NHK大河ドラマ『八重の桜』ウェブサイトより

今年のNHK大河ドラマ『八重の桜』の主人公は新島八重。2012年は平清盛、2011年は徳川秀忠の正室・江、2010年は坂本龍馬を扱うなど、よく知られた歴史上の人物を取り上げる大河ドラマのなかで、新島八重はかなりマイナーな人物です。綾瀬はるかさんが演じ、大河ドラマでは“幕末のジャンヌ・ダルク”“ハンサムウーマン”などとキャッチコピーがつく新島八重は、いったいどんな女性だったのでしょうか?

※()内は『八重の桜』のキャスト名。画像はNHK大河ドラマ『八重の桜』より引用

1.13歳で60キロの米俵を4回も肩の高さまで持ち上げる

新島八重は1845年生まれ。ペリーが浦賀に来航する9年前、激動の幕末時代がはじまる頃に会津藩の砲術師範の家に生まれました。女の子として裁縫や機織りを習う一方で、薙刀や剣術を学び、父(松重豊)からは砲術の手ほどきを受けたと言われています。

今に残る写真からもふくよかな容姿が伝えられますが、少女の頃からまるまると太り、男の子の真似ごとが好きだった八重は、13歳のときに米4斗(約60kg)の俵を軽々と4回も肩の高さまで上げ下げしたそうです。今の世に生まれていたなら、重量挙げの選手にスカウトされそうですね。

 

2.最新式の銃で45メートル先の的を撃ち抜く
NHK大河『八重の桜』ヒロイン新島八重を知るための10の事実
兄・山本覚馬(西島英俊)が江戸から最新式の銃(オランダ製のゲベール銃、ヤゲール銃)を持ち帰ると、その扱いを学んで約45メートル先の的を撃ち抜いていたそうです。銃の重さは約12kg。持つだけでもよろめきそうな重さの銃です。撃ち方のみならず、銃のしくみに関する知識も身につけた八重は、隣の家の男の子に銃の撃ち方を指導するまでになります。

武家の娘とはいえ女だてらに銃を撃つ八重は、男勝りという言葉がぴったりの少女だったに違いありません。

 

3.男装して会津戦争で大砲を撃つ! 日本初の“女性砲術士”
NHK大河『八重の桜』ヒロイン新島八重を知るための10の事実
明治元年、鳥羽伏見の戦いに幕府軍が敗れると、藩主・松平容保が京都守護職を務めた会津藩は新政府軍から朝敵とされ、薩摩藩、長州藩などから攻撃を受けることになります。飯盛山で悲劇的な最後を遂げた白虎隊で知られる会津戦争のはじまりです。

このとき、約1か月に渡る若松城(鶴ヶ城)での籠城戦には、約500名の女性も参加していました。このとき八重は24歳。亡き弟・三郎(工藤阿須加)の装束を身につけて男装し、大小の刀を身につけて七連発のスペンサー銃を手にし、身体には100発の銃弾を巻きつけていたそうです。

籠城した女性のなかで最初に断髪したのも八重でした。昼間は兵士のために食事の用意や負傷した人の看護に励み、夜は刀を差して銃を携え夜襲にも参加。銃を持って戦ったのは八重だけだったと言われています。最初の夫・川崎尚之助(長谷川博己)とともに大砲を操作しさえしました。

 

4.日本初の公立女学校で教鞭を取る
NHK大河『八重の桜』ヒロイン新島八重を知るための10の事実
会津戦争から3年後、明治4年の夏に八重は京都へ移ります。死んだと思っていた兄・覚馬の生存が確認され、さらには京都で活躍していることがわかったからです。翌年、京都に日本初の公立女学校・女紅場(じょこうば)が開かれると、八重はここで英語を学ぶとともに教師として教えることになります。

当時、キリスト教に傾倒していた覚馬は、アメリカで洗礼を受けてアーモスト大学やアンド―バー神学校に学んで帰国した新島襄(オダギリジョー)に出会い、ともに同志社英学校の開設に奔走。八重もまた当時の京都府知事から紹介されて新島と出会います。西洋の文化になじみ「亭主が東を向けと命令すれば、三年でも東を向いている東洋風の婦人はご免です」という新島と、男勝りで自分の意見をハッキリと持つ八重はお似合いのカップルでした。

 

5.京都で初めて受洗し、キリスト教式の結婚式を挙げる
NHK大河『八重の桜』ヒロイン新島八重を知るための10の事実
八重は、京都で初めてプロテスタントの洗礼を受けたのち、キリスト教式の結婚式をあげて新島と夫婦になります。ふたりは、京都でキリスト教式の結婚式で結ばれた最初のカップル。式の後は、ふたりで同じ人力車に相乗りして人々を驚かせます。男女が同じ人力車に乗るなんてあり得ない時代だったのです。

“キリシタン禁制”が解かれてまだ三年、仏教界が強い力を持つ京都でのキリスト教洗礼、結婚式は、白眼視されたことでしょう。周囲がどう思おうとも自らの意志に従って突き進む八重の覚悟は、やはり会津戦争での籠城戦のなかを死をも恐れず戦った経験に裏打ちされていたのではないでしょうか。

 

6.京都で初めての洋装、しかも絶妙な和洋折衷に周囲は仰天!

