今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦 (中部大学)』からご寄稿いただきました。
■「節約」を説く善意とその心(中部大学教授 武田邦彦)
「節約しなければならない」という「道徳」がある。自由主義だから、自分で職業を選んで収入を得て、それを自分の人生のためにフルに使うことは別に問題がないと思う。
本当に自分の人生でやりたいことを我慢してまで節約をしなければならないという論理があるのかははっきりしないが、ともかく「節約することは人間にとって重要なことだ」と他人に勧める人が多い。時には自分の人生のために自由にお金を使ったほうが良いという私はおしかりを受けることすらある。
でも、そのように節約を勧めている人の多くが、(言葉は悪いし、善意で節約が大切だと思っている人が多いのだから、申し訳ないが) ウソをついている。なぜ「節約道徳」は「ウソ」と連結しているのだろうか? ウソをつく人の立場にたって考えてみたい。
第一のウソは、「節約していないのに節約しているという」というウソである。もしくは、「自分が節約していないのに、人に節約を勧める」というウソだ。
現在の日本で節約するには、手元にお金があったら使ってしまうので、1)職場に給料を下げるように頼む、2)節約して余ったお札を破る、ぐらいしかない。でも、こんな人は私は一人も見たことがない。だから考えなくてよいだろう。
そうすると、節約するとお金が余るから、銀行に預けることになる。でも、銀行にでもあずければとんでもないことになる。預金したお金はすぐ会社が借りて有効に使われ、あとで自分のお金だからといっておろしてそれを使ったら、2回、お金が使われることになる。
つまり、政府が本当に節約を勧めるなら、まずは銀行を無くせばおカネ回りが悪くなり、節約になる。銀行はお金を効率的に回して、「反節約」をするために存在するからだ。このことを裏返しに言えば、銀行を優遇している現在、政府は「節約」を勧めていないと考えたほうが良いし、個人では節約ができないことは明らかである。
日本の指導層は総じて庶民よりお金持ちだから、「節約できるはずもない」。たとえばNHKだが、NHKが憎いということはないけれど、NHKの社員は高給取りだから、受信料を払っている人より確実にお金持ちだ。だから節約はできないのに節約を説いている。これもウソになっている。
第二のウソは、「目的が正しいのだから、ウソは良い」という確信犯的なウソだ。その典型的なものが「温暖化防止は正しいのだから、データを正しく提供しなくても良い」というNHK的な報道だ。これもNHKになって申し訳ない。
世界の平均気温は最近、15年間、全く変わっていないが、「ますます激しくなる地球温暖化」とNHKのアナウンサーが言った。このアナウンサーの原稿は正式な手続きを経てライターが書き、それをディレクターなどがチェックするので、NHKの正式な報道と言うことができる。
なぜ、NHKは温暖化でウソを続けるのだろうか? 一応、理由は二つ考えられる。一つは「温暖化を防止することは人類にとって必要なことだ」と思い込んでいるのか、あるいは「政府が温暖化防止を進めているので、それに反すると予算を認めてくれない」という実利主義かどちらかだろう。
今まではきっと政府にゴマを吸って報道本来の中立性を失っているのではないかと思っていたが、もしかすると「思い込んでいる」のかもしれない。NHKの他にも「温暖化を防止しなければ!」と錯覚して張り切っている放送局や新聞、それに映像会社などもある。
人によっては温暖化が怖いから、自分の人生の時間を犠牲にしても温暖化を防がなければならないと確信している人が多い。でも、別の人は「寒冷化するからCO2を出さなければならない」と考えている人がいて、どちらが正しいかということはわからない。だから、温暖化防止に熱心ではない人に「お前は意識が低い!」と叱るだけの「上から目線」が正しいかどうか怪しい。
もし「節約」や「温暖化」が大切なら、それは人類が同じ思いになる必要があるから、世界で最も「浪費」をし「CO2を出している」国、つまりアメリカと中国に訴えなければ意味がない。でも、「自分にはそれができない」、だから「自分にもできること」ということで身近な人をバッシングする。それは適切だろうか?
日本では1990年から大切さが叫ばれている、「節約」と「温暖化防止」だが、それから24年を経ても世界各国では「物質消費を増やして経済成長する」という政策がとられている。日本もアベノミクスでお札を135兆円を刷り、新規設備投資と賃上げが最大の目標である。
人間としてもっとも醜悪なことはなんだろうか? それは、自分の利得によって蝙蝠のように右でも左でも向くことだ。昔から「日本的」なことの一つと言えば「誠」である。私は「節約」などを通じて日本の大人がその場限りの理屈をこねて、人をバッシングするという不誠実な文化に染まってしまったことがなにか哀しく感じる。
執筆:この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦 (中部大学)』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年03月14日時点のものです。
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