「明日の急な葬儀に出席させたいので、ヘルパーとタクシーをお願いできますか。」
そんな、問い合わせが最近増えました。片道30キロ、50キロ、なかには100キロを越える移動の相談もあります。遠く離れたふるさとの施設に、年老いた親を預けて別居している都会暮しの団塊世代が多いからでしょうか。
介護保険制度が始まった頃、同じようなことがおきたことを思いだします。ストレッチャー車を使わなければ移動できない方の相談で、都内や近郊の転院や施設の転居が急に決まったというのです。そんな間際にならないと決まらないものかと不思議に思いましたが、困っている家族の様子が電話の先から伝わってくるので、必死に福祉車両をさがしました。自治体で対応してくれるところもありましたが、それでも、相談件数が増えるにつれ半数くらいしか対応できなくなり、申し訳ない思いもたくさんしました。ストレッチャー車騒ぎは2年程続きましたが、地域ごとに車両サービスが整備され、やがて収束しました。
昨今、地方で一人暮らしの高齢者や移動が困難な方へのサービス(具体的には法事や墓参り、冠婚葬祭のニーズなど)の担い手は、バスやタクシーなどの公共交通機関か、非営利団体が主体のボランティア組織に委ねられています。
移動に困難を感じることから行動範囲が狭くなった人に対して、生活支援サービスとして位置づけられた外出支援は、制度外サービスのひとつとして注目されつつあります。今はそういった人々の担い手をもっと育てる時期にあると思うのですが、ボランティア精神ではじめた福祉有償運送は経済的に持続できず、バスやタクシー事業はプロの世界で許可要件のハードルは高く、認可運賃をベースにするために福祉車両も料金が高止まりして住民ニーズにあわないという声は少なくありません。
もちろん、住民同士の助け合いで支えるところもありますが、これまでサービスを提供してきた担い手側の高齢化も急速にすすんでいるために、10年先はどこもサービスの維持に困ることでしょう。公共交通機関も自治体から委託をうけた非営利団体も、何らかのかたちで財政支援を受けるところが多く、その財源も限られる中で今後の運営はどちらも厳しくなるばかりで、廃業話も続いています。
ところで、少子高齢化がすすむ日本では、これから人口の割合として40歳と70歳代のおひとりさま女子が増えるという報告をきいたことがあります。病院の待合室や介護の現場では、患者も看護士も女性が多く、特に80代の半ばをこえるあたりから介護サービスを受けている人の数は、断然女性優位になっているのを実感します。
外出支援サービスでは、おでかけの身支度から出先の車いす移動、食事やトイレ介助などを家族、主として娘代わりにケアをします。そこで必要となるのは、専ら介護ですが、利用するのは女性が多く、今後はさらに女性比率が増加していくわけですから、女性の働きやすい職場としての環境調整や新たなルールづくりが必要だと思います。
【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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