八重は京都で初めて洋装した花嫁でもありました。しかも、新婚の頃の写真では、着物に革靴を履き、膝のうえには花をつけたつばの広い帽子を載せています。なんという絶妙な和洋折衷! 矢絣の着物に袴をつけてブーツを履いた女学生が現れるのは、数十年後の大正時代のことですから、八重のファッションは時代を数歩先行くものだったと言えるのではないでしょうか?

 

7.自車に乗り、“洋式トイレ”のある家で暮らす新婚生活
同志社大学新島旧邸ウェブサイトより
結婚後は、当時はまだ珍しかった自転車に乗って京都を駆け回って評判になりました。八重は日本で初めて自転車に乗った女性だったのではないか、とも言われています。和洋折衷だったのは服装だけではありません。新島とともに暮らした家には、畳の部屋は作らず、寝室はふとんではなくベッドを使用。トイレも板張りの“洋式”なら、台所も土間ではなく板を張ったうえ井戸を取り込んでいました。洋館ながらも、窓の上部には和風の欄間を取り入れるなど、和と洋を調和させたスタイルは明治初期の建築としても見ごたえがあります。今でも見学可能(要予約)。
※画像は『同志社大学 新島旧邸』ウェブサイトより引用。

 

8.“愛夫”とラブラブ!「僕はそんな八重さんが大好きです」

和服に帽子や革靴を合わせたり、自転車に乗って人々を驚かせていた八重ですが、結婚後は夫・新島を“愛夫”と呼んでいたと伝えられています。「愛」という言葉がまだ新しく、また妻は夫の後ろにつき従うのが当然だった時代に、新島を“愛夫”と呼んで肩を並べて歩く八重は、「悪妻」と非難されることもありました。新島は西洋風にレディーファーストで八重を扱ったので、八重の態度はより一層横柄なものに見えたのでしょう。

しかし、新島は「気にすることはありません。僕はそんな八重さんが大好きです」と励まし、八重もまたそのスタイルを変えませんでした。ふたりはたいへん仲睦まじく、同志として共に歩んだカップルだったのです。

新島はこう書いています。「彼女は決して美人ではありませんが、やることが非常にハンサムです」。ここでの「ハンサム」は「美しい行いをする」という意味。今回の大河ドラマでも使われている「ハンサム・ウーマン」という言葉は、このエピソードに由来しています。

 

9.夫の死後は看護婦学校で教え、看護婦育成につとめる
NHK大河『八重の桜』ヒロイン新島八重を知るための10の事実
新島と八重の幸せな結婚生活は14年間しか続きませんでした。同志社大学設立のために病身に鞭打ち続けた新島は、48歳という若さでこの世を去ってしまったのです。2年後には、愛する兄・覚馬をも相次いで亡くしています。

しかし、気落ちして立ち止まるような八重ではありません。会津戦争で負傷者の世話をした経験から看護の仕事に関心を持ち、夫の死後3か月後に日本赤十字社の社員になって、やがては看護婦の育成に関わることになります。

明治20年、同支社が京都看護婦学校を設立すると、八重は助教師として教鞭をとります。明治27年の日清戦争時には、20数名の看護婦を率いて広島陸軍予備病院で篤志看護婦として傷病者の看護にあたります。さらに10年後の日露戦争時にも、大阪の陸軍予備病院で篤志看護婦として活躍します。そのとき、八重はすでに60歳でした。

 

10.女であることにこだわらず、勇敢に快活に生き抜いた87年

八重は、夫の死後42年の間、看護婦の育成に務め、茶の湯を楽しみ、同志社の学生たちに「お母さん」「おばあさん」と慕われたと言われています。同志社大学栄光館で行われた葬儀には2000人もの人が参列しました。

この記事のなかにも「日本初」「京都初」という言葉がたびたび登場しましたが、八重は「女だから」「誰もやっていないから」という理由で、何かを思いとどまることはなかったと思われます。同志社での学生時代、八重を嫌って強く批判した徳富蘇峰は、やがて八重を認めて、その死の折にはこんな追悼の言葉を送っています。

刀自(※)の存在は、新島先生の好配であった為めばかりではなかった。刀自は一個の女性としても日本女性の誇りとするに足る一人であった

※年配の女性を敬愛の気持ちをこめて呼ぶ呼び方。ここでは八重のこと。

さて、まだ大河ドラマでは八重の子ども時代。八重の激動の人生はこれからです! どんなふうに新島八重が描かれ、演じられるのか楽しみです!

 

※画像について

特に記載のない画像は本文には直接関係のないイメージです。morgueFileより使用(http://www.morguefile.com)

※参考資料

『山本八重 銃と十字架に生きた会津女子』(楠戸義昭著/河出文庫)

『新島八重 スペンサー銃からバイブルへ 八十七年の軌跡』(笹川壽夫著/新潟日報事業社)

『新島襄と八重 同志の絆』(福本武久/原書房)

同志社大学ウェブサイト『新島八重と同志社』、他

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