今回は牟礼鯨さんのブログ『西瓜鯨油社』からご寄稿いただきました。
※すべての画像が表示されない場合は、http://getnews.jp/archives/640147をごらんください。
■Amazonが『南武枝線』を販売停止にした件(西瓜鯨油社)
AmazonからKindle版『南武枝線*1』についてのお知らせメールが来ていた。この本を販売停止にしているという。『南武枝線』は7月15日につんどく速報*2で取り上げてもらって以降、売上げがのびていた電子書籍商品であった。メールの内容は以下の通りである。
*1:「南武枝線 [Kindle版]」 牟礼鯨 (著) 『Amazon』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00BISD528/
*2:「痴漢という言葉からは恋の芽生えしか想像できない。小説『南武枝線』牟礼鯨(著)」 2014年07月15日 『つんどく速報』
http://bookdi.gger.jp/archives/39827525.html
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://getnews.jp/img/archives/2014/08/2.jpg
Amazon KDPをご利用いただき、ありがとうございます。
今回お知らせを差し上げたのは、読者からお客様の本に問題があると報告を受けたためです。
この問題は、弊社の販売基準に関わるため、お客様の本を一時的に販売停止とさせていただきました。
◇ テキストが欠落しているようです。問題箇所を以下に示します:
位置No.582 「・・・知恵が戻ってきたのだと僕は振り返り」の後
Kindle本の品質については、「Kindleコンテンツ・クオリティのガイド」(https://kdp.amazon.co.jp/self-publishing/help?topicId=200952510) をご参照ください。
コンテンツの修正が終了したら、修正後のコンテンツをKDP本棚の「本のアップロード」セクションからアップロードした後、「保存して出版」をクリックして本を再提出してください。
問題の修正が確認できましたら、本の販売を再開いたします。
その他、ご不明な点がある場合はこのメールに直接ご返信ください。
コンテンツの修正に関するご質問につきましては、お困りの点を具体的にメールに記載いただきますようお願い致します。
なるほど、本当に販売停止されていた。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://getnews.jp/img/archives/2014/08/31.jpg
該当する「Kindleコンテンツ・クオリティのガイド」の文言はこれだろう。
コンテンツの欠落コンテンツの欠落の問題とは、本に存在するはずの内容の一部が誤って削除されていたり、本に存在しない内容への参照が含まれていたりすることを指します。
深刻な問題
?長い語句のテキストが欠落している
「Kindleコンテンツ・クオリティのガイド*3」より
*3:「Kindleコンテンツ・クォリティのガイド」 『Kindle ダイレクト・パブリッシング』
https://kdp.amazon.co.jp/help?topicId=200952510
「・・・知恵が戻ってきたのだと僕は振り返り」の後のテキストの欠落については書籍版を見ればわかるように意図的な空白である。この頁をめくると見開きの空白があり、その前後での名称の違いなどからその空白が単なる欠落ではないことが読み取れるようになっている。初版も他者の校閲を経た第二版もそうなっている。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://getnews.jp/img/archives/2014/08/41.jpg
Amazonは「読者からお客様の本に問題があると報告を受けたため」とあるので
(1) 読解力の不足している読者が指摘した。
(2) 読解力の不足している読者がもしかしてと思い指摘した。
(3) ちゃんと読解できたけれど指摘すれば販売停止になることを知っていたので敢えて指摘した。
など様々な可能性が考えられる。
普段の同人誌即売会の範囲内では(1)(2)のような明白な読解力不足であっても感想やレビューで書かれるくらいなので不足部分を指摘すれば済むことである。しかし今回はそういうレベルで留まってはいない、明白な読解力不足により販売停止というディストピア的現象が発生している。これは芸術読解力により反動主義や革命主義を見抜いて出版禁止、のような20世紀的検閲とは事情がまったく異なっている。一番レベルの低いところに品質を合せるということだ。
ただ、すべての読者がちゃんと読解できるという前提で物事を考えてはならない。文学フリマという限定された空間で販売していたときはある程度の読解力を担保できる。でもAmazonなどを使って販売するということはそういった何ら担保されていない読者の手にも著作が渡るということであり、そのために発生する反応をも覚悟するということである。もちろん文学フリマにおいても
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://getnews.jp/img/archives/2014/08/51.jpg
のように「誰でも読み取れるように記載を改善できる」と考えている暢気さと出会うこともあり、文学フリマであっても読解力は必ずしも担保されているわけではない。もちろん文学フリマ以外で高度な言語能力を持つ人と出会うこともある。そして人間としてみなすためにギリギリな言語能力しか持たない人と出会うこともある。
文学フリマのような同人誌即売会程度の、相手が誰だか分かる範囲のことであれば「確かにそういう読み方もありますね」とか「お馬鹿ですね」とこちらが言ってしまえば済むこともある。今回の事例も牟礼鯨に訊けば一発で済むことだった。しかしAmazonなどを使い一定の範囲以上に展開してしまうと、そういうわけにはいかない。その一例として今回、牟礼鯨に質問はなく、いきなりAmazonへ指摘され、販売停止となった。でもその(悪意なき)読者を責めるわけにもいかないし、消費者優先をお題目に掲げているAmazonを責めても仕方がない。文芸や小説の水準としては限りなく低いレベルで仕事をしているだけだ。それが消費者優先ということである。たぶんメールでAmazonに「おばかんちん」と直接返信すれば済む話だろう。そして販売停止は解除される。
だが、今回そんなことはしない。この電子書籍版『南武枝線』は販売停止のままにしておこうと思う。というのも『南武枝線』は紙の書籍もあるからだ。現在、下北沢の古書ビビビ*4さんで委託販売している。そして今年9月14日の第二回文学フリマ大阪*5で販売する予定だ。大阪府堺市北区中百舌鳥の産業振興センターで待っている。
*4:『古書ビビビ』
http://www6.kiwi-us.com/~cutbaba/
*5:『文学フリマ大阪』
http://osakabunfree.com/
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://getnews.jp/img/archives/2014/08/61.jpg
執筆: この記事は牟礼鯨さんのブログ『西瓜鯨油社』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年08月11日時点のものです。
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