アカデミー賞に輝く名匠ロバート・レッドフォードが監督・主演を務めた『ランナウェイ/逃亡者』が10月5日(土)より全国公開。1969年、ベトナム戦争反対を訴え連続爆破事件をおこした過激派グループ“ウェザーマン”をテーマに、封印した過去を暴かれ、決死の逃避行を繰り広げる男の運命をスリリングに描いた話題作です。
この作品を自身も学生運動に参加経験があるテリー伊藤さんが絶賛。「あのとき僕らは懸命に闘った過去を後悔せず、今を生きろ!」など作品へのアツい想いを語っています。
●苦い過去を背負う男の切ない生き様
この映画はとても興味深く観られましたし、心揺さぶられる作品でした。まず登場人物の世代が近くて、物語の時代背景が僕自身の人生とオーバーラップするんですよ。かつて僕は学生時代、日本大学の全共闘に参加していて、体制に立ち向かう若者たちの闘いを描いた『いちご白書』(70年)という青春映画を観て涙を流したことがあるんです。『ランナウェイ/逃亡者』の登場人物も、まさにその時代にベトナム反戦運動に没頭していた人たちで、それから30年後の今、彼らがどんな思いを秘めて生きているかを描いている。青春時代の苦い経験を引きずっている彼らの生き様が、胸に切なく迫ってきましたね。
ロバート・レッドフォード演じる主人公ニック・スローンは、30年前の殺人罪で指名手配されている元過激派メンバーですけど、おそらく最初はピュアな理想を掲げて政治活動に身を投じたんだと思うんです。当時、そうした活動に関わっていた人たちって、みんな根が真面目なんですよ。
僕自身、大学内の集会に参加したとき、運動部の連中に石を投げられたことがあるんですけど、そこに駆けつけてきた警察は石を投げた連中ではなく、なぜか被害者である僕らの側を拘束した。「何で俺たちがパクられるんだ!」って話ですよ。これが18歳の時に初めて直面した社会の不条理でしたね。おそらくこの映画の登場人物の活動も、そうした社会の矛盾の中で過激化し、罪を犯すに至ってしまったと思うんです。映画で直接描かれないこうした背景が読み取れるぶん、なおさら切ない共感を覚えましたね。
●巨匠の晩年の作品には重いメッセージが込められている
社会が激動したあの時代を通過した世代の人たちは、つねに問題意識を持っているんですよ。僕自身も春になるたびに「あと何回、桜が見られるかな」なんて思いながら、日々を生きているわけです。おそらくレッドフォードも決して長くはない残りの人生を無駄にしないために、自分があと何本撮れるかを考えながら映画作りに取り組んでいる。だからこそ年を重ねて老いぼれるどころか、逆に感性が鋭くなっていく。黒澤明さんや宮崎駿さんがそうであるように、巨匠や名監督と呼ばれる人たちの晩年の作品には重いメッセージが込められているんです。
ではレッドフォードは、この映画で僕らに何を伝えようとしたのか。反戦運動や学園闘争に限らず、人間ならば誰しも「あのとき、ああすればよかった。ひょっとすると、もうひとつの人生があったんじゃないか」って過去を振り返るときがありますよね。この映画は、そういう観客に向けて「君たちは正しかった」と語りかけている気がするんです。「あのとき君たちは一生懸命闘ったはずだ。過去を後悔せず、これからを生きていけ」というメッセージがひしひしと伝わってきました。今どきこんなアメリカン・ニューシネマのような気骨のある映画を撮るレッドフォードって本当にすごいですよね。これぞ“21世紀のニューシネマ”ですよ!
『ランナウェイ/逃亡者』ストーリー
1969年、ベトナム戦争反対を訴え連続爆破事件をおこした過激派グループ“ウェザーマン”。
全米を震撼させFBIの最重要指名手配リストに載った彼らはその後忽然と姿を消した。
30年後、元メンバーの1人が突如逮捕される。新聞記者のベン(シャイア・ラブーフ)は、再び注目されたその事件を追ううちにある人物にたどり着く。それは、愛娘を男手1人で育てながら穏やかに生活するアメリカの模範的な市民、弁護士のジム・グラント(ロバート・レッドフォード)だった。危険を察知し再び逃亡するジム。ベンとFBI双方からの執拗な追跡。見えてくる事件の輪郭。30年間の逃亡の裏に隠された驚愕の真実が今、暴かれる!
実在した過激派組織“ウェザーマン”とは?
1960年代後半より活動。ベトナム戦争への反対を主張し、政府機関への爆破テロを繰り返すなど、ラブ&ピースを唱える理想主義的なグループとは異なる過激な反体制活動を展開した。戦争終結とともに組織は消滅し、主要メンバーの多くが自首、もしくは逮捕された。しかし一部、行方のわからない者もいた。
『ランナウェイ/逃亡者』10月5日(土)、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
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※こちらのテリー伊藤さんのコメントは、10月3日(水)発行の読売新聞に掲載された内容を一部抜粋しています。
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