文部科学省は株式会社立学校つぶしなどやっている場合なのか?

 大津のいじめ自殺事件以来、いじめ問題への社会的注目が高まっているが、残念ながらその後も不幸な出来事が続いている。

 筆者は教育現場の専門家ではないので、原因を安易に語るつもりはない。ただ、学校という場が、逃げ道の乏しい閉鎖的な環境になっていることが、一つの要素であろうことは想像に難くない。

 この意味で、いざとなれば学校に行かなくていい、いざとなれば転校できるなど、多様な選択肢を子供たちに与えてあげることは、処方箋の一つになるのでないかと思う。


 ただ、転校できるといっても、どこの学校も金太郎飴のように同じ環境では、「どこに行っても同じ」となりかねない。

 多様な学校の存在も必要だろう。

 これは、いじめ問題との絡みだけでなく、かねてより、日本の未来を支える人材育成という観点からも指摘されてきたことだが(注)、明治以来の画一的な学校教育からそろそろ転換することは、大きな課題だ。


 (注)例えば、今年7月に閣議決定された「日本再生戦略」では、「我が国経済社会を支える人材の育成」という観点で、「633制の柔軟化等」により「柔軟で多様な進路設計を可能とする弾力的な教育を推進する」必要性を指摘している。


 多様性ある学校教育環境に向けた取り組みは、これまでも無かったわけではない。

 例えば、小泉内閣のとき、構造改革特区のひとつとして、「教育特区」の制度が設けられた(2003年)。学校教育法では、学校は国公立か学校法人設置かに限られ、株式会社の参入は認められていない。その特例として、特区内では「株式会社立学校」も認めて、従来の学校関係者の枠を超えた新たな発想やアイデアを持ち込むことを可能にしたのだ。


 この制度を使って拡大してきたのが、インターネットなどを活用した通信制の学校だ。今年4月時点で、株式会社立の通信制高校21校、通信制大学2校が運営されている。


 ところが、文部科学省は、この株式会社立の通信制高校がどうやら気に入らないらしい。

 こうした学校で不適切な教育がなされているとして、文部科学省から関係自治体などに改善を求める通知が出されたとの報道があった(9月24日時事通信など)。


 もちろん、教育の質に問題があるならば改善すべきことは言うまでもない。

だが、指導の中味を見ると、首を傾げてしまう内容だ。


 例えば、試験について、生徒が特区内で受けていないことが問題だという。株式会社立の学校はあくまで「特区内」に限って認められているのだから、教育活動が「特区内」で完結すべきというのだ。

 だが、試験や指導を受ける生徒が「特区内」にいることが条件というならば、通信制教育はおよそ成り立ちようがない。通信制教育とは、もともと、一定日数のスクーリング期間を除けば、学校に通わずに教育を受けられることが本質だからだ。

 これでは、特区創設以来、株式会社立学校が工夫して積み上げてきたことを、今になって全面否定するようなものだ。


 かつて「教育特区」の創設に尽力した、福島伸亨・衆議院議員(小泉内閣当時は経産官僚で、内閣官房特区室に出向)に言わせれば、これは、特区法には根拠のない「役所による不透明な規制の上乗せ」であり、「文部科学省が株式会社設立の学校をなくしたいから」やっていることにほかならない。

 もともと、学校への株式会社参入という議論は、小泉内閣よりはるか以前からあったが、文部省・文部科学省は、ずっと反対の立場をとってきた。小泉内閣時にやむを得ず特区制度を受け入れたが、この際つぶしてしまおうということなのだろう。


 なお、この問題については、新聞報道を受けて、大谷啓・衆議院議員、松田公太・参議院議員がそれぞれ、質問主意書を政府に提出している。

 これらに対する政府の答弁書では、生徒が特区外にいて、試験や添削指導を受けた場合に、特区法に違反することになるかどうかは、「試験の方法等に照らして個別に判断されるべき」と回答されている。

 明確な基準を示すことなく、「個別判断」で違法になりうるというのは、事業者に対して「やめろ」と指導するのと同じことだ。


 <大谷啓・衆議院議員の質問主意書と答弁>

 ⇒180回国会・質問主意書396号

 <松田公太・参議院議員の質問主意書と答弁>

 ⇒180回国会・質問主意書252号


 文部科学省が、なぜ株式会社立学校をつぶしたいかといえば、おそらく、学校法人ならば、認可権を握る自治体を介し、自らの影響力を行使しやすいからだろう。学校法人は箸の上げ下ろしまでお役所の指導を受ける、というのがよく言われる話だ。

 だが、そうした仕組みこそが、学校教育の画一性と硬直性をもたらしてきたのではないのか。そこを改めることが課題になっているのではないのか。


 異分子排除に躍起になる文部科学省の姿は、あるべき教育改革の方向性とは逆行していると思われてならない。


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原英史 Hara Eiji

政策工房社長
1966年東京都生れ。東京大学法学部卒、米シカゴ大学院修了。89年通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房企画官、中小企業庁制度審議室長などを経て、2007年から安倍・福田内閣で渡辺喜美行政改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月退官。株式会社政策工房を設立し、政策コンサルティング業を営む。現在、大阪府特別顧問、大阪市特別顧問も務める。著書に『官僚のレトリック』(2010年、新潮社)、『「規制」を変えれば電気も足りる』(2011年、小学館101新書)。


※この記事はニュース解説サイト『Foresight』より転載させていただいたものです。

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※画像:「Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology」 By Dick Thomas Johnson

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