考えていた。ところが1日発売の「週刊文春」が「出会い系バー」の女性に取材したインタビュー記事を掲載した。それを読むとこれは全く身の下問題ではない。
記者会見で前川氏は「出会い系バー」に行った理由を若者の貧困問題に対する関心からだと語り、それを大方の人間は「ふざけるな」と疑っていたわけだが、記事は前川氏の発言を裏付けている。前川氏に相談していた女性は「前川氏によって救われた」と語り、女性の両親も前川氏がこの問題で攻撃を受けていることに同情しているというのである。
記事の通りならそれはむしろ美談である。決して菅官房長官が勘ぐる汚らしい話ではない。記事の裏付けが取れれば菅官房長官は不明を愧じ前川氏に謝罪しなければならない話だと思う。記者会見であれだけのことを言ったのだから菅官房長官は当然裏付けを取り、適切な対応をすべきである。
そして官房長官以上に問題なのは社会面で大きく報じた読売新聞である。読売の社会部といえば昔は一目置かれる存在だった。前川氏が通う歌舞伎町の「出会い系バー」を取材したのであれば当然「週刊文春」が取材した女性を取材しているはずである。前川氏と最も関係のあった女性に取材もしないで新聞社が記事を書くはずはないからだ。
取材をしていながら読売新聞が「週刊文春」が書いた内容を記事にしなかったのはなぜか。結果として読売新聞と「週刊文春」とではまるで印象が異なる。「週刊文春」が事実と異なる印象操作をしているのか、それとも読売新聞が印象操作をしているのか、その黒白をつけてもらいたい。そうでないと国民はフェイクニュースに迷惑させられる。
もし仮にその女性に取材しないまま記事にしたというのなら新聞として大問題である。「週刊新潮」は官邸から読売にリークがあったと報じているが、それなら読売新聞は官邸の言う通りにフェイクニュースを掲載したことになる。
読売新聞が自らを「社会の公器」と位置付けているのであればその経緯を国民に説明する義務がある。それが出来なければ「社会の公器」をやめて読売新聞はイエロー・ペーパーを自認することだ。
安倍総理はまだこの問題で自分が「印象操作」されていると被害者面で強弁している。しかし「週刊文春」の記事の通りならを前川氏こそ「印象操作」の被害者である。前川氏に対する「印象操作」を行ったのは誰か。勝手に読売がやったと言うつもりか。
菅官房長官は杉田和博内閣官房副長官が前川氏に「出会い系バー通い」を厳重注意したと語っている。つまり警察出身の官房副長官は以前から「出会い系バー通い」を知っていた。ありうるのはやはり官邸による「印象操作」である。その頂点がいかにも嬉しそうに前川氏を批判した菅官房長官の記者会見だ。
これらすべては「週刊文春」の記事に誤りがない前提での話である。読売新聞を使って「印象操作」をやってしまったばっかりに「週刊文春」も「週刊新潮」もこの問題では官邸に冷ややかである。官邸はこれからどう対応していくのだろうか。まさか「共謀罪」をちらつかせて週刊誌を委縮させようとはしないだろうね。
■《丁酉田中塾》のお知らせ(7月25日 19時〜)
田中良紹塾長が主宰する《丁酉田中塾》が7月25日(火)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!
【日時】
2017年7月25日(火) 19時〜 (開場18時30分)
【会場】
第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。
【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。
懇親会:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。
【アクセス】
JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分
【申し込み方法】
下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。
http://bit.ly/129Kwbp
(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)
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■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article
<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
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THE JOURNAL編集部
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