先日、5年ほど前にくも膜下出血で倒れ、今も半身麻痺の残る方の家族旅行をコーディネイトしました。行先は沖縄で、倒れてからは初めての父と娘の親子旅です。二人は娘が二十歳になったら一緒に旅をしようと彼女が幼いころから約束していたそうです。それが、突然の病で実現できないまま、家族もあきらめかけていました。しかし、相談に来た娘の話から、ご本人の様子を伺うと、介護は必要だけれど、気持ちは元気で健康的な方のように印象をもちました。
言葉も不自由で歩くこともままならないのですが、顔色もよく、すこぶるお元気で不自由なところの介助さえあれば、夫人の運転でどこへでも出かけているようです。
親子の目標は、シュノーケルをつけて海で一緒に泳ぐこと、満天の星空を見ること、沖縄民謡を聞きながら郷土料理を食べることなど、希望がたくさんありました。倒れたのが機内だったので、もう一度、飛行機に乗りたいという気持ちもあったようです。泳いだり、夜更かししたり、ちょっとお酒を飲んだりすることも楽しみにしておられたので、身体に負担がかかりすぎないか、主治医と相談して必要なアドバイスをもらって下さいとお願いしました。
介護旅行では、治療中の方には医師から旅行の承諾を頂くようにしています。旅先では、気温や湿度、気圧といった気候の変化や設備の違いなど、自然も含めて様々な介護環境に違いが生じます。水も変われば食事も違う、風が吹けば体感温度も大きく変わるので、そうした変化に身体が対応できるのか、専門家の目から確認してもらう必要があると考えるからです。
今回は、幸いどれも大丈夫だろうと太鼓判を押されたので、全部叶える計画を立てることができました。
旅にでかることは身体だけでなく、心も元気を取り戻します。夢の家族旅行に自分の身体がついていけたことが自信になり、諦めかけていたことがひとつひとつできるようになっていく過程が何より嬉しく、生きがいをもてるようになるのです。これが、旅は最高のリハビリといわれる所以なのだと思います。
健康な人は、運動を心掛けたり、食事に注意したりすることを病気や介護の予防といいますが、リハビリを経てもなお麻痺や身体に不自由が残った人にもまた暮らしの中でとりくむ予防があるように思います。
この方は、最も重い要介護度は変わりませんでしたが、以前より生活圏が確実に広がりました。介護度の軽い方なら、より重度にならないようにする介護予防にもなりうることをあらためて実感したケースとなりました。
最近は、ターミナルケアを受けるために緩和病棟に移った方、本当に時間のないご家族からの急な相談を受けることが増えました。来る方は、限られた時間の中で一つでも多く家族の思い出づくりをしたいと言います。そうした旅は本人の身体のためだけでなく、明るく装う家族の心の痛みを和らげ、別れの辛さを乗り越えられるように心を強くするための役割も担っているように思います。
【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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THE JOURNAL編集部
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