原発事故の影響で、全町民が避難している福島県の浪江町が、年末に導入を目指している復興庁などの予算を充てた情報発信のタブレット事業。
「今更?」と思う人も多いだろう。検索すると「町民が欲しいのは機械じゃないのでは?」などマイナスの意見も目立つが、決してそうばかりではない。無限の可能性を秘めた驚きのアイディアが続々と出てきてる。私は現在、浪江町役場のフォトフレームを利用した情報配信を担当しているが、現場の立場から今までの流れを纏めてみた。
●3年前キャリアの法人サイト活用
現在希望世帯に配られている「フォトフレーム」はメール機能を利用し、町からの情報や住民の写真を“手作業”で作成、約5000件に配信作業を行っているが、一日に処理できる情報は約5件と限りがあり、リンク先を入れることも出来ず、住民の要望に十分応えることが出来なかった。その結果、電源を切ってしまう→情報が滞り不具合を起こす→見られなくなるの悪循環だった。
この主なユーザー層は意外にも高齢者である。ネットに馴染みのない世代が、地元を離れ不便や孤独を感じないように導入されたが、フォトフレーム本来の使い方とは異なる裏ワザで、沢山の文字を入力し配信しており(パワーポイントでJPEG変換~画像として送る)和歌山県を除き全国に散らばった住民にとって、仮設住宅イベント等、特定地域の話題を乗せても、遠く離れた県外や同じ地域に住んでいない人には不要の情報だ。住民アンケートの結果、情報源の上位に地元新聞や県内テレビニュースが上がった。県外避難者はそれすらも見られない。自分に興味のある情報が見たいのは高齢者でも同じだと思う。
タブレットは震災当時浪江町に住所があった希望する世帯に配られる。町は風向きの関係で中心部の海岸周辺で放射能は低く、平成29年3月の帰町に向けインフラ整備等を進めているところだ。
●世界で初めて起こった事故に対する、多種多様なニーズ
「家の様子がどうなっているか知りたい」「親しくしていた人の近況は?」「畑仕事や趣味が奪われ運動不足」「生き甲斐が欲しい」「立ち入りの承認をタブレットで出来ないか?」「膨大な関係申請書類の締切日をアラートで教えて欲しい」など、原発避難の自治体は普通の役場では想像できないほど、多種多様な要望や手続きが必要になる。住民も心の中に生じた疑問や要望を、「どうすれば解決できるのか?」と迷う人も多い。視覚から理解することも必要だ。
●住民と一緒に【アプリのアイデアを出す】アイディアソン開催
「タブレットを必要としている人は常に自分から情報を取りに行くようなタイプ。既に持ってるPCやスマホで用が足りるでしょ?」という疑問に思われる向きもあるだろう。今までの機種なら確かにそうかもしれない。
「老人でも簡単に使えて、みんなに便利な機能を入れるタブレットを作ろう」ということで、様々な環境の住民に聞き取りを行い、パターン分けした人それぞれが使いたくなるアプリとは?
町はかねてより町民協働を謳っていた。そこに「ともに考えともにつくる」を掲げる、一般社団法人コード・フォー・ジャパンと連携し、「フェローシッププログラム」(自治体への高度人材派遣事業)を日本で初めて利用。公募で採用されるエンジニアチーム(3名)の派遣を受ける。また、町民のニーズをくみ取るためのワークショップや、全国の技術者に開かれたアプリケーション開発イベントを複数回開催することで「本当に必要とされるタブレット端末」を目指している。
また、県内外4カ所でアイディアソン(アイディア+マラソンを掛け合わせた造語)が開催され、現在6月14日にいわき市と20日東京では定員に空きがある。関心がある人はサイトからチェックを。
※Code for Japan
http://codefornamie.org/
このように面白いアイデアが様々な年代から続々と出ている。特徴はITに詳しくない人の意見ほど参考にしたいと言うところ。役場職員、技術者、住民が一体となり「こんなのがあったら良いな」「無理かもしれないけれど」とアイデアを出しあう。そこから意外な可能性が見えてきた。
●アプリ開発の人材も募集
Code for Japanは日本初の取り組み『浪江町フェローシップ』と題し、地域課題解決とCivicTech活用に高いモチベーションを持った人材の派遣制度を導入、復興庁派遣職員扱いで開発人材を募集中だ。
福島県二本松市の浪江町役場に在庁し7月から開発にあたる。町の意思決定に対して技術的に明るい人材を3人採用するが、6月11日現在あと1名は決まっていない。CodeForJapanからのフェローシップ採用という形で民間人から採用。興味のある人は求人サイト『Wantedly』の募集ページからエントリーできる。
https://www.wantedly.com/projects/6609
●試作品を作成する2日間のイベント「ハッカソン」
エンジニアがプロトタイプを開発する2日間のイベントを6/21〜22に福島、6/28〜29に東京で開催。交通費と謝金が出る。どちらも参加は未だ空きあり。
そこで出来た試作品を、秋に申し込みのあった世帯からモニターを選び、完成版は年内中に配布することを目的としている。
もちろんタブレットさえあれば絶対ではないし、問題を全部は解決できない。しかし何かの“きっかけ”になるツールではある。現に申込み問い合わせ電話が沢山入っている。年配者でも使ってみたいと思っているようだ。
●誰でも毎日触れたくなる“ペット”の様な存在
前例のマイナスばかりを考える前に、知恵を出し合い意外な発見や盲点を見出すことで、老若男女が「タブレット依存症になる」というのは半分冗談としても、そうなるくらいに本当に使えるタブレットを目指した新しい取り組みが着々と進んでいる。完成後は住民説明会等を通じ便利さを訴えていく。安否確認や故郷の言葉で話しかけてくれるかも。人間味を感じるようなタブレットが出来るに違いない。
※今まで出たアイディアはこちら
http://idea.linkdata.org/recent
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