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本物の「原子力電池」を作ってみた

2013/09/11 18:30 投稿

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本物の「原子力電池」を作ってみた

今回は今井智大さんのブログ『Orbital Railway』からご寄稿いただきました。

※すべての画像が表示されない場合は、http://getnews.jp/archives/414609をごらんください。

■本物の「原子力電池」を作ってみた

●自作原子力電池「RPEG-1(仮)」

本物の「原子力電池」を作ってみた

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)

http://getnews.jp/img/archives/2013/09/denchi01.jpg

十分な強度を持つアルミケースに収納しています。

本物の「原子力電池」を作ってみた

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)

http://getnews.jp/img/archives/2013/09/denchi02.jpg

有機半導体電解コンデンサに充電中の様子。しっかりと充電が可能です。

さてはて、このところ主に宇宙用の原子力電池などを調べたりしつつ本出したりしておりますが、なんとか本物の原子力電池を作ってみたいなあと昔から思いつつ、この度やっとできました!

原子力電池は放射性物質が放射壊変する際の崩壊熱や、放射線そのものを利用するため、半導体素子等による変換利用する基本的に能動的な動作機構を持ちません。そのため構造としてはかなり単純です。半導体を用いた変換方式としては以下の種類などがあります。


● 熱電変換…アルファ崩壊などによる崩壊熱とその温度差を利用します。

● β線変換…ベータ崩壊による電子によって直接PN接合半導体で直接発電します。

● 光電変換…ベータ崩壊による電子で蛍光物質を励起させ、その光で発電します。

他にも圧電方式や熱電子方式、熱光電方式、スターリング発電方式など様々ですが入手できる部品から考えるに、光電変換方式が一番作りやすいかと思いました。

まず考えなければいけないのが、放射性物質です。一番肝心で一番入手が難しいです。コレがなければ話になりません。

宇宙用の原子力電池で主に利用されるプルトニウム238なんて逆立ちしても手に入る訳がありません。

まずまともに熱電変換できるだけの崩壊熱を取れる量の放射性物質なぞ法的にも多分アウトです。

なので熱電変換や熱電子方式など熱による方法は無理です。…変換用のペルチェ素子は手に入れやすいのですが。

そうなると熱を用いない、非熱的発電方式となるとβ線、または光子による発電となります。

β線による直接発電としては、

「中国のECサイトで本物の『原子力電池』が販売中!20年交換不要」 2013年01月12日 『秒刊サンデー』

http://www.yukawanet.com/archives/4376941.html

で話題になったCityLabs社製のNanoTritiumバッテリなどが上げられます。水素の同位体であるトリチウム(三重水素)を最大で2Ci(1Ci=37GBq)程搭載し、放出されるβ線が持つ最大18.6keVの運動エネルギーを直接GaP(リン化ガリウム)の半導体素子で電力に変換するというものです。

主に軍事用としての利用が想定されていて航空宇宙・防衛企業大手のロッキード・マーチン社による耐久試験も行われたそうです。他にはペースメーカーなどの医療分野での利用も考えられるとの事。

で、仮にこれを輸入しようとすると、日本の法律で規制を受けないトリチウムの量は1GBqまでと制限されてるので74倍もオーバーしてしまいます。十数万円と非常に高価な上に税関で止められてしまうかもしれません。

しかしトリチウムなら規制値未満のものがルミノックス等の腕時計やキーホルダーの光源として使われてますので、放射性物質の中ではかなり入手しやすい部類です。

トリチウムは水素爆弾や核融合炉のD-T核融合反応において核燃料として用いられたりするものです。映画スパイダーマン2でも登場していました。

トリチウム光源は、ガラス管に封入されたトリチウムガスが出すβ線が蛍光物質を励起させ、その時に可視光線が発せられるというものです。自発光ですので何もしなくても光を出し続けてくれます。トリチウムは半減期が12年ほどなので12年経つと明るさはだいたい半分になることでしょう。

この光を用いて太陽電池による発電をするわけです。

このガラス管封入のトリチウム管を単品でネット通販にて購入しました。1GBqのトリチウムだと暗いところでボワーって光るのが見える程度なので、結晶タイプの太陽電池だと暗すぎて電力を起こせないでしょう、というか実際試してみたところ電圧が全く発生せず悲しい事に…

