日本精神神経学会は5月28日に『DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン』を公表し「学習障害」を「学習症」に改める(ただし、以前の訳語がある程度普及しているものに関しては「パニック症/パニック障害」のように旧訳を並記する)など、これまで多くの用語において「障害」と訳されて来た“disorder”の訳語を「児童青年期の疾患と不安症およびその一部の関連疾患」を中心に「症」に改める等の方針を打ち出しました。
毎日新聞や共同通信がこのニュースを報じた当初から『Twitter』などでは2000年以降に多くの地方自治体で採用されている交ぜ書きの「障がい」と同様の「過剰な“言葉狩り”ではないか」との批判も出ていますが、今回のガイドラインが公表された背景を考えるに当たっては今回公表されたガイドラインの「はじめに」でも
disorder を「障害」とすると,disability の「障害(碍)」と混同され,しかも“不可逆的な状態にある”との誤解を生じることもある
と指摘されているように、そもそもdisorder、disability、impairmentなど英語ではそれぞれ意味合いが異なる単語を翻訳する際に「障害」の一語で乱暴に包摂して来た経緯を考える必要があるでしょう。
日本では1945年の当用漢字表告示を機として文字通り“一掃”された「障碍」は繁体字表記を「障礙」と書くことからもわかるように、元来は「道をふさぐように置かれている石を疑う」と言う意味を持つ漢字です。現在も中国では「障碍」、また香港や台湾では「障礙」表記が、漢字が日常的に用いられなくなった韓国でも「障碍」を由来とする장애(チャンエ)が使用されていますが、対する「障害」は日本で明治初期にdisorderの訳語として考案された医学用語が起源とみられるものの中国や香港、台湾では使用されていません。韓国では日本統治時代に入って来た「障害」が장해(チャンへ)として医学用語の分野では現在も使われていますが、この語が日本の「障害」のようなdisabilityの意味で使われることはまずありません。
過去にも「痴呆症」が「認知症」、また「精神分裂病」が「統合失調症」と改名されて来た経緯があるように当初の名称が症例を表す際に不適切なものであったり、主として完治の見込みが無いと言う不可逆的なものであると言う誤解を生じさせる場合の用語の見直しは常に行われて来ました。日本精神神経学会が公表した今回のガイドラインに対しても、短絡的に「言葉狩り」と決め付けるのではなく、これまで余りにも多くのニュアンスが異なる英単語を「障害」で一くくりにして来たことが本当に訳として適切であったのかを、多くの要望がありながらも文化庁が今なお拒絶し続けている「碍」の常用漢字追加を含めて考え直す契機とする必要があるでしょう。
DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン(日本精神神経学会)
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/dsm-5/
※この記事はガジェ通ウェブライターの「84oca」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
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