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やぶ医者こそ名医

2014/02/14 14:00 投稿

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やぶ医者こそ名医

今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

■やぶ医者こそ名医
「スーパードクターK」の続編でいま連載している「K2」にこんなエピソードがあった。詳細はうろ覚えだけど、K2のもとに以前手術した人工関節が痛むという患者が訪れる。調べてみるとその人工関節は必ずしも長期の使用耐えられるものではなかった。手術したのは20年ぐらい前だが、当時の技術を考慮しても、その手術はずさんとしか思えなかった。だがしかし真相は意外なものだった。

その患者は別な病気を患っていて、当時は医学ではその患者はあまり長く生きられないと判断された。長期の使用に耐えられる人工関節の埋め込みも検討されたが、それには長期のリハビリが必要。患者は当時娘の結婚式を控えていて(この辺記憶が曖昧)、リハビリしていると結婚式に出られない。

一方簡易型の人工関節でも、その患者の余命までは十分耐えられる。その医師はその患者に「一生大丈夫な人工関節をつけてあげます」と告げ、簡易型の人工関節の手術に踏み切った。患者の残りの人生を最良のもにするために…。

誤算だったのは、その後病気の治療法が確立され、患者が予定よりも長く生きたことだったのだ。

   *   *   *

ここからは現実の話。だいぶ前だけど叔父が死んだんだよね。まあ俺の親たちの世代だから、みんなそれなりの歳で、最近結構死ぬ。まあ仕方がない。その叔父は最初にかかった病院で余命数ヶ月と言われたらしい。しかし家族は納得せず手術をしてくれる別な病院を見つけた。

肺を2/3切除する手術で患者(叔父)の年齢を考えれば、リスクの高いものだったようだ。しかし手術は成功し、その後の辛いリハビリにも叔父は耐え、その後数年間幸せに生きた。肺がもとの1/3になってしまったから、最初は家の玄関まで歩くのも辛かったらしい。少しずつ玄関まで、門の外まで、家の1本めの電信柱まで、2本目までと、徐々に距離を伸ばしていったという。

それを聞いて治療というのは手術だけじゃないんだなと思った。その後のリハビリも含めてが治療。

   *   *   *

その後前述のようにいま叔父は生きていない。まあ年齢相応の寿命だったのかなとも思う。で、いま改めて振り返ると、余命数ヶ月と診断した最初の医師も、難しい手術に踏み切って成功させた医師も、医者としての腕は同じだったんじゃないかな、と思う。ようするに手術失敗のリスクやその後の辛いリハビリ、患者の年齢、家族の負担などを考えると、どちらが正しいとは言えないだろう。

また患者やその家族に「どっちがいいですか?」と選択させるのも、正しいとはいえないだろう。そりゃ家族にしてみれば少しでも長く生きてほしいと望むのはわかりきっている。選択肢を与えないのもそれはそれで患者やその家族に対する誠意かもしれない。

   *   *   *

叔母がぼやいていたんだよね。手術が成功したのになんの文句があるのだろうと聞いていたら、手術の後医師が「高齢なので難しい手術でしたが頑張りました」と言ったという。その何が気に入らないかというと「頑張った」という言葉が燗にさわったという。まるでゲームのようだ、と。医者というのは難しい仕事なのだなと改めて思った。

家族にしてみればそうなのかもしれない。俺も親しい人が死んだ時、彼の病気のことを調べていたのだけど、単に医学的な情報が書いてあるだけの「治癒率は低い」とかの言葉が腹が立って仕方なかった。八つ当たりなのはわかっている。何度も自分に言い聞かせたのだが、どうしても耐えられなかった。

人間とは感情の生き物であり、当事者や当事者に近い人間には冷静・客観的な思考はできない。それは仕方ないしそれでいいのだろう。冷静・客観的な判断は別な人間がやればいい。

   *   *   *

最近レーシックの危険性が話題になっている。レーシックというと記憶にあるのは堀江貴文がレーシックを賛美していたこと。白内障の治療に人工レンズを目の中に入れる時代なのだから、レーシックごときビビるな、というようなことをどこかで言っていた。

確かに現代医療の進歩は素晴らし。もとの水晶体を砕いて除去し、人工レンズを入れるという治療。失明を回避する最後の手段…。むかしはそれができなかったので、白内障だか緑内障だかの手術をすると、すごい遠視になってしまったらしい。焦点を結ぶためのレンズがないので当然だが。すごい分厚いメガネが必要で、それでもほとんど見えないという。子供の頃祖母とかが、近所の誰それが目の手術をしたとか話していた。それに比べれば現代は格段に進歩したわけだ。

   *   *   *

でもやっぱリスクはゼロではないと思うんだよね。放っておくと失明してしまうから、最後の賭けとして手術をするわけで、それによって問題が生じても、失明するよりはマシだろうと、患者の側にも(悲壮な)覚悟があるはず。

一方眼鏡をかければ済む程度の近視に、わざわざレーシックの治療をするのは、問題なく成功すればそれでいいけど、万一何か問題が出た場合、患者としては諦めがつかないよね。レーシックの治療をしなければ、なんの問題もなく過ごせたのに、と。

治療というのは数字(成功率)ではないと思うんだよね。それによって回避できるリスクと、新たに生じるリスクの天秤、そして患者の感情。

俺は個人的には、長所も短所もよくわかっている治療法の方がいいけどね。短所もわかっていれば対処方法もあるわけで。何事にも実験台は必要だから、あえて新たな治療方法にチャレンジする人を否定はしないけどね。そういう人たちの犠牲によって医学は進歩するのだから、感謝すべきなのだろうけど。パソコンとかなら新しもの好きでいいし、買って後悔してもその時だけのことだけど、自分の体は一生の付き合いだからねぇ…。

参考サイト:

ホリエモン「なんでレーシックが不安なの?みんなやっているし、クレームも聞かない」 2011年04月26日 『ハンマー速報』

http://blog.livedoor.jp/hammersokuhou/archives/51914218.html

執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年02月13日時点のものです。

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