しかしアモルファスシリコンタイプの太陽電池であれば極端に光が少なくてもわずかながら発電することができます。屋内で使う電卓などに採用されているタイプです。変換効率は単結晶の方が良いのですが低光量の場合はアモルファスシリコンに分があるのです。

放射線源と変換用の半導体、この2つが手に入ればオッケーです。

作り方としては…


(1) 百円均一で買ってきた電卓をバラして太陽電池だけを取り出します。

(2) おもむろにトリチウム管をセロテープでくっつけます。

(3) おわり。

本物の「原子力電池」を作ってみた

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)

http://getnews.jp/img/archives/2013/09/denchi03.jpg

これがアルミケースの中に入っています。

外部からの光を遮光できるように、このユニットを某同人ショップの黒い袋で覆っています。

だいたい2000円くらいでできると思います。17万円の原子力電池よりだいぶ安くできました。

早い!そしてこーゆーの何か管制したら中二病なカッコイイ感じの名前つけたくなりますよね!ね!…外部からの光が入らない状態でテスタに繋いで、電圧が発生するか確認します。

結果としては0.004V発電しました。しかしベタっとくっつけただけだと一部分の光しか受け取れないので鏡などを使って反対側の光も太陽電池に当たるようにすると0.006Vくらいになります。

先に紹介したβ線を直接電力に変換するタイプと異なり、β線を蛍光物質で一旦光に変え、それをさらに太陽電池で電力に変換するという方式のために非常に効率は悪いです。

しかし1GBqのトリチウムガスは数十μg程度のごく微量な量で、さらに数%も無いような非効率な変換方法であっても、ごく僅かながらテスタで確認できる程度の電圧を得られる所に核エネルギーの大きさを感じる事ができます。

ちなみに安全性については量が極めて少ない事とガス状である事から万が一漏れてもすぐに拡散して薄まるので大丈夫です。また、海水などの水にも元々わずかながら含まれている物質でもあります。

この原子力電池はあくまで実験用なので、まともに動かせるようなモノは無さそうですが、手のひらサイズで原子力エネルギーを身近に感じられるものとして作ってみてはいかがでしょうか。

イギリスではバーミンガム大学での研究で、地下の水道管のリアルタイム監視システムの電源として、この「RPEG-1(仮)」とほぼ同じ方式の原子力電池が試作されています。

「Real time condition monitoring of buried water pipes[PDF]」

http://www.civil.uwaterloo.ca/catt/TrenchlessRoadshow2012/TRS%202012%20PDFs/5-2%20UIR%20Smart%20Pipes%20Presentation.pdf

「Real time condition monitoring of buried water pipes」 『ScienceDirect』

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0886779811001507

「地下の水道管のリアルタイムモニタリング」(英国バーミンガム大学 Nicole Metje博士による)

原子力電池は構造が単純であるため、宇宙空間などの苛酷な環境における信頼性も高いです。このような小型の原子力電池であれば重量も軽く、小型衛星の補助電源としても利用できないかな、と考えてたりします。

姿勢喪失時に万が一太陽指向が不能になってもハウスキーピングデータの維持などにも良いかもしれません。

H-IIAロケットなどでもよく打ち上げられるピギーバック衛星などの一つに原子力電池実験衛星とか出来れば面白そうです。

原子力は太陽光も届かない宇宙空間などにおいても非常に重要な技術です。現在は電源として利用されていますが将来には推進力としても運用され、外惑星探査に新しい展望をもたらすでしょう。

これからも安全で平和に原子力エネルギーが利用されるよう願うばかりです。

そして今日は日本発の人工衛星「おおすみ」が打ち上げられて43年です!

本物の「原子力電池」を作ってみた

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)

http://getnews.jp/img/archives/2013/09/denchi04.jpg

●追記:こんな感じでアルミケースに入れました

本物の「原子力電池」を作ってみた

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http://getnews.jp/img/archives/2013/09/denchi05.jpg

執筆: この記事は今井智大さんのブログ『Orbital Railway』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年09月09日時点のものです。

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