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篠塚恭一:「”幸せな国”の資源としての外出支援」──街へ出よう(36)

2017/04/25 12:12 投稿

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  • 篠塚恭一
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先日、老夫妻を横浜港までお見送りにいった時のこと。
「白木の箱に入って帰ってきてもいいの」
そう言って婦人はご主人と長旅へでかけていきました。

80歳を目前にして脳卒中で倒れたご主人は病気をきっかけに入院され、その後老健施設に入ることになったので、ケアハウスに住む婦人とは離ればなれの暮らしです。

ずっと施設にいるご主人を気の毒に思い「たまには旅行へ連れ出したい」と、身体に負担の少ない船旅を選んだそうです。

クルーズ旅行は、旅先で時間をもて余すことなのないように毎日様々な演出の催しがあるのですが、「そういうのはいいの。私たちは海を見ているだけでホッとするから」と、どのように船内で過ごしたいかを教えてくれました。

「海からはイオンとか何かいいモノが出てるでしょ」そういって静かに微笑んでいます。

旅へ出よう、と決めた時は、家族も、施設の方も普段をよく知る付き添いは無理と断られ、3ヵ月を越える長旅の道中何かあったらどうするのかと反対する方ばかりでした。

ただ一人、施設を経営する病院長さんだけが、「家族が言うんだから、行ってらっしゃい」と後押ししてくれたと喜んでいました。

先日、生活支援サービスの担い手となる人材を地域で養成している方の話を伺いました。

その地域では農家の協力を得て、畑作業をすることで健康づくりや高齢者の就労支援の活動を行っています。日本人は勤勉ですから、リタイア後の高齢者には仕事を頼むのが一番元気になることがわかっているからというのです。こうした働き方は「生きがい就労」とよばれ、高齢化する農家を助けながら自分も健康になり、地産地消も進むという三方よしの取り組みです。

ところが、そこに国の最低賃金制度が邪魔をしているというのです。

国は労働者の就労環境を守るためにさまざまな制度をつくり規制をかけています。

このケースでは、最低賃金を決められているから、同じ賃金を払うなら、高齢者より働きのいい若い人を雇いたいと農家側は考えてしまうというのです。

だから、一方の高齢者がボランティアでは困るけれど、健康づくりをかねた生きがい労働だからフルタイムの賃金などいらない、半額でも十分といっているのに頼むことができないといいます。高齢者には、年金収入もある第二の人生ですから、時間に余裕をもって健康的に働こうというのに、国の制度があるから、そうもいかないと、今農家とリタイアした高齢な人が互いに苦慮しています。高齢化するコミュニティの維持を他の規制や制度が妨げる一例だと思いました。

社会保障やさまざまな法制度は国民の生活を守る下支えとなってくれますが、制度に頼るだけでは幸せになれなません。どこかで得をする人がいたなら、自分はどうして貰えないのかと欲が出るのも人の性です。

船の婦人は「戦争に負けたから旅行に出られる」と何度も繰り返しました。

「もし勝っていたら、軍人が威張っていて私達にこういう暮らしはできなかった。」といいます。

トラベルヘルパー(外出支援専門員)には、こういうのがあって良かったと同行するスタッフにに何度も繰り返してくれました。

戦後、軍人はいなくなりましたが制度や規制をつくる仕組みは今も変わりません。

通院通所サービスは命を繋ぐ大事な外出ですが、私達はこれからも楽しいお出かけを提供していきます。


【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。



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