今回はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログ ~目指せ、団塊ジュニア世代の反逆児~』からご寄稿いただきました。
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■日米欧半導体戦争の敗戦って感じ
日米半導体製造装置大手の東京エレクトロンがApplied Materialsが経営統合するということですが、実態を見ればApplied Materials社が東京エレクトロンを買収したような形だそうで、かつて4年近く中央官庁で半導体業界の産業政策を担当していたものとして忸怩たる思いを感じております。
「東京エレクトロンとApplied Materialsが経営統合」 2013年09月24日 『ITmedia ニュース』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1309/24/news124.html
「世界3位の東京エレクトロン、約9,000億円で買収 その裏側とは」 2013年9月25日 『NewSphere』
http://newsphere.jp/business/20130925-1/
つい4半世紀前の1989年には半導体業界も半導体製造装置業界も日本勢が昇り竜でトップ10の過半を占めていたわけですが、現在では半導体業界では東芝と辛うじてルネサスがトップ10に入るか入らないかという位置をキープするに留まり、半導体製造装置業界でも東京エレクトロンやDNPや日立ハイテクが粘っているものの長期低落傾向は否めず、特にニコンの失速が相変わらず著しい様子です。一方でアメリカが復権して、勃興してきたのがオランダの勢力で、ASMLやASMIといった企業が躍進といったところでしょうか。
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今回の買収の結末も「アメリカの会社が日本の会社を買収し、新たな拠点をオランダに置く」といったところで、この20年間続いてきた「日米欧半導体戦争」は日本の敗戦で勝負あった、という印象を感じざるを得ないところです。半導体産業の発展というのは軍事技術の進化に直結するので主要国はみな政府と企業が協力してジャブジャブお金をつぎ込んで研究拠点を整備しつつ政府や業界団体がロビー活動や標準化活動を推進して産業エコシステムを構築しようとするのですが、私が半導体業界を担当していた3~4年前には既に米欧に比べて日本ではしょっぱい設備しか用意できず、担当としても「もう日本では半導体・半導体装置の最先端研究は不可能になっている」と言わざるを得ない状況になっていました。
ヨーロッパではベルギーのIMEC、アメリカではALBANYという国際研究拠点があり各国企業から何百億単位でお金を集めて研究施設を運営しているのですが、日本は2000年代後半に純血・ガラパゴス思想の産業政策をとってしまい、結果的にこれが失敗した形です。ちなみに2000年代の前半にはつくばに各国企業を終結させた研究体を作りかけたのですが、残念ながらそれに理解を示さなかった政治家・経産省の幹部がサムソンやintelやIBMといった企業を研究体から事実上追放してしまい、それが響いた形です。純血路線は本当に大失敗で、結果として競争力のある企業の研究拠点がどんどん海外に流出して、負け組が日本に集結するという構図が出来上がってしまいました。2010年ごろに各国企業に頭を下げてなんとか呼び戻そうとしたのですが、時すでに遅しだった感はありましたね。
振り返るに日本の半導体業界は1970年代に勃興し、伝説の超LSI技術研究組合とともに1980年代に大ブレイクをはたして世界を制覇して、米国勢を駆逐して短い栄華を極めました。その要因は「主要な川下メーカーと川上メーカーが国家研究開発プロジェクトを中心に集結して、お互いのニーズや制約を擦り合わせて新たな装置を開発する仕組み」にあったのですが、当時こういった研究はアメリカでは独占禁止法に引っかかるとして事実上禁じられていました。それに気付いたアメリカは日米半導体交渉の場で日本のこういった研究方式を厳しく非難して国家プロジェクトの禁止を求める一方で、自分の国では「sematech」という業界団体を構築してより洗練された形で日本の研究方式を取り入れました。壮絶な二枚舌っぷりだったのですが交渉力で劣る日本はそれで押し切られてしまいました。当時冷戦が終結してアメリカにとって日本の地政学的価値が落ちていましたので好き勝手にやられてしまった形ですね。
こうして日本政府はしばらく動きが取れなくなった中で、前述のとおりヨーロッパとアメリカでは国際研究拠点が整備されるていくわけです。ま、その後90年代に入って国際的な制約がなくなった後も、前述のとおり日本はガラパゴって自滅の道を歩んでしまうのですがね。。。
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こんな過去の話をしてもしょうがないのですが、半導体行政を担当しているとき思ったのは、他の国は半導体技術を国家戦略上絶対失ってはいけない技術として位置づけて、産官学が密接に連携する仕組みがあるのに対して、日本の産業政策は目標も明確でなく場当たり的であったが故にここに至ってしまったということでした。とはいえ25年前にはアメリカの半導体産業も死にかけの状態だったわけで、そこから産官学一体となって通商交渉も産業政策も標準化政策も特許政策も駆使して、そしてもちろんintelやIBMを中心とした民間企業の創意工夫もあってここまで巻き返したわけです。
そこで思い当たるのがルネサスなわけですが、この会社を失ってしまうとSuper-Hの発展という日本の独自コンピューターアーキテクチャ開発の道が事実上断たれてしまいます。だからといって無条件で救えなどというつもりは微塵もないのですが、このままじゃジリ貧なので、潰すなら潰すで、それが今後日本の国家戦略上どのような影響を及ぼすかそろそろ真剣に検討しなきゃいけないんじゃないかと思うわけです。自衛隊を国防軍化して、独自戦闘機を持つとか、宇宙進出を加速化するとかそういった構想をもし日本がもつならやっぱり組み込み用マイコンは不可欠ですからね。逆に中国なんかにその技術が漏れたら速攻大陸間弾道ミサイルを開発すると思われるので大変です。ちなみにかの有名な衛星「はやぶさ」のcpuはルネサス製(当時日立)のsh-3です。
ご参考:「近藤経産副大臣:外資のルネサス出資、規制対象の可能性も」 2012年10月05日 『bloomberg.co.jp』
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MBD2L51A1I4H01.html
んなわけで何が言いたいかわからなくなってきましたが、自分の短い半導体行政の経験を振り返るに「日本は国家戦略なき産業政策をつづけて、半導体という国家基幹技術の分野で米欧に敗れてしまった。」ってことと、そろそろ半導体と軍事や宇宙分野の関係に目を当てて、国防から通商から産業政策まで一貫した政策をとらなきゃボロボロと近隣諸国に軍事技術が漏れてしまいますよ、という話でした。
ではでは今回はこんなところで。
執筆: この記事はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログ ~目指せ、団塊ジュニア世代の反逆児~』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年10月07日時点のものです。
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