去る8月29日に厚生労働省が発表した一般職業紹介状況によると、26年7月度は有効求人倍率が1.1となった。
民間転職市場も考えると、数字上では仕事さえ選ばなければ求職者が全員仕事に就ける計算になる。もちろん、求職者の希望通りの就職となるとそうはいかないが、少なくとも労働市場は、昨年より活気を取り戻したと見ていいだろう。
民間転職サイトの関係者によると、年度始まりなどの季節に関係なく転職者は多いそうだ。ただし、夏から秋にかけてはボーナスが支給された後に転職に踏み切る人も多いのか、転職者が増える傾向が強いという。
収入がアップし、やりがいのある仕事がみつかるなら転職はやぶさかではない。しかしながら、求人票と面接という情報だけで仕事を変えるのはリスクが伴う。本サイトにも長期にわたって寄稿してきた、ブラック企業に入ってしまった場合のトラブルもその一つだ。
ブラック企業の見分け方、万が一入社してしまった場合のトラブル対策は、拙著『うちの職場は隠れブラックかも』(三五館)を参照いただきたいが、ここでは転職の際に気をつけたい求人票の罠(わな)についてふれたい。
●業務委託は労働基準法が適用されない
最近の求人票で多く見られるようになってきたのが、「業務委託」という働き方だ。業務委託とは、会社から依頼された仕事を自分の責任で完了させる契約のことをいう。意外に知られていないが、会社に雇われるわけではなく、法律上は「個人自営業」と同じ扱いになる。
そのため、万が一仕事でトラブルを起こしたり損害を発生させた場合、損害賠償の対象になる可能性がある。また、雇用保険や社会保険や会社から負担されないし、労災も原則として適用にならない。
ただし、会社の就業規則に沿って働く必要がないというメリットがある。他の社員と違って、出勤時間や一日の勤務時間を自分で自由に決めてよい。会社と約束した仕事の期限までに仕事を終わらせれば、どのような働き方をしても契約違反にはならない。
●偽装請負に注意する
建築業における施工業者の方など、業務委託での働き方が良好に機能しているケースもある。しかしながら「業務委託」という働き方は「お勤め」ではないこと。リスクが別に生じることをよく理解しておく必要がある。そのことを納得し、リスク回避をきちんと行えるなら快適な働き方と言えるだろう。
業務委託で契約している場合、もう一つ注意したいのは「偽装請負」だ。これは、他の社員と同じように、決められた時間の出社や、会社が決めた勤務時間内に仕事をすることを強要されるケースも少なくない。これは、法令に違反する行為だ。
業務委託で働きはじめた際に時間拘束を強いられたら、労働基準監督署などの公的機関に相談するか、社会保険労務士、弁護士などの専門家、信頼できる労働組合に相談したほうがよい。
●「週休二日制度」と「完全週休二日制度」の違い
求人票で働く条件を確認する際に、誤解しやすい表現に出くわすことがある。先述の「業務委託」もそうだが、給与や休日に関する表現は特にトラブルになりやすい。
たとえば「週休二日制度」と「完全週休二日制度」の違いはわかるだろうか。「週休二日制度」とは、原則として一週間のうち休日は1日だが、一ヶ月の間に、2日間休日になる週が発生する場合があるという意味。
たとえば、今月は9月15日と9月23日が祝日になる。毎週日曜日が定休だとしたら、9月の第三週と第四週は2日休みになるが、他の週は1日しか休みがないという意味。
「完全週休二日制」は、説明するまでもなく、毎週2日の休みが発生する制度。誤解をすると大変だ。
●「社会保険制度完備」は要確認
求人票でチェックを忘れがちなのが、社会保険制度だ。法律上では、アルバイトやパートでも一定の時間拘束がなされる労働契約を締結した場合、雇用保険、健康保険、年金、労災の加入を行わなければならない。ただし、実態として、これらの社会保険をかけ逃れするケースも多い。「社会保険制度完備」という記載があるか確認しておきたい。
●面接時の確認は忘れずに
とはいえ、応募する前からあまり悩んでいても仕方が無いのも事実だ。あきらかに怪しい会社は応募を避けるべきだが、応募してみて面接に進んだ際に、会社の様子をよく確認し、就労条件について確認したほうがいい。可能であれば、メールやメモなどは残しておくこと。就労後にトラブルになった際の重要の証拠となる。
トラブル回避策だけを身につけておけば、働きやすく、かつ、条件のよい職場を探すことに専念できる。この秋、転職を行動に移そうとする人は、ぜひ参考にしていただきたい。
※写真は 足成 http://www.ashinari.com/ より
※この記事はガジェ通ウェブライターの「松沢直樹」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
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