今日からアップする「結城登美雄の食の歳時記」は、民俗研究家で「地元学からの出発」(農文協)の著者、結城登美雄さんの“幻”の記事です。結城さんがこれらの記事をラジオ用に書いたのは2006年のこと。本人から記事の掲載の許可を得ていたのですが、なかなかアップできずにいました。というのも、さすがに統計は古く、編集部が数字を調べなおして再構成していきました。
ジャーナリストの甲斐良治氏はもととなったラジオ番組「みやぎの食べもの暦」について、「『食べもの暦』となっているが、たんなるホノボノ歳時記話題ではない!」「反グローバリズム生活革命放送なのである」と太鼓判を押すほどでした。有料記事となりますが、会員は次回から全文購読できます。ぜひこの機会に会員になっていただけると幸いです。
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結城登美雄の食の歳時記<麦編・その1>
日本人の主食はお米です。でも世界の主流はパンやパスタのように小麦を粉にして食べる粉食が主流です。その影響でしょうか、近頃は日本人もパンや麺、パスタなどのいわゆる粉ものの食事が多くなってきました。
昨年、1世帯1年間にどれくらいお米にお金をかけているかを統計で見ると、2万7780円(総務省「会計調査」2011)。1990年には年間6万2000円以上あったのが約20年間で55%もお米の金額が減っています。米をたべなくなった日本人。そのかわりパンの支出額が10%ほど伸びています。その金額が2011年には2万8321円となり、ついに米をパンが抜き、逆転しました。僕らの暮らしも、朝はパンで昼は麺、夜はご飯という食生活が定着したのかなという気がします。
(総務省「会計調査」2011より編集部制作)
加えて麺類も意外と多いんです。日本人は麺が好きですから、その金額が1万8000円ほどあります。世帯主が60歳以上の世帯ではパンよりも米にかける金額が多いのですが、一層若い世代になると、お米とパンが逆転します。特に世帯主が40~49歳の世帯では米が2万4729円でパンが3万4283円(同総務省「会計調査」2011)と金額的な差が約1万円で最も大きい。若くなればなるほどパン食が多くなっていきます。こんな数字を見ていると、どうなってしまうのか日本の主食は──という気がしてきます。
言うまでもなくパンも麺も原料は小麦です。お米は100%自給できるのに小麦は約11%(農林水産省2011)しか国内で自給できていません。だから毎年約550万トンもの小麦を外国から輸入している(生産局資料2011)のが日本の現実です。国産は約85万トン(農林水水産省「作物統計」2012)だけ。消費量でも米が主役でなくなる、あるいは小麦が主役になるそんな日が来てほしくないと僕は思います。この減り続ける米の消費、増え続ける小麦を使った食品は、実に多種多彩にあるわけです。そんなことを考えるとお米どころ宮城の農業、農村はどんなるんだろうかとちょっと心配になってきます。ときどき大丈夫かなと田んぼを見ていて思ったりします。
パンやパスタが主食になるような今日の私たちの食卓のせいなのでしょうか。「できれば外国の小麦ではなくて国産の小麦を食べたい」という声が高まっているような気がします。そして「できれば地元宮城の小麦、せめてそうでなければ東北の小麦を使ったパンや麺をたべたい」といった声を耳にします。国内産小麦約85万トンのうち、宮城の小麦の生産量は4450トンです。お米の国だからこれは仕方がないことかもしれませんが、ちなみに東北全体ではどうなんだろうと調べてみましたら、東北の生産量は約1万4000トンです。
太平洋側の岩手では約6000トンで、青森が約2000トン、日本海側の秋田が約750トンで、福島が約470トン、山形は約200トンとかぎりなくゼロにちかく、小麦は雪が20センチ以上つもるところでは太陽の光がさし込まないので育ちにくくて腐ってしまう。日本海側はどうしても小麦には適さないんです。日本の小麦の大半以上は北海道、関東や九州が支えていますが全体で11%ですから、もっと国内産小麦が増えてほしいです。
一方、シェア80%以上の輸入小麦は一体何に使われているのかを考えると、自分の食生活を振り返ってみればわかります。パスタが25万トン、クッキーやカステラが71万トン、うどんや即席麺・ビスケットが71万トン、中華麺や餃子の皮・ピザ・食パンなど300トン(農林水産省2008年)です。もちろん和菓子やお麩、ソバにも小麦はつなぎとして使われています。天ぷらの衣もそうです。宮城で日本一の生産量をほこる塩釜の揚げかまぼこなどの練り製品にも10~13%の小麦が使われているそうです。その小麦の代わりに宮城の小麦が積極的にいろんなところで使われたらいいなと僕は思っています。地元の小麦をお米が減少しているなかで農家の人と私たち消費者が力を合わせて増やしていくことができないでしょうか。(「その2」につづく)
【プロフィール】結城登美雄(ゆうき・とみお)
1945年、中国東北部(旧満州)生まれ。宮城教育大学、東北大学大学院非常勤講師。「地元学」の提唱で2005年芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。著書に「地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける」(農文協)「東北を歩く―小さな村の希望を旅する」(新宿書房)など
<「結城登美雄の食の歳時記」一覧>
■結城登美雄の食の歳時記#20<中山間地域編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar238181
■結城登美雄の食の歳時記#16<農山村と若者編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar215232
■結城登美雄の食の歳時記#12<浜の暮らし編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar190685
■結城登美雄の食の歳時記#8<食育編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar164946
■結城登美雄の食の歳時記#4<麦編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar139064
■結城登美雄の食の歳時記#1<暦編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar126106
【関連記事】
■結城登美雄の食の歳時記<麦編・その2>宮城の麦がなぜ田園から消えていったのかhttp://ch.nicovideo.jp/article/ar129253
■第1回大山村塾・結城登美雄のあるものさがし(@ニコニコ支局 2012.04.15)
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar7835
■結城登美雄:「よい地域」であるための7つの条件(@ニコニコ支局 2013.02.01)
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar117563
■結城登美雄:被災地から考える食の未来──古い大規模価値観から脱却を
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar7852
ジャーナリストの甲斐良治氏はもととなったラジオ番組「みやぎの食べもの暦」について、「『食べもの暦』となっているが、たんなるホノボノ歳時記話題ではない!」「反グローバリズム生活革命放送なのである」と太鼓判を押すほどでした。有料記事となりますが、会員は次回から全文購読できます。ぜひこの機会に会員になっていただけると幸いです。
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結城登美雄の食の歳時記<麦編・その1>
日本人の主食はお米です。でも世界の主流はパンやパスタのように小麦を粉にして食べる粉食が主流です。その影響でしょうか、近頃は日本人もパンや麺、パスタなどのいわゆる粉ものの食事が多くなってきました。
昨年、1世帯1年間にどれくらいお米にお金をかけているかを統計で見ると、2万7780円(総務省「会計調査」2011)。1990年には年間6万2000円以上あったのが約20年間で55%もお米の金額が減っています。米をたべなくなった日本人。そのかわりパンの支出額が10%ほど伸びています。その金額が2011年には2万8321円となり、ついに米をパンが抜き、逆転しました。僕らの暮らしも、朝はパンで昼は麺、夜はご飯という食生活が定着したのかなという気がします。
(総務省「会計調査」2011より編集部制作)
加えて麺類も意外と多いんです。日本人は麺が好きですから、その金額が1万8000円ほどあります。世帯主が60歳以上の世帯ではパンよりも米にかける金額が多いのですが、一層若い世代になると、お米とパンが逆転します。特に世帯主が40~49歳の世帯では米が2万4729円でパンが3万4283円(同総務省「会計調査」2011)と金額的な差が約1万円で最も大きい。若くなればなるほどパン食が多くなっていきます。こんな数字を見ていると、どうなってしまうのか日本の主食は──という気がしてきます。
言うまでもなくパンも麺も原料は小麦です。お米は100%自給できるのに小麦は約11%(農林水産省2011)しか国内で自給できていません。だから毎年約550万トンもの小麦を外国から輸入している(生産局資料2011)のが日本の現実です。国産は約85万トン(農林水水産省「作物統計」2012)だけ。消費量でも米が主役でなくなる、あるいは小麦が主役になるそんな日が来てほしくないと僕は思います。この減り続ける米の消費、増え続ける小麦を使った食品は、実に多種多彩にあるわけです。そんなことを考えるとお米どころ宮城の農業、農村はどんなるんだろうかとちょっと心配になってきます。ときどき大丈夫かなと田んぼを見ていて思ったりします。
パンやパスタが主食になるような今日の私たちの食卓のせいなのでしょうか。「できれば外国の小麦ではなくて国産の小麦を食べたい」という声が高まっているような気がします。そして「できれば地元宮城の小麦、せめてそうでなければ東北の小麦を使ったパンや麺をたべたい」といった声を耳にします。国内産小麦約85万トンのうち、宮城の小麦の生産量は4450トンです。お米の国だからこれは仕方がないことかもしれませんが、ちなみに東北全体ではどうなんだろうと調べてみましたら、東北の生産量は約1万4000トンです。
太平洋側の岩手では約6000トンで、青森が約2000トン、日本海側の秋田が約750トンで、福島が約470トン、山形は約200トンとかぎりなくゼロにちかく、小麦は雪が20センチ以上つもるところでは太陽の光がさし込まないので育ちにくくて腐ってしまう。日本海側はどうしても小麦には適さないんです。日本の小麦の大半以上は北海道、関東や九州が支えていますが全体で11%ですから、もっと国内産小麦が増えてほしいです。
一方、シェア80%以上の輸入小麦は一体何に使われているのかを考えると、自分の食生活を振り返ってみればわかります。パスタが25万トン、クッキーやカステラが71万トン、うどんや即席麺・ビスケットが71万トン、中華麺や餃子の皮・ピザ・食パンなど300トン(農林水産省2008年)です。もちろん和菓子やお麩、ソバにも小麦はつなぎとして使われています。天ぷらの衣もそうです。宮城で日本一の生産量をほこる塩釜の揚げかまぼこなどの練り製品にも10~13%の小麦が使われているそうです。その小麦の代わりに宮城の小麦が積極的にいろんなところで使われたらいいなと僕は思っています。地元の小麦をお米が減少しているなかで農家の人と私たち消費者が力を合わせて増やしていくことができないでしょうか。(「その2」につづく)
【プロフィール】結城登美雄(ゆうき・とみお)
1945年、中国東北部(旧満州)生まれ。宮城教育大学、東北大学大学院非常勤講師。「地元学」の提唱で2005年芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。著書に「地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける」(農文協)「東北を歩く―小さな村の希望を旅する」(新宿書房)など
<「結城登美雄の食の歳時記」一覧>
■結城登美雄の食の歳時記#20<中山間地域編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar238181
■結城登美雄の食の歳時記#16<農山村と若者編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar215232
■結城登美雄の食の歳時記#12<浜の暮らし編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar190685
■結城登美雄の食の歳時記#8<食育編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar164946
■結城登美雄の食の歳時記#4<麦編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar139064
■結城登美雄の食の歳時記#1<暦編>
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar126106
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■結城登美雄の食の歳時記<麦編・その2>宮城の麦がなぜ田園から消えていったのかhttp://ch.nicovideo.jp/article/ar129253
■第1回大山村塾・結城登美雄のあるものさがし(@ニコニコ支局 2012.04.15)
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar7835
■結城登美雄:「よい地域」であるための7つの条件(@ニコニコ支局 2013.02.01)
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar117563
■結城登美雄:被災地から考える食の未来──古い大規模価値観から脱却を
http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar7852